銀色の龍 2話
翔が家に入るといつものように机の上にぽつんと翔の分の食事が置かれており、人影はなかった。
きっとまた部屋に閉じこもって兄のアルバムでも見てるんだろ。
翔はお昼を食べていないことを思い出した。
椅子に座り遅い昼食を食べ始めた。
今日はカレーライス。
「おいしそうだな。」
翔は声のする方を振り向いた。
「あのときの!」
龍はこちらに向かってパタパタと飛んできた。
「何しに来たんだ?」
翔はイライラしながらたずねた。
龍は翔の目の前に座り込むとしっぽをつかんでもじもじしながら言った。
「僕のディパンになってくれ。」
「ディパン?」
「相方みたいなもんだ。一緒に旅に出よう。」
「・・・・・」
「君の血を僕の背中につけてくれたら契約成立だ。血はほんの少しでいいんだ。」
「嫌だね。」
翔が言い放つと龍はとぼとぼと歩いて机のはじまで行くと、窓から外へと飛んで行ってしまった。
「はぁ・・・。」
翔は僕がいなくなったら両親がよけいに悲しむと思っていた。
いや、そうなって欲しいと願っていた。
そういえば昔から父さんも母さんも兄さんばかりに優しくしていた。
僕に対しても決して優しくないわけじゃないけど、どこかよそよそしかった。
僕は愛させていないんだ。
いつもそんなふうに感じずにはいられない。
だから、怖いんだ。
僕がいなくなっても痛くも痒くもない両親を見るのが。
翔はいきなり立ち上がると龍の後を追いかけた。
どのぐらい走っただろう。
僕にはとっても短い時間に感じられたが、太陽はすでに姿が見えなくなっていた。
最初に会った丘につくと、龍は寂しそうに切り株の上で頭をたれて座っていた。
「僕、ディパンになるよ。」
翔がそう言うと、龍が振り返り抱きついてきた。
「ありがとう!!でも、急にどうしたの?」
「もしかしたら行方不明の兄さんも僕みたいに龍に出会って旅に出たのかもしれない。兄さんは僕たちが悲しむからって別れも言わずに行ったのかもしれない。そうだとしたら旅に出れば会えるかもしれないだろ!」
翔の声は弾んでいた。
「僕は翔よろしく。」
「僕は龍王の息子、ウィンだ。」
翔とウィンはお互いの手を取り、握手をした。
「何だあれは?」
ウィンはつぶやいた。
翔が後ろを振り向くと村の方の空が赤く光っていた。
焦げ臭いにおいが森中を包んでいる。
何かが燃えている・・・?
「村が燃えている!行かなくちゃ!」
翔は叫ぶと走り出した。
村は火の海だった。
生き地獄という言葉がこれぼどふさわしい場所は他にはないだろう。
道にたくさんの人が倒れている。
血を流している人もいれば焼け焦げた人もいる。
そこら中からうめき声が聞こえ、以前の村の面影はどこにもなかった。
「何があったんだ?」
あまりのひどさに翔は息をのんだ。
「翔、家に戻ろう。」
翔は黙ってうなずき、村の中へと歩き始めた。
小さな星がこの村に落ちたのだろうか。
夜だというのに村の中は昼間のように明るい。
家につくと、火の中で人影が動いた。
「父さん?母さん?」
翔の声は震えていた。
人影が翔の声に気がつき、外に出てきた。
その姿を見て翔は凍りついた。
「・・・・兄さん?」
少し長めの黒髪に引きずりそうな長いコート、胸には逆さまの十字架が不気味に輝いている。
冷たい微笑みを浮かべるその顔は確かに翔の2つ年上の兄、光だ。
「あの右手。」
と、ウィン。
光の右手を見ると、手の甲に複雑な紋様が青白く浮き上がっている。
「あれはディパンの契約を結ぶとできるんだ。あの紋様を使って龍の力を操ることができるんだ。」
やっぱり光は龍と・・・・・・。
じゃあこの炎は光が?
「ウィンじゃないか?」
声と共に青い色の龍が光の後ろから出てきた。
光も長身だが、龍は光よりも大きい。
そして炎より赤い瞳でこちらを見つめている。
「・・・・・・パリス。」
ウィンの顔は驚きでいっぱいだ。
「知り合い?」
翔の問いにウィンは顔を曇らせた。
「僕の兄だ。」
ウィンの兄!?
まさかウィンの兄が光のディパンだったなんて。
ずっと黙っていた光が口を開いた。
「おもしろいもんだな。お前がパリスの弟と組んでいるなんて。」
光は皮肉に微笑んだ。
以前こんな笑い方をする光ひ翔は見たことがなかった。
「お前だけは助けてやろうと思っていたのに。事情が変わった。」
「何でこんなこと・・・。」
「パリスを龍王にするのに邪魔だったから。それだけのことさ。」
光の声はとても冷たかった。
村一つ滅ぼすことに何の罪悪感もないらしい。
光はこんな人間だっただろうか?
それとも僕がしらなかっただけだろうか?
いずれにしてもここで止めないと。
翔はウィンの肩をつかんだ。
「契約をしよう。」
翔の力強い声にウィンは頷いた。
翔は大きく息を吸うと光を見つめた。
翔は手をかじり血をウィンのひたいにたらした。
すると二人の足元に魔方陣が現れた。
魔方陣は銀色に光り、くるくると回転しながら上へとゆっくり登り始めた。
ちょうど頭の上までくると、音もなく砕け散り雨のように翔にふりそそいだ。
右手がポウッと熱くなり魔方陣が浮かび上がった。
不思議な感覚だ。
体中が温かい。
右手がとてもピリピリする。
これがウィンの力。
翔は右手を光に向けた。
怒りに任せて力を放つと翔と光の間に雷が落ちた。
「そんなんじゃ当たらないぞ。こうやるんだ。」
光は翔に向けて炎を放った。
炎はグルグルと円を描きながら迫ってくる。
しかし、翔は恐くなかった。
心の奥深くから熱く、しかしどこか冷静な感情が溢れ出てくる。
翔は炎を手を伸ばし受け流した。
「もう、兄なんて思わないよ。」
翔はそう言うと右手に力を込め、光に向けて力を放った。
翔の放った力の塊は鳥の姿になり、一直線に光に向かっていった。
光はよけることもできず直撃した。
ボロボロになった光を見て翔は胸が苦しくなった。
「クソッ!!いったん退くぞ。」
そう言うと光は消えた。
ため息をつくと、翔はその場に座りこんだ。
「大丈夫か?翔。」
「あっ、父さんと母さんは!」
翔はがれきの山に入って行った。
ここに家があったなんて信じられないほど無残に焼けている。
今朝父さんが座っていたソファーのあった場所、母さんがうずくまっていたキッチン。
今まで当然のようにあったものが一瞬にしてなくなってしまった。
翔は声を出して泣いた。
「・・・・・・翔。」
かすかな声が翔の後ろから聞こえた。
「母さん!」
翔は母に駆け寄った。
母の姿は悲惨だった。
服も肌も焼け焦げている。
母は声を振り絞って言った。
「翔、ごめんね。あなたのことを愛していたの。光がいなくなったことでいっぱいでそれを伝えられなかった。」
「僕、ずっと母さんや父さんに愛されてないって思ってた。」
「あなたとどう接したらいいのかわからなかったの。だってあなたは・・・・・・。」
言葉の途中で母は力尽きた。
翔は母を抱きしめると、敵をとることを誓った。
いくら兄でも許せない。
これが両親に対してやることか?!
あんなに兄さんがいなくなって心配していた両親を。
翔が母を埋めようと持ち上げるとポケットから何か光る物が落ちた。
「翔!!これ!!」
翔は母を下ろすと光っていたものを拾いあげた。
紫色に輝き丸い形をしている宝石だ。
「宝石?」
「そう!これにいれて。」
ウィンはそう言うと、金色のブレスレットを取り出した。
そのブレスレットには7箇所丸く穴があいているところがある。
ウィンは翔から宝石を受け取ると、穴に差し込んだ。
ちょうどぴったりのサイズだ。
ウィンは翔の方を見ると真剣な顔をした。
「こうやって7つの宝石を手に入れて先に完成させた方が王になる。」
「じゃあ、兄さんはこれを探していたんだ。」
「パリスより先に全部手にいれないと。」
「そうだな。」
そう言うと翔は立ち上がった。
空はうっすらと明るくなっていた。
「出発だ!」