銀色の龍 1話
翔の朝の目覚めはいつも最悪だ。
今日もリビングで両親がケンカしている。
原因は突然いなくなった兄だ。
何でもできる自慢の息子が姿を消し、残ったのができそこないの息子だ。
きっと何で僕じゃないんだって二人とも思ってる。
翔はリビングへと続く階段を下りると、キッチンに向かいパンと冷蔵庫からサラダを取り出しいつもの席に座った。
リビングではキッチンの隅で小さくうずくまって泣いている母と、ソファーに座りながらテレビを見ている父がいた。
お互い声をかけるでもなく、まるでここには自分以外存在しないかのようなそぶりだ。
「・・・おはよう。」
翔は小さくつぶやいてみる。
しかし、返事などかえってこない。
これもいつものこと。
この家には家族というものはない。
でも、兄がいるときはこんなんじゃなかった。
毎日あさからにぎやかで父さんはいつも僕のとなりで新聞を読みながら世の中のことを僕たちに話てくれた。
母さんはキッチンでいつもコトコト何か料理をしながら僕たちの会話を聞いて笑っていた。
兄さんはいつも家族の中心で笑いがおこる場所には必ず兄さんがいた。
兄さんのいなくなったこの家は静まりかえってしまった。
父さんが急に立ち上がると翔の方をチラッと見て外へと出て行った。
その後をヒステリックぎみの母さんが追った。
外からはまた怒鳴り声が聞こえ母さんが荒々しく中に入ってきた。
しかし、僕にかまうことなく奥の部屋へ行ってしまった。
あの人たちは知っているだろうか。
怒られるより無視される方が心が痛むということを。
翔は朝食を食べ終えるとりんごをリュックに入れて外へ出た。
翔の家は村のはずれにあり、裏にはすぐ大きな森が広がっている。
この森を越えると小さな丘になっているところがあって、その先は崖だ。
この崖は高さは100メートルは軽くありそうなくらい高い。
その崖の先に立つと、城が見える。
おもちゃのように小さく見えるけど本当はすっごくでかいんだろうな。
丘は僕と兄さんの秘密の遊び場。
村の子供たちは森に入ると迷って出てこれなくなるので誰も近寄らない。
でも、兄さんが迷わずに行ける道を教えてくれた。
兄さんは何でも知っていた。
食べられる木の実や鳥の名前、昔話やずっと遠くのお城のこと。
そんな兄さんがいなくなったんだ。
僕だって寂しくないわけがない。
でも、父さんや母さんの方がもっと悲しいみたいだ。
森を抜け、丘にでると古い切り株の上に腰を下ろした。
「空はこんなに青いのになぁ。」
翔は寝転んだ。
「痛いっ!!」
翔の背中から甲高い声が発せられた。
翔は驚いて立ち上がると声のした方を見た。
「ドラゴン?!」
翔はあまりにビックリしたので声が裏返ってしまった。
「痛いなぁ。羽が折れたらどうしてくれるんだよ!」
龍はそう言うと後ろを向いて翔がふみつけた羽を見せた。
その龍はとても小さかった。
立っても切り株ぐらいの高さしかないから50センチくらいか。
龍の鱗は銀色で太陽の光にあたりキラキラ輝いていた。
ひときわ目を引くのが金色の瞳。
鱗が銀色だから瞳だけがういて見える。
それにしても小さい。
「お前!小さいとか今思っただろ!!これでも本当の姿はもっと大きいんだ。人間のいる世界に来るときはばれないように小さくなってるだけなんだ!」
「でも、僕にばれちゃったね。」
翔の言葉を聞き龍は固まった。
「やっちゃったぁ・・・・・・。」
龍は頭を抱えこむと周りをくるくるとまわった。
「大変だ!!最初に姿を見せるのはディパンだけって言われたのに・・・。これじゃあパパに怒られちゃう。」
龍は半べそをかきながらぶつぶつ独り言をいっている。
なんなんだこいつ。
翔はあきれ声で言った。
「じゃあ、会わなかったことにすればいいだろ。」
「え?」
「だいたい龍に会ったなんて誰かに言ったって信じてもらえるわけないし、言わないよ誰にも。」
「ダメなんだ。僕のパパは龍の世界の王様なんだ。何でもお見通しなんだよ。君が僕に会わなかったって言ってもパパにはばれてる。」
「じゃあ、謝りにいけば?」
「行けるわけないだろ!パパは怖いんだ。約束破るとパパのざらざらした手で鱗を逆撫でされるんだ。あのぞわぞわってした感じ・・・・うぅ、考えただけでも恐ろしい。わかるだろ?」
「多分、同じ龍だったらわかるだろうね。」
龍は頭を抱えたまま地面に倒れた。
「だいたい、何でこんなところに龍がいるんだよ。」
「龍は大人になるために人間界に一度修行をしに来るんだ。そこで一人の人間と組んでその人間が死ぬまで一緒に旅をするんだ。」
「お前はまだどう見たって修行って年じゃないだろ。」
「そうなんだよぉ。僕にはお兄さんがいるんだ。それで、どっちが王になるかこの修行で決めるって言われて。まだ僕は小さいから課題をこなせば帰れるんだけど・・・。」
「じゃあ早くこなして帰れよ。」
「人間界に来て一番最初に見られた人間と組まなくちゃいけないんだ。君と組んだら一生帰れないよぉ。いやだぁ!!」
「それはこっちのセリフだ!もう帰れよ!!」
翔はそう言うと龍に背を向けて歩き出した。
すると龍は慌てて翔の足にしがみついた。
「待ってぇ、行かないで!!」
「放せ!!」
翔は龍を振り切ると駆け足で家へと戻った。