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Don't Touch!  作者: 鳴海 葵
Lesson1
9/127

file2 「uncontrollable」

「ねぇ、香奈、宮元先輩とホントに付き合うんだって」


 いつもの昼休み。

 嬉しそうに、彼女らのひとりが私に言った。


「ほんとに!? すごいじゃん、良かったね、香奈も」

「だよねぇ」


 笑顔で本当に嬉しそうで。

 私も、心にもない「良かった」なんてこと言っちゃって、アンタみたいに笑ってるんだろうな。

 それで、一ヵ月後に彼女を慰める。

 それが本当になっちゃいそうだ。


「あ、そうだ。しおり、この前のノート、貸すよ」

「助かるー。ありがとう」


 そう、この前、保健室に行ってた間の授業のノート。

 誰かに頼もうと思ってたんだけど、タイミングよく彼女が差し出してくれる。

 私は、ありがたくそれを受け取った。


『すぐ振られちゃうのにね、香奈もバカじゃん』

「え……?」

「あれ? 数学じゃなかったっけ?」

「あ、ううん、なんでもないの。ありがと」


 今、お互いに触れ合ってる、この彼女のノートを通して、彼女のココロのが聞こえてくる。


『しおりもよく授業サボるわよね。頭悪いのに』


 にっこり笑って、彼女はノートから手を離した。

 だから、嫌なんだ。

 彼女はそんなこと思ってるけど、香奈が先輩と付き合うことを望んでいたはずだし、きっと振られたって、ちゃんと慰めてあげるはずだ。

 それに、私にノートを貸してくれる。

 優しい子だよ。

 だって、口に出したりしないんだから。

 ちゃんとわかんないように、隠して……。

 言っちゃいけないことってある。

 言わないほうがいいことってある。


 そう、結局、聞こえる私が悪い。


 世の中はすっかり便利になったから、遠いところに住んでるお姉ちゃんとも、わざわざ国際電話しなくたって、メールで簡単に連絡を取ることができる。

 一応、ホリちゃんの周りで起きたことを書いておいた。

 ついでに、お姉ちゃんのおまじないの使用期限が切れたってことも。

 完全に切れたわけじゃないけど、時々こうやって拒む間もなく、意識が入り込んでくる。

 メールの返事はまだこない。

 助けてよ、お姉ちゃんしかいないんだから。

 こんな私の気持ち、わかってくれるの。


 それにしても、他人の意識が自分の中に入ってくるのって、ホント、疲れる。

 あの日から、ずっと頭は重い。

 こうやって声が聞こえるたびに、心拍数が上がって、カロリー消費されるみたいで。

 いいダイエットになるかもね。

 なんて、別に私はこれ以上やせなくたっていいや。

 それよりも、ホリちゃんみたいなグラマーになりたいよ。


「そうだ、今日の集会で、先輩表彰されるんだって」


 香奈が、ちょっとだけ照れながら言った。

 周りもそれにきゃあきゃあ言ってる。

 この学校特有なのかもしれないけど、毎月末に行われる集会で、その月の優秀者が表彰されるのだ。

 成績や部活はもちろん、ボランティア活動や校外のことでも優秀な活動を行った者が、厳選される。

 もちろん、私には縁がない。

 今時は小学校の運動会でも順位をつけないっていうのに、ここじゃ、何から何まで順位をつけて、エリートを養成、そして、達成者は賛美される。

 変な世の中。

 そして、いまや香奈の彼氏となった宮元先輩がそのひとりとして体育館のステージに上がるのだ。

 といっても、宮元先輩は、この表彰式の常連なんだけどね。

 

 ホント、縁もなく、そうされることをバネに頑張れるほど、プライドなんてものも持ってない私にとって、この集会は意味が無い。

 早く帰って、パソコンの電源つけてメールチェックして。

 今日返事がこなかったら、もうコレクトコールでかけてやる。

 だらだらと廊下に並んで、クラスごとに体育館へ移動。

 集会が始まると、毎度お決まりの理事長の挨拶があって、表彰へ移る。

 名前と功績を読まれて、数名がステージ上に並んだ。


「あ、先輩だ」


 私の前にいた香奈が、振り返って私の手首をつかんで頬を赤らめる。

 そして、また先輩の方を見て、小さく手を振ると、こっちを向いた宮元先輩が、香奈に向かって微笑んだように見えた。

 潤んだ目を輝かせて、恋する乙女はうっとりしてる。


『先輩、超カッコイイ。大好きだよ』


 あったかい、熱いくらいの気持ちが伝わってくる。

 そっか。

 香奈は本当に、本当に、先輩のことが好きなんだね。



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