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Don't Touch!  作者: 鳴海 葵
Lesson1
12/127

file2-4

振り返ると、ホリちゃんがベッドに座って自慢の長い足をぶらぶらさせていた。


「で? エスパーしおりは何を感じ取って私が殺されると思ってんの?」

「あ……」


 ホリちゃんが自分の横をぽんぽんと叩いて、私をそこに座らせるよう促した。


「うん……聞こえたの」

「私を殺すって?」


 私は、促されるまま、ホリちゃんの横に座り、先日この保健室のドアノブから受けた意識のことを話した。

 今日のあの声と、その恐ろしい意識を持った張本人のことも。


「ふうん。じゃあ、別に私を名指ししてるわけじゃないのよね、その人は」

「うん……」


 確かに、そうだけど。


「でも、エスパーしおりの直感では、私がそのターゲットだっていうわけね?」

「ホリちゃん、そのエスパーしおりって、なんか、エスパー伊藤みたいで嫌」

「あ、そう? 私はエスパー魔美のつもりで言ってたんだけど……時代が違うか。だけどアンタもエスパー伊藤なんて、渋い人知ってんのね」


 あのう、話、脱線してるんですけど。


「……ね、ホリちゃん、本当に信じてくれてるの?」

「あったりまえじゃない」


 大きな胸を大きくそらして、偉そうに頷く。

 ほんとかよ。


「だけど、驚いたわね」

「何が?」

「その声の主、彼だってこと」

「……それは、うん」


 私も、正直意外だったんだけど。

 あの人が、あんな風に考えてるなんて。


「そっか……」


 うつむいたホリちゃんの顔色が陰る。


「ホント、まっすぐな気持ちはありがたいんだけどねぇ。保健室の先生もつらいわねぇ。まあ、殺されないにしたって、彼がそういう気持ちであることには変わりないってことよね」

「心当たり、あるの?」


 うふふ、とホリちゃんは笑った。


「おもちゃには、内緒」


 と、私から逃げるように立ち上がった。

 少し複雑になるんだよ、そういう態度。

 ニヤニヤ笑うホリちゃんを見上げる。


「触られたら、聞こえちゃうんだもんね、これから気をつけよぉーっと」

「………」

「あれ、冗談よ、なに落ち込んでんのよ」


 本気で、落ち込んだ。

 それを言われると、冗談だとわかっていても、へこむ。


「私だって、好きでこんな風なんじゃないんだから。それに、触ったからって、別に聞こうと意識してるわけじゃないんだし。……だから嫌だったのに」

「ごめん、しおり」


 ちょっとだけ、泣きたくなった。

 ホリちゃんの性格はわかってるつもりだけど、だけど、悲しい。

 唇を噛んで、ホリちゃんを睨んでやる。


「今までの話、冗談じゃないんだよな」


 不意にホリちゃんの後ろのカーテンが開いて、私は大きく目を見開いた。

 ホリちゃんは驚きもせず、振り返る。


「あれ、いたの?」

「呼び出したの、そっちでしょ」

「あ、そうだった。ごめんごめん」


 彼が突然登場したことに、私は固まった。

 そう、アイツ、私のことを嫌な女って言った、北原……なんだっけ。

 何で、いつからそこにいたのよっ。

 とりあえず、私のことなんかかまわずに、そっちの話を続けてください。

 私はゆっくりと顔をそむけて……。

 と思ったときに、思いっきりこっちを睨まれた。

 動きかけた体が、また縛り付けられるみたいに硬直する。

 相変わらず、痛いくらい冷たい目をしてて。


「桜井」


 いきなり名前を呼ばれた。

 だから、こっちは知らないのに、なんで知ってんのよ。

 私は固まったまま、目だけヤツの方を向く。


「触ったヤツの心が覗けるって、本当なのか?」


 何よ、嫌な言い方。

 ホリちゃんが彼の前に仁王立ちして背の高い彼を見上げた。


「やだ、いつから立ち聞きしてたの」

「別に。聞こえてきただけだよ」

「もう、やらしいわねぇ。ねぇ、しおり」


 あの、そこで私に話を振られても。

 私は引きつった顔を傾けてみる。

 そして、これ以上、話を突っ込まれないようにと、私は祈った。


「いつからだよ」


 げ。

 突っ込まれた。

 それも、なんか、興味持っちゃったみたいな聞き方。

 嫌いな女のことなんか、それ以上詮索しないでよ。

 だけど、その質問に、ホリちゃんも私の答えを待っているようだ。


「たぶん、生まれた時から」


 コイツには言いたくないから、ホリちゃんに答えるように言った。


「子供のときから、意識してたのか?」

「何、が?」


 なんなのよぉう。

 この、質問攻めは。


「それが心の中の声だって」

「それは……誰でも聞こえてるもんだと思ってたし、あんまり意識できなかったけど」


 目だけでそいつのことを見上げると、北原は小さな溜息をついて、少し考えるような仕草をした。

 そして、また全身凍りそうに冷たい視線で、私を睨む。


「俺のこと、覚えてないか?」

「えっ!?」


 いきなり、なんですか。

 こんな冷酷な人造人間みたいな男、私は知らないし、そんな幼馴染はいない。

 真剣に頭の中にある思い出のアルバムをめくっても、アンタみたいな男は存在しないはずだ。


「まあ、傷つけた方のヤツなんて、そんなもんだよな」

「え……」


 静かだけど、吐き捨てるように北原が言う。

 私は頭の中の、役に立ちそうもない思い出のアルバムなんて投げ捨てて、必死で記憶を辿った。

 私が、コイツを傷つけた?


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