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Don't Touch!  作者: 鳴海 葵
Lesson1
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file1-2

 保健室で休んだからって、この頭痛が治まるもんじゃないとわかってる。

 ただ、誰もいない静かなところで、この痛みを追い払うことに集中しなきゃ。

 

 授業開始のチャイムが鳴って、皆教室へと戻っていく。

 賑やかだった校内も、あっという間に、誰もいないかのような静かな時間を迎える。

 この学校は、まさに文武両道、有名国立大学に進学を目指すか、そうでなければ、プロスポーツ選手を目指す人も少なくない。

 

 私はといえば……。

 どちらかでもなく、成績は中の下、運動は音痴もいいところ、走り方さえ知らないかと思うほど、何にもできない。

 もうちょっとで「落ちこぼれ」の域に入る。


 中学の時に、担任の先生から進められて、そのまま合格して入学した。

 親も喜んで、友達から羨望の眼差しを受けたけど、中に入ってみれば、どこの高校生とも変わらない、同じ世界だ。

 そこで、なるべく目立たないように、普通に過ごす。

 それが、卒業までの私の目標。

 なんて面白みのない学生生活。


 だらだら歩いていると、保健室の前まで着いた。

 ドアのガラスには、内側にベージュのリネンが掛けられていて、ぼんやりと私の顔が鏡のように映る。

 大きな黒い瞳に濃くて長い睫毛、それに合った、真っ黒のロングヘア。

 小学校の頃にはホラー映画の「貞子」って言われたこともあったっけ。

 子供の頃から、ほとんど何も変わってない。

 変わったとしたら、丸顔が少し縦に伸びて、眉毛を整えるようになったことくらいか。


「痛っ……」


 頭の中の、閉じた扉に亀裂が入りそうなくらいの激痛が走る。

 脈打つのと同時に、規則的にその痛みが頭の中を占めていく。

 早く保健室へ入ろうと、私はドアノブに手をかけた。


「……!!」


 その指先から走る電流のような感覚に、私は瞬時に手を引いた。


「やだ……」


 ちょっと待って!


 電流は指先から腕を通って、お構いなしに私の頭の中に入ってくる。

 莫大な情報が矢のように脳に突き刺さる。

 ガラスに映った私は、大きく目を見開いて、だらしなく口を開けた。

 

 来るっ……。

 

「いや……!」


 頑丈に掛けたはずの鍵は砕かれ、扉が、開く。

 放心状態の体は、だらりと手を下げたまま、頭を何かで打たれたような衝撃を受け、操られるように天を向く。

 私の視界を埋め尽くすのは、白い世界。目を開けていられないほどの眩しい光。

 そして、無防備に開いた意識の扉の中に降り注ぐ、声。


『コンナニ愛シテルノニ』

『モット近クニイタイ、モット知リタイ』

『誰ニモ渡サナイ、触レサセナイ』

『許サナイ』

『殺シタイ、殺シテヤル』

『殺ス』


 次々と降り注ぐ、誰ともわからない、愛と憎しみに溢れたその声を、意識を拒むことができずに、呼吸が乱れて身体が震えだす。

 やがて、ゆっくりと扉は閉じ、私の目には、白く無機質な天井が写った。

 まだ震える身体を両手で押さえるように抱きしめて、私はそのままその場に座り込んだ。

 目の前にあるドアノブ。

 愛から強烈な憎悪へと変化していった声を思い出し、冷たい汗が頬を伝う。

 

「どうして……」


 今まで、ずっと閉じ込めておくことができたのに。

 鍵を掛けていた扉が、ついに、開いてしまった。

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