プロローグ
始まりました次作品。
先に言っておきますが戦闘らしい戦闘は殆どありません。
サイルさんとルーフィニさんによるキャットファイトくらいです。
なにせ主人公は契約するまで魔法が使えない状態なので。
俺は茫然としていた。
目の前には一匹の獣。
巨大な体躯で立ちはだかり、大きな口を開けていた。
見たことも無い容姿の化け物。唸りを上げて寄ってくる。
あまりにも急な状況変化に、俺はただ立ちつくすのみ。
逃げようなんて考えすら浮かばなかった。
獣臭い口臭と、唾液塗れの鋭い牙が近づいてくる。
意味が分からずただただ見つめる。
無防備に自分の身体を晒していることにすら意識が行かない。
何だこれ? 何だこれ?
意味のない言葉の羅列が脳内を回る。
何が起こってこんな状況になったのか?
しがない中学生の俺には全く理解できなかった。
登校していたはずだった。見慣れたいつもの道のはずだった。
でも、ある時、踏み出した足が草に触れた。
気が付くと草原に踏み出して、周りの喧騒も消えていた。
しばらくその場で戸惑っていると、やってきたのがこの獣だ。
せめて考えがまとまるまで待ってくれ。そんな思いを投げかける。
だが、獣は待ってくれない。
思わず身の危険を感じ、俺は学生鞄を放り投げ駆け出した。
鞄が獣に当り、幸運にも仰け反る獣。
多少距離は空いたが、攻撃されたと憤った獣が走りだす。
鞄が獣に踏み砕かれた。
逃げる背中を追う獣。
思わず口から悲鳴が漏れる。
ありえない。ありえねぇ。夢だと言ってくれ!
その差はすぐに縮まってしまい、後いくらもしないうちに背後から一撃。
前足に踏まれ息が詰まる。
もう……逃げ切れない。
恐る恐る後ろを振り返る。
大口開けた獣の牙が、やけに白かった。
あ、終わった。そんな事を思った時だった。
「見つけた!」
絶体絶命の俺に天からの助け。
日光を背に空から少女がやってくる。
箒に跨る黒マントに三角帽の少女。
魔女。そんな言葉がよく似合う少女は、獣の前に降り立つと、獣に向かい掌を翳す。
獣も、それに気付き俺を喰うのを後回しにして首を上げた。
何かを察し、吠える獣。そんな獣の鼻先に掌が触れる。
「ラ・グ!」
少女の掌から稲妻が放たれる。
バヂリと音を響かせ獣に襲い掛かる。
雷撃を鼻面に受けた獣は悲鳴を上げて逃げ出した。
後に残ったのは俺と少女。
「生きててくれて助かったわ。大丈夫?」
俺に向い微笑みながら手を差し出してきた。
真っ赤な長い髪が風に煌めき思わず俺の視線を奪う。
これが、俺と彼女の初めての出会いだった――――