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Don't Touch!  作者: 鳴海 葵
Lesson1
5/127

8years ago 2

 なんで、わたしはみんなと違うの?

 どうして、こんな声が聞こえるの?


「ねぇ、お姉ちゃん」

「しおり、どうしたの?」


 大好きなお姉ちゃん。

 わたしより十歳も年上だけど、わたしのこと、ちゃんとわかってくれる。

 ちゃんと話を聞いてくれる。

 私がココロの音、声が聞こえるのも知ってる。

 お姉ちゃんは、そんなわたしのこと、大好きだって言ってくれる。

 学校であったことを話しても、しおりは悪くないって言ってくれた。


「でもね、しおり」

「……?」

「みんな、口に出せないから、心でお喋りするのよ。だからね、本当は秘密にしておいてほしいこともあるの。それが、例え本当のことでもね、時には言ってはいけないこともあるのよ」

 

 本当のことを、言ってはいけないの?

 わかんないよ。

 わたしは悲しくなった。

 涙をこらえてたら、口も目も眉毛も、真ん中にぎゅって集まるみたいになった。

 お姉ちゃんは、優しい顔してわたしを抱きしめてくれる。


「じゃあね、お姉ちゃんがおまじないしてあげる」


 お姉ちゃんの顔を見上げたら、お姉ちゃんは人差し指で、わたしのおでこをそっと押した。


「しおり、目を閉じて」

「うん」

「お姉ちゃんの指のところ、わかる?」

「うん」

「そこから、お姉ちゃんのココロの中を聞いて」


 言われたとおり、その指に集中して、お姉ちゃんのココロの声を探した。


『聞こえる?』


 真っ白い光の中に降ってくるみたいな、優しいお姉ちゃんの声。


「うん」

『ここに、扉があるの、わかる?』

「どこに?」


 扉? そんなの、あったっけ?


「お姉ちゃん、どこ?」

『ここよ、ここ。大きな扉。しおりは、いつもこの扉を開けっ放しだからいけないのよ。ここをちゃんと閉めたら、こんな風に声は聞こえなくなるわ』


 この声が、聞こえなくなる。

 そう、こんなもの、聞こえるから悪いんだ。

 どうしてわたしだけにしか聞こえないんだろう。

 いらない、いらない、こんなもの。

 早く、扉を閉じなくちゃ。


『いい? しおり、閉じるわよ。閉じたら、すぐに頑丈な鍵をかけるの。そうしたら、簡単には開かないでしょう?』

「うん、お姉ちゃん、早く閉じよう」


 早く、急いで。


『じゃあ、閉じるよ。3、2、1』


 昔、お姉ちゃんが読んでくれた絵本に出てきたような、古い扉が、ギシギシ音を立てるみたいに、ゆっくりと閉まっていく。

 真っ白い世界は、ちょっとずつ暗くなって。

 そして、真っ暗になったここは、なんにも聞こえない。


 聞こえない。


「さあ、鍵を掛けて」


 お姉ちゃんの声が、ちゃんと耳から聞こえてきた。

 わたしは急いで、その扉に大きな鍵を掛ける。

 もう、絶対に開かないように。

 もう、こんな悲しいことが起きないように。

 目を開けたら、お姉ちゃんが笑ってた。


 お姉ちゃんのおまじないのおかげで、声は聞こえなくなった。

 友達と手をつなぐのも、怖くなくなった。

 

 


 もう、ずっと前の、小学校三年生の時のことだ。

 ただ、時々、ちょっとした隙間から、強いイメージが入ってくる。

 そんな時は、額の奥にある、古びて錆付いた扉を閉める意識をする。

 大きな鍵が壊れないか、ちゃんと確かめる。

 だけど、心と身体が成長するにしたがって、不安になった。

 なるべく人に触れないようになった。

 そして、確実に聞こえないように、ココロを閉ざした。

 それなのに。

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