出会い
この世界には大きく分けると国が5つ存在している。
一つ一つの国には、守護竜と呼ばれる竜が一体。
王族と契約を交わしてその国に仕えるのだ
戦争は人の手で行われず、その守護竜同士の戦いで勝敗が決まる。
だから人は竜を強く育て、自分の国を豊かに繁栄させてきた
しかし、5つ国が存在する内の今、守護竜は4体しかない。
つい最近、守護竜同士の戦い、【サバト】で一つの国が敗北した。
そう、竜が死んだのだ。
降伏するか、命を奪うまでサバトは止まらない。
現在、敗北した国では新たな守護竜探しが始められている
少ない仲間の死に、何ともいえない気持ちでいっぱいになる。
会ったことはないけれど、
お疲れ様。
心の中で言い、川に摘んだ花をサーッと流す。
ふと、血の匂いが辺りに漂っていることに気付いた。
嗅いだことある、特徴ある人の血の匂いだ。
今日は満月だし、魔物も血の匂いに誘われてその根源である人へと行き着くだろう。
そうすれば、当然食べられてしまう。
私はあまり、魔物は好かない。
話が分からない奴等ばかりだし、よく花畑を荒らしてくる
だからたまに迷い込んだ人を逃がしてやったりしている。
今日もそんな気持ちで血の匂いを辿っていった。
-
歩いていくと、一本の木に辿りついた。
根元から匂うから、きっと窪みにでも隠れているのだろう
そっと覗き込むと、見開かれた海色の目が私を捉えた。
「・・・ッ」
とても小柄で、小さな少年だった。
怯えた瞳で体を縮こまらせている
「大丈夫、私は君の味方だよ」
小さな顔が涙に濡れてゆがんでしまっている
「・・・ほんと?」
少し警戒の色を薄めた少年が言った。
目には涙が溜まっていて、ちょっと可愛い。
「うん、食べないから出ておいで」
時間を置いて、決意したように少年は窪みから出てきた。
月明かりに少年の金髪が反射し、キラキラと光を放っている。
綺麗な色をした目からは、まだ涙が流れている
私はしゃがみ、少年に目線を合わせると親指で、そっと涙を拭ってやる
怪我をしている場所は・・・足か。逃げる際に木で切ったのだろう。
「足、痛い?」
私が問うと、少年はコク、と首を縦に動かす。
よし、私が治してあげる
「お姉ちゃんが痛くなくなる魔法してあげるからね」
そっと足に手を当て、治癒能力で軽い止血をする。
今まで俯いていた少年がはじかれたように顔を上げ、自分の傷をしげしげと眺める。
「ほら、痛くないでしょ」
少年は、涙でぐちゃぐちゃになった顔で笑いながら、うん!と言った。
私も答えるように微笑むと、自分達の周りを取り囲む気配に気付いた。
「黒リュウ、ジャマスルナ。」
「俺達ノエモノ」
「ガキ、置イテ巣ニカエレ」
爛々と獣じみた目を光らせながら魔物は淡々と言った。
少年がギュッ、と私の袖を掴むのが分かる。
「こくりゅう・・・?」
「お姉ちゃん、1人ぼっちの竜なの」
竜とは、本来まとまって村で暮らすものである。
少し、声が震えて、村から追放されたときの事を思い出した。
頭をふり、現状を何とかしようと魔物を睨む。
「少年、君の住む国はどこかな」
「ギルティ王国だよ」
ギルティ王国といえば、この森を抜けた先にある王国だ。
確か・・・敗戦国だ。
「分かった、じゃあちょっと耳を塞いでくれる?」
え、と少年は何をするのかという目で私を見たが、やがて耳を手でおさえた。
それを確認すると、数歩魔物のほうに出て、スゥ・・・と息を吸い込む。
『グオオオオオオン!!!』
地を震わすような咆哮とともに、体を竜へと変える。
魔物は数m先まで飛ばされ、木へと衝突した。
大きな黒い翼、鋭い爪と牙、立派な尾。
美しい黒き竜が少年へと頭を垂れた。
『・・・怖い?』
私が言うと、少年は目を輝かせながら言った
「ううん、怖くない。格好良い」
格好良い、か。
そんなこと言われたの初めてだよ。
『背中、乗れる?