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Don't Touch!  作者: 鳴海 葵
Lesson2
31/127

file1-2

「あっれぇ? センパイ、なにやってんの? ついにおかしくなって女襲っちゃってんの?」


 ふざけた台詞と乾いたわざとらしい笑い声が、階段の上から聞こえてくる。

 目を開けると、胸元からのっそり顔が起き上がった。


「う……」


 短くてサラサラの前髪が揺れて、表情がよくわからない。

 でも制服から、たぶん男の子だと思う。


「天才なセンパイでも、人間としてそうゆうことしちゃあ、ダメでしょ」


 高い機械音が鳴る。

 階段の上を見ると、携帯をかざした男子がこっちを楽しそうに見下ろしていた。

 見たことないし、靴のラインが赤。ってことは、一年生だ。

 他にも二人の男子が腕を組んでこっちを見てる。


「お、すげーいい感じで写真撮れちゃったよ」


 な、な、何!?

 衝撃で曖昧になってる自分の状況を把握しようと、あらためて落ち着いてみる。

 私は女子で仰向けに倒れてて、で、この覆いかぶさってるのは男子で。


「いやぁーっ!!」


 私、気付くの遅すぎ。

 声を上げると、上に乗っかったままの男の子が飛び起き、離れた。

 だけど、こっちを見た彼は、私に謝るでもなく。


「……クソ」

「なっ……」


 私が何かしたとでも言いたそうに、大きな釣りあがった目で睨みつける。

 その視線に、一瞬で背筋に悪寒が走った。

 殺気立った瞳は黒く深く、ときより力なく緩む眉をぐっと上げて唇をかみしめる。床の上で握り締められている手は、血の流れも止まってしまったかと思うほど白くなり、震えていた。

 さっき聞こえたのは、この彼の心の声。

 この人なら、本当に、やってしまうかもしれない?

 

「くだらないな」


 突然の聞き慣れた声に、私は引きずり込まれそうになる彼の黒い意識から現実に戻されて、再び階段の上を見た。


「な、何すんだよ!」


 一年生男子から携帯を取り上げて、なんらかの操作をすると持ち主につき返し、階段を降りてくる。

 彼の威圧的で逆らうことを許されない雰囲気は、彼らにも有効だったんだろう。

 私を睨みつけていた目の前の彼も、現れたそいつを見上げ呆然とする。

 コイツも、恐ろしく凶悪な目つきしてるんだよね。


「桜井」

「……ん」


 コイツとは相変わらずフツーには話せない。

 心のどこかを金縛りにかけられる。

 顔が引きつって笑顔になれない私に対し、ふと、いつも厳しい彼の目が緩み、笑った。

 嫌な、予感がする。

「へ?」


 その視線が、ちらりと私の足のほうを向き、再び目が合った。


「丸見え」

「えっ!?」


 言われて上半身を起こすと、あらわになった太ももが。


「………!!」


 声を出すのも恥ずかしくて、慌ててスカートの裾を直す。

 だけど、全身の血液がどんどん顔に向かって流れ出し、たぶん、真っ赤な顔をしてるに違いない。頬が、耳が、熱いよ。

 でも、でも、なんで?

 なんでよりによって、北原なんだっ!

 あまりの恥ずかしさに顔が上げられないでいると、前に座っていたはずの、北原に負けないくらい目つきの悪い彼が立ち上がった。

 そしてうつむいたまま、逃げるように走り出す。


「おい、逃げたぞ」


 北原の登場で大人しくしていた階段の上の三人が、彼が逃げたことに舌打ちし、こっちを気にしながらも後を追っていく。

 なんとなく良くない状況だと思いながらも、私は今、そんなことを気にしてる場合じゃなくて!

 斜め前に立ってる北原は、いなくなってほしい私の気持ちをよそに、黙ってそこにいる。


「なんでそこにいるのよ」

「恩人への感謝の言葉がそれか?」

「恩人?」


 思いがけない言葉に、恥ずかしかったことを忘れて北原の顔を見上げてしまう。


「丸見え写真、削除してやったんだけど。それともそういう趣味だった?」

「違うっ!」


 口角を片方だけ吊り上げて、いやらしく笑う。

 くっ、誰がそんな趣味持つかっ。

 だけど、それ、消してくれたんだ。

 そのことについてはお礼言ったほうがいいよね。


「場所を選べよ」

「だから、違うってば!」


 感謝の気持ちも吹っ飛ぶ言葉と態度に私は溜息をついた。


「勝手にあの人が落ちてきたのよ。それで、よくわかんないけどいつのまにかあんな格好になってて……」


 おそらく転倒したはずみであんなふうになってしまったんだと思う。

 だけど、彼、もしかして、突き落とされたのかな……?

 それに、逃げたって追いかけられてたし。

 あの、彼から伝わってきた意識だって。


「どうした?」

「あ、あの人、一緒に転んでた子、大丈夫だったかなと思って」

「ああ。走れるぐらいだから大丈夫だろう」

「うん」


 そうだ、私、職員室へ行く途中だったんだ。


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