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Don't Touch!  作者: 鳴海 葵
Lesson2
33/127

file1-4

「しおりちゃん、夏期講習の申し込み、間に合ったの。これで私も毎日学校に来れるわ。嬉しいなっ」

「………」


 楽しい夏休みを、好き好んで学校に来たがる香奈の気持ちがわからないよ。

 ま、ここにお目当ての人がいるからってことは知ってるけど、それでも、ねぇ。

 明日から始まる夏休みを前に、香奈は休み中、北原に会うための計画を目を輝かせて話してくれる。

 それは単純で他愛なくて、ものすごい妄想が混じってて、ついてけないなぁと思ったりするんだけど、想像を膨らませながら胸躍らせている香奈を見てると、可愛いと感じてしまう。

 もうすぐ終業式。

 そして、夏休み。


「ね、しおりちゃん、いいと思わない?」

「ん? うん、そうだね」


 話の内容はイマイチ頭にはいってないけど、そう言ってあげるのがたぶんベストだろうと思って返事をした。

 同時に頷くと、頭がズキンと痛んで、私は指をこめかみにあてる。


「どうしたの? また頭痛いの?」

「……うん」


 脳細胞を自分の意思でコントロールしようとしてるツケなのか、それともだたの風邪か、偏頭痛か、今日は朝から頭が痛くて重い。

 廊下から顔を出した担任が、教室にいる生徒に体育館へ行くよう指示をする。

 この痛みで、あの理事長の長いお話を聞くのはつらいな。

 あとは生徒会長とか、生徒指導とかが、夏休みをどんなふうに過ごしましょうとか、そんな話を延々と続けて、今期の優秀者が表彰されて……。


「香奈、私やっぱり保健室行くね」


 私にとってどうでもいい終業式なんかでずっと立ってなきゃいけないくらいなら、保健室のベッドで頭痛と戦うほうがいい。

 ぞろぞろと生徒たちが体育館に向かうのを見送ってから、私は保健室へ向かった。


「暑い……」


 北原をはじめ、我が校の成績優秀トップ集団の特別講習は、別棟のエアコンが効いて温度管理された素晴らしい教室で。

 私や、おそらく他にもいるだろう落ちこぼれたちは、いつもの教室。暑さの中、勉強なんか頭に入るわけないじゃん。

 かといって、空調管理された教室じゃ、あっという間に夢の国へ行ってしまいそうだけど。

 窓の外に見える木々には、うっとうしいほど青く葉が茂っていて、時折、熱い風に吹かれて静かに揺れる。


「憂鬱だ」


 補習は集中的に叩かれる。

 まるで、小学生の時、残した給食を強引に食べさせられるみたいな拷問。

 詰め込まれたって、飲み込めないものは吐き出してしまうのだ。

 ただでさえ、頭の中が違う意味でいっぱいな私は、夏休み中の保健室を貸しきりたいと思う。

 階段を降り保健室のドアが見え始めたとき、向こうに走り去る生徒の姿が見えた。


「あれ……」


 見覚えのある横顔。

 一度見たら忘れられない、凶悪な目つき2号。

 あの、この前私の上に落ちてきた男の子だ。

 私に謝ることもなく(っていうか、もしも突き落とされたんだったら謝る気にもなれなかったのかもしれないけど)追いかけられて行ったっけ。

 彼は今来た廊下を振り返り、挙動不審な態度であたりを見渡している。

 そして、彼の三白眼は私を見つけて驚いたようで、大袈裟なまでに体を震わせた。


「こっちへ、来るな! いいか、来るなよ、絶対に近づくな!」


 右手の人差し指を、おもちゃの鉄砲みたいに私に向けて叫ぶ彼。


「え?」


 だって、保健室はそっちにあるから、ちょっとは彼のほうに進まなきゃいけないんだけど。

 首をかしげて前へ進むと、白い歯をぎっと噛みしめて、彼はいっそう目を吊り上げる。


「俺は、忠告したからな、来るなって言ったぞ。言ったからな」


 なによ、そんなにムキになって。

 ……逆に気になるじゃない。

 私が一応足を止めたのを見て、彼は頷くと、慌てて何の障害もない床につまずきながら玄関のほうへと走っていく。

 また、何かから逃げるみたいに。

 体育館のほうからは、マイクを通した理事長の声が小さく響く。

 それ以外、廊下はいつも通りに静まり返り、窓から差し込む強い光だけが、じりじりと音を立てているような気がする。


「……やっぱり、気になるよね」


 私、つい一ヶ月前までは、余計なことに顔をつっこむようなタイプじゃなかった。

 できれば避けて通りたいこと。

 だけど、私の頭に先日の彼の意識が蘇る。


『殺シテヤル』


 思い過ごし。

 本当にそういうことをするはずがない。できるわけがない。

 でも、もし彼が逃げ出した場所で、誰かが倒れていたら?

 来るな、ってことは、何かあるってことだ。


「一応ね、一応」


 何もない、なければ保健室へ来ればいいんだ。

 私はホリちゃんがいるはずの保健室を通り過ぎ、彼が私を見て声を上げた場所に来た。

 この角を曲がった先に、何かがあるのかもしれない。

 まさか、血みどろないじめっ子とか?

 いや、それはないか。だって彼の体に血は見えなかったし。

 でも、物騒な世の中だ。同級生を殺すことが起きたって、ちっとも不思議じゃない。

 私の額に冷たい汗が浮かんだ。


「よし……」


 妙な気合と共に、私は思いきって角を曲がった。



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