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Don't Touch!  作者: 鳴海 葵
Lesson3
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file1-3

 北原はそういうと、私と同じように……私以上にこの光景に驚いて固まっている川島くんに温室の水遣りを頼むと、突然現れた彼女と腕を組んだ状態のまま、私たちに背を向けて歩き出した。

 楽しそうに北原に話しかけながら、彼女がこっちを振り返った。

 そして、口角だけ上げて笑った後、その装飾された大きな目で私を睨んだ気がした。


「なにあれ」


 先に口を開いたのは私だ。


「なんか、感じ悪っ」


 あの状況を説明してくれない北原も、振り返って不敵な笑みを浮かべた彼女も、何なんだ?

 沸々とこみ上げる怒りにも似た感情をぶつける場所がなくて、私は川島くんを見た。

 川島くんの方はというと、私を横目で見ながら怪訝な顔をしている。


「ほら」

「え?」

「ちゃんとつかまえとかないから、こんなことになるんだぜ?」

「……って、カンケーナイし!」

「だったら、何そんなムキんなってんだよ」

「それは……だって、ほら、あんな彼女がいるなら、言ってくれればいいじゃない?」

「しおり」

「な、なに?」

「素直になれよ」


 真顔で川島くんは私の肩をぽんと叩く。


「そういうの、ヤキモチっていうって知ってる?」

「そ、そんなんじゃないっ!」


 そんなんじゃない。

 胸を締め付けるこの感じは、確かにヤキモチってやつに似てるかもしれない。

 だけど、違う、違うはずだ。


「こういう大事なことを言ってくれなかったのが、ちょっと淋しいだけよ」

「ふうん、『大事なこと』、ねぇ」


 うんと頷く私に、川島くんはまだ疑いの眼差しを向ける。

 頷いた私も、大事なことと言っておきながら、そんなことを言い合うような関係じゃないと頭のどこかでわかってる。

 いつも隣にいるけれど、北原のそういうことって直接聞いたことがない。

 たぶん、言わないタイプだと思うけど。

 でも、それならそうと……。

 堂々巡りする気持ちをかき消したいのに、私の脳裏には、さっきの彼女の嫌な笑顔がこびりついて離れない。

 絡んだ腕を、振りほどかなかった北原の背中も。


「しおり、本当のところ、どうなんだよ」

「なにが?」

「伊吹のこと、好きなんだろ?」

「別に……好きとか、っていうわけじゃないけど」

「けど?」

「あー、もう、いいじゃないっ。北原にはめでたく彼女ができましたっ、終わりッ!」


 私は川島くんを置き去りに、その場を離れた。

 ふと、こんなにムキになってる自分に気がついて恥ずかしくなる。

 そうだ、北原に彼女ができたっていいじゃない、それを北原が私に教えてくれなかったからって関係ないじゃない。

 自分にそう言い聞かせても、どうにも気持ちが落ち着かない。

 北原に彼女ができたのなら、私と彼が付き合ってるっていう誤解もはれるのに。


「そうそう、喜ぶべきなのよね」


 小さい声で自分自身の気持ちを確かめるように呟く。

 北原のことを大好きなクラスメイトで親友の相沢香奈あいざわ かなにも教えてあげなきゃ。

 ああ、だけど、こういうことって言わない方がいいのかな……。

 私の足は自然と園芸部の活動場所でもある温室へと向かっていた。

 途中、楽しそうな女の子の笑い声にふと玄関の方へ目を向けた。


「げ」


 よりによって、さっきの彼女、だ。

 ってことは、その視線の先にいるのは、もちろん北原で。


「うっそ」


 私はまた驚かされて、口をぽかんと開けたまま廊下に立ち尽くした。

 北原が、笑ってる。

 それも、いつもの嫌味たっぷりないやらしい笑い方じゃなくて、目を細くして、本当に楽しそうに口を開けて、あははなんて声出して笑ってる。

 誰かと北原がこんなふうにおしゃべりをしてるところなんて、初めて見た。

 これって、ものすごく貴重で一大事で、私には天と地がひっくり返っちゃうような出来事で。

 彼らは愕然としてる私に気付くはずなんかなくて、そのまま校舎を後にした。

 お似合いカップル、なんて彼らにピッタリの言葉だ。


「………」


 脱力した体も足も重くて動けない。

 理由なんてわからないけど、悲しくなる。


「し、し、しおりちゃんっ!!」


 その震えた叫び声に、私は思わず肩をびくりと震わせ振り返った。


「何あれ、誰、誰、今の見た!?」


 慌てふためいて、悲壮感たっぷりの表情で立ち尽くしていたのは、タイミングの悪い香奈。この世の終わりが来てしまったとでも言いそうだ。


「なんで? どうして? 一体どういうことっ!?」


 柔らかそうな頬を赤らめて、人形みたいに可愛い目をぱちぱち瞬きさせる。

 その瞳はうっすらと涙を浮かべてるように見えた。


「しおりちゃん、何が起きたのっ」


 すごい剣幕で詰め寄ってくる香奈に、私は首を傾げるしかない。


「さぁ……」

「さぁって」

「私にも、よくわかんないよ」


 ホント、どういうことなのか、こっちが聞きたい。


「許せないっ!」


 両手をぐっと握りしめて上下に振りながら、香奈が叫ぶ。


「私、北原くんとしおりちゃんが付き合うんだったら許すけど、他の人と北原くんが付き合うなんて、絶対許さないーっ!」

「な……」


 どーしてそうなるわけ!?

 香奈の思考回路はよくわかんないし、好きな人が誰と付き合おうとしょうがないと思うんだけど。

 いつもニコニコ可愛く微笑んでる香奈が、ここまで怒りをあらわにするのは珍しくって、おかげで私の消化できない感情も落ち着いて、冷静になってきた。

 そうだ、誰が誰と付き合おうと、私には関係ない。

 イライラしたり、不安になったりする必要なんてないんだ。

 そう思うのに、やっぱりどこかで負の感情を消すことができなかった。


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