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保健室で休んだからって、この頭痛が治まるもんじゃないとわかってる。
ただ、誰もいない静かなところで、この痛みを追い払うことに集中しなきゃ。
授業開始のチャイムが鳴って、皆教室へと戻っていく。
賑やかだった校内も、あっという間に、誰もいないかのような静かな時間を迎える。
この学校は、まさに文武両道、有名国立大学に進学を目指すか、そうでなければ、プロスポーツ選手を目指す人も少なくない。
私はといえば……。
どちらかでもなく、成績は中の下、運動は音痴もいいところ、走り方さえ知らないかと思うほど、何にもできない。
もうちょっとで「落ちこぼれ」の域に入る。
中学の時に、担任の先生から進められて、そのまま合格して入学した。
親も喜んで、友達から羨望の眼差しを受けたけど、中に入ってみれば、どこの高校生とも変わらない、同じ世界だ。
そこで、なるべく目立たないように、普通に過ごす。
それが、卒業までの私の目標。
なんて面白みのない学生生活。
だらだら歩いていると、保健室の前まで着いた。
ドアのガラスには、内側にベージュのリネンが掛けられていて、ぼんやりと私の顔が鏡のように映る。
大きな黒い瞳に濃くて長い睫毛、それに合った、真っ黒のロングヘア。
小学校の頃にはホラー映画の「貞子」って言われたこともあったっけ。
子供の頃から、ほとんど何も変わってない。
変わったとしたら、丸顔が少し縦に伸びて、眉毛を整えるようになったことくらいか。
「痛っ……」
頭の中の、閉じた扉に亀裂が入りそうなくらいの激痛が走る。
脈打つのと同時に、規則的にその痛みが頭の中を占めていく。
早く保健室へ入ろうと、私はドアノブに手をかけた。
「……!!」
その指先から走る電流のような感覚に、私は瞬時に手を引いた。
「やだ……」
ちょっと待って!
電流は指先から腕を通って、お構いなしに私の頭の中に入ってくる。
莫大な情報が矢のように脳に突き刺さる。
ガラスに映った私は、大きく目を見開いて、だらしなく口を開けた。
来るっ……。
「いや……!」
頑丈に掛けたはずの鍵は砕かれ、扉が、開く。
放心状態の体は、だらりと手を下げたまま、頭を何かで打たれたような衝撃を受け、操られるように天を向く。
私の視界を埋め尽くすのは、白い世界。目を開けていられないほどの眩しい光。
そして、無防備に開いた意識の扉の中に降り注ぐ、声。
『コンナニ愛シテルノニ』
『モット近クニイタイ、モット知リタイ』
『誰ニモ渡サナイ、触レサセナイ』
『許サナイ』
『殺シタイ、殺シテヤル』
『殺ス』
次々と降り注ぐ、誰ともわからない、愛と憎しみに溢れたその声を、意識を拒むことができずに、呼吸が乱れて身体が震えだす。
やがて、ゆっくりと扉は閉じ、私の目には、白く無機質な天井が写った。
まだ震える身体を両手で押さえるように抱きしめて、私はそのままその場に座り込んだ。
目の前にあるドアノブ。
愛から強烈な憎悪へと変化していった声を思い出し、冷たい汗が頬を伝う。
「どうして……」
今まで、ずっと閉じ込めておくことができたのに。
鍵を掛けていた扉が、ついに、開いてしまった。