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振り返ると、ホリちゃんがベッドに座って自慢の長い足をぶらぶらさせていた。
「で? エスパーしおりは何を感じ取って私が殺されると思ってんの?」
「あ……」
ホリちゃんが自分の横をぽんぽんと叩いて、私をそこに座らせるよう促した。
「うん……聞こえたの」
「私を殺すって?」
私は、促されるまま、ホリちゃんの横に座り、先日この保健室のドアノブから受けた意識のことを話した。
今日のあの声と、その恐ろしい意識を持った張本人のことも。
「ふうん。じゃあ、別に私を名指ししてるわけじゃないのよね、その人は」
「うん……」
確かに、そうだけど。
「でも、エスパーしおりの直感では、私がそのターゲットだっていうわけね?」
「ホリちゃん、そのエスパーしおりって、なんか、エスパー伊藤みたいで嫌」
「あ、そう? 私はエスパー魔美のつもりで言ってたんだけど……時代が違うか。だけどアンタもエスパー伊藤なんて、渋い人知ってんのね」
あのう、話、脱線してるんですけど。
「……ね、ホリちゃん、本当に信じてくれてるの?」
「あったりまえじゃない」
大きな胸を大きくそらして、偉そうに頷く。
ほんとかよ。
「だけど、驚いたわね」
「何が?」
「その声の主、彼だってこと」
「……それは、うん」
私も、正直意外だったんだけど。
あの人が、あんな風に考えてるなんて。
「そっか……」
うつむいたホリちゃんの顔色が陰る。
「ホント、まっすぐな気持ちはありがたいんだけどねぇ。保健室の先生もつらいわねぇ。まあ、殺されないにしたって、彼がそういう気持ちであることには変わりないってことよね」
「心当たり、あるの?」
うふふ、とホリちゃんは笑った。
「おもちゃには、内緒」
と、私から逃げるように立ち上がった。
少し複雑になるんだよ、そういう態度。
ニヤニヤ笑うホリちゃんを見上げる。
「触られたら、聞こえちゃうんだもんね、これから気をつけよぉーっと」
「………」
「あれ、冗談よ、なに落ち込んでんのよ」
本気で、落ち込んだ。
それを言われると、冗談だとわかっていても、へこむ。
「私だって、好きでこんな風なんじゃないんだから。それに、触ったからって、別に聞こうと意識してるわけじゃないんだし。……だから嫌だったのに」
「ごめん、しおり」
ちょっとだけ、泣きたくなった。
ホリちゃんの性格はわかってるつもりだけど、だけど、悲しい。
唇を噛んで、ホリちゃんを睨んでやる。
「今までの話、冗談じゃないんだよな」
不意にホリちゃんの後ろのカーテンが開いて、私は大きく目を見開いた。
ホリちゃんは驚きもせず、振り返る。
「あれ、いたの?」
「呼び出したの、そっちでしょ」
「あ、そうだった。ごめんごめん」
彼が突然登場したことに、私は固まった。
そう、アイツ、私のことを嫌な女って言った、北原……なんだっけ。
何で、いつからそこにいたのよっ。
とりあえず、私のことなんかかまわずに、そっちの話を続けてください。
私はゆっくりと顔をそむけて……。
と思ったときに、思いっきりこっちを睨まれた。
動きかけた体が、また縛り付けられるみたいに硬直する。
相変わらず、痛いくらい冷たい目をしてて。
「桜井」
いきなり名前を呼ばれた。
だから、こっちは知らないのに、なんで知ってんのよ。
私は固まったまま、目だけヤツの方を向く。
「触ったヤツの心が覗けるって、本当なのか?」
何よ、嫌な言い方。
ホリちゃんが彼の前に仁王立ちして背の高い彼を見上げた。
「やだ、いつから立ち聞きしてたの」
「別に。聞こえてきただけだよ」
「もう、やらしいわねぇ。ねぇ、しおり」
あの、そこで私に話を振られても。
私は引きつった顔を傾けてみる。
そして、これ以上、話を突っ込まれないようにと、私は祈った。
「いつからだよ」
げ。
突っ込まれた。
それも、なんか、興味持っちゃったみたいな聞き方。
嫌いな女のことなんか、それ以上詮索しないでよ。
だけど、その質問に、ホリちゃんも私の答えを待っているようだ。
「たぶん、生まれた時から」
コイツには言いたくないから、ホリちゃんに答えるように言った。
「子供のときから、意識してたのか?」
「何、が?」
なんなのよぉう。
この、質問攻めは。
「それが心の中の声だって」
「それは……誰でも聞こえてるもんだと思ってたし、あんまり意識できなかったけど」
目だけでそいつのことを見上げると、北原は小さな溜息をついて、少し考えるような仕草をした。
そして、また全身凍りそうに冷たい視線で、私を睨む。
「俺のこと、覚えてないか?」
「えっ!?」
いきなり、なんですか。
こんな冷酷な人造人間みたいな男、私は知らないし、そんな幼馴染はいない。
真剣に頭の中にある思い出のアルバムをめくっても、アンタみたいな男は存在しないはずだ。
「まあ、傷つけた方のヤツなんて、そんなもんだよな」
「え……」
静かだけど、吐き捨てるように北原が言う。
私は頭の中の、役に立ちそうもない思い出のアルバムなんて投げ捨てて、必死で記憶を辿った。
私が、コイツを傷つけた?