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二人で始める命魔法  作者: 龍華ぷろじぇくと
第一話、魔法使いは魔法書から
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捕らぬ狸の皮算用

 少女に連れられやって来たのは、見たことも無いような壮麗な城を中心に栄える城下町だった。

 町の外周は二メートル以上ある壁に囲まれ、厳かな鉄門が前門として設置されていた。


 あり得ない程に西洋風の建物で、日本男児である俺には空想の世界としか思えない。

 唯一違うとすれば、門番として兵士がいないことだろう。

 ゲームでは普通に居たし、現実でも殆ど動かない様、訓練された兵隊さんが銃を片手に直立不動で立っていてもおかしくないはずだ。

 それぐらいに仰々しい鉄門だった。


 まさか夢みてるのかと思いつつ、確認の為に思わず頬を抓ってみる。

 いひゃい。

 ダメだ、夢じゃない。


「何してるの?」


「な、何でもない」


 不思議そうに聞いてくる少女に被りを振る。

 どうなってるんだ? 俺、学校に向ってたはずだよな?

 ほら、学生服も着ているし、学生鞄も……ああ、獣に踏み砕かれたんだっけ。


 一応残骸と中身で無事だったものは拾っておいたけど。

 まさか歩道で寝たとか?

 それで夢を見ている?

 自転車に轢かれるぞ、早く起きろ俺。


 って、いやいや、さっき抓った頬は物凄く痛いし。

 ということは現実で存在しているわけですか、これ。

 改めて鉄門を見上げる。

 うん、ありえねぇ。


 隣の少女に視線を向ける。

 黒い三角帽は紐で首にかけられ、今は背中に止まっている。

 身体を覆うほどに長いマントで身体が隠れている。


 背丈は俺が目線くらいの位置。だいたい160前後だ。

 俺も男子の中では随分低い方だが、まさか自分より幼そうな顔の少女に抜かれるとは思わなかった。

 牛乳も毎日飲んでるし、そろそろ第二次成長というか、第三次成長というか、背丈がぐんぐん伸びてくるはずだ。

 すぐに追い抜いてくれる。


 髪は真っ赤なロングヘアだった。

 染めてるのかと思ったんだけど、どうも毛根から赤いらしい。

 突然変異か何かだろうか? なんにしろ珍しい自毛である。


 勝気な瞳はまるで睨む様な顔付きになっていて、視線は虚空を見つめていた。

 何か腹に据えかねることでも思い返しているのだろうか?

 不機嫌な顔をしているので話しかけづらい。

 自分がなぜここにいるのか聞いてみたい気もするが、絶対不機嫌に知らないわよそんな事。とか言われそうな気がして口から言葉が出てこない。


 単に女性と話すのが初めてとかそんなんじゃないぞ。どもったりしないんだから。ほんとなんだからね。

 おっと、思わずツンデレーションしちまったぜ、あぶねぇ。この女、なかなかやるな。俺をツンデレ化させるとは。


 手には先程まで跨っていた竹箒を持っていた。

 一体、どうやって浮いていたのだろう?

 マジックとは程遠い、まるで本当に魔法で空を飛んでいたようだった。

 あ、でも魔女ってたしか魔法じゃなくて塗り薬を塗ることで空飛ぶんだっけ?


 俺の視線に気付いた少女は何か言うでもなく、俺を無視して一歩前にでる。

 鉄門に向かい両手を広げる。

 何をする気だ? 気でも狂ったか?


「アビージオ・デルラ」


 するとどうだろう。

 少女が意味不明の言葉を吐いた途端、鋼鉄の扉が音を立てて開かれていく。

 アレか、これが噂のモーゼの海割りか? いや、アリババと盗賊のアレか。開けゴマみたいな合言葉か!?


「ほら、こっちよ」


 門を開いた少女に促され、街中へと足を踏み入れる。

 石畳で舗装された道に、レンガ造りの家々が連なる。

 それは、まさにゲーム世界に存在するような街並み。

 道の傍らでは露天商が商品を並べて座り、行きかう人に混じって馬車が走っていた。


 家の間に吊るし看板も幾つかあり、ベットのマークや、剣のマーク、袋のマークの入った看板などが見受けられた。

 どうやらあれが店なのだろう。宿屋とかはベットマークで分かりやすいが、秤のマークやニッコリマークの舌だしバージョンみたいなマークは何を現しているのか凄く気になる。


「ルイークス・デルラ」


 街を見渡していると、隣にいた少女が扉に振り返って再び両手を上に掲げる。

 またも意味不明の言葉を呟き、鉄門を閉じていた。

 いや、鉄門が閉じていた。ひとりでに、だ。


「あのさ……」


 それ、どんなトリック? と聞こうかと思ったのだけれど、少女は無視して歩き出す。


「ちょ、どこに?」


「付いてきなさい、魔法学校に向うわ」


 ……魔法学校? 今、魔法って言った!?

 え? なになに、これってもしかしてアレか?

 今流行りの、I・S・E・K・A・Iって奴?

 いや、流行りかどうか知らないけどさ、どう考えてもそれしかないっしょ。


 ってことは、俺、この世界で魔王倒したりとか、勇者になったりとか、王女と結婚してウハウハとか?

 うおおおおおおっ、やべぇ、これはヤバス!

 来たよ時代! まさにエンドレス俺のターン!

 この世界でハーレム王国を創れと、天のお達しなのですね、神よ!


「ちょっと、キモい顔してないで早く来なさいッ」


 キモ……ま、まぁいい。余は大変気分がよい。

 お前のそのツンデレのツン系言葉遣いもこの先を想像すれば可愛いものよ。フフ、ハァーッハッハッハ。

 っと、また言われないうちに付いていくか。

 キッと睨まれ、俺は慌てて彼女に付いていくのだった。

※ 役に立たない豆知識


捕らぬ狸の皮算用


 得てもいないのにその後のことに思いを馳せること。

 転じて異世界に来た理由も知らないのに勇者になるとか将来を思い浮かべる様。

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