8years ago 2
なんで、わたしはみんなと違うの?
どうして、こんな声が聞こえるの?
「ねぇ、お姉ちゃん」
「しおり、どうしたの?」
大好きなお姉ちゃん。
わたしより十歳も年上だけど、わたしのこと、ちゃんとわかってくれる。
ちゃんと話を聞いてくれる。
私がココロの音、声が聞こえるのも知ってる。
お姉ちゃんは、そんなわたしのこと、大好きだって言ってくれる。
学校であったことを話しても、しおりは悪くないって言ってくれた。
「でもね、しおり」
「……?」
「みんな、口に出せないから、心でお喋りするのよ。だからね、本当は秘密にしておいてほしいこともあるの。それが、例え本当のことでもね、時には言ってはいけないこともあるのよ」
本当のことを、言ってはいけないの?
わかんないよ。
わたしは悲しくなった。
涙をこらえてたら、口も目も眉毛も、真ん中にぎゅって集まるみたいになった。
お姉ちゃんは、優しい顔してわたしを抱きしめてくれる。
「じゃあね、お姉ちゃんがおまじないしてあげる」
お姉ちゃんの顔を見上げたら、お姉ちゃんは人差し指で、わたしのおでこをそっと押した。
「しおり、目を閉じて」
「うん」
「お姉ちゃんの指のところ、わかる?」
「うん」
「そこから、お姉ちゃんのココロの中を聞いて」
言われたとおり、その指に集中して、お姉ちゃんのココロの声を探した。
『聞こえる?』
真っ白い光の中に降ってくるみたいな、優しいお姉ちゃんの声。
「うん」
『ここに、扉があるの、わかる?』
「どこに?」
扉? そんなの、あったっけ?
「お姉ちゃん、どこ?」
『ここよ、ここ。大きな扉。しおりは、いつもこの扉を開けっ放しだからいけないのよ。ここをちゃんと閉めたら、こんな風に声は聞こえなくなるわ』
この声が、聞こえなくなる。
そう、こんなもの、聞こえるから悪いんだ。
どうしてわたしだけにしか聞こえないんだろう。
いらない、いらない、こんなもの。
早く、扉を閉じなくちゃ。
『いい? しおり、閉じるわよ。閉じたら、すぐに頑丈な鍵をかけるの。そうしたら、簡単には開かないでしょう?』
「うん、お姉ちゃん、早く閉じよう」
早く、急いで。
『じゃあ、閉じるよ。3、2、1』
昔、お姉ちゃんが読んでくれた絵本に出てきたような、古い扉が、ギシギシ音を立てるみたいに、ゆっくりと閉まっていく。
真っ白い世界は、ちょっとずつ暗くなって。
そして、真っ暗になったここは、なんにも聞こえない。
聞こえない。
「さあ、鍵を掛けて」
お姉ちゃんの声が、ちゃんと耳から聞こえてきた。
わたしは急いで、その扉に大きな鍵を掛ける。
もう、絶対に開かないように。
もう、こんな悲しいことが起きないように。
目を開けたら、お姉ちゃんが笑ってた。
お姉ちゃんのおまじないのおかげで、声は聞こえなくなった。
友達と手をつなぐのも、怖くなくなった。
もう、ずっと前の、小学校三年生の時のことだ。
ただ、時々、ちょっとした隙間から、強いイメージが入ってくる。
そんな時は、額の奥にある、古びて錆付いた扉を閉める意識をする。
大きな鍵が壊れないか、ちゃんと確かめる。
だけど、心と身体が成長するにしたがって、不安になった。
なるべく人に触れないようになった。
そして、確実に聞こえないように、ココロを閉ざした。
それなのに。