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魔物を倒せない落ちこぼれ勇者候補、最強の相棒を手に入れた

作者: momotarou
掲載日:2026/06/09

訓練場の砂の上に、小さな魔物が転がっている。


角兎と呼ばれる魔物だ。


体は犬ほどの大きさしかないが、鋭い角で突っ込まれれば、骨ぐらい簡単に折れる。


駆け出しの勇者候補が相手をする、実戦用の魔物だった。


けれど、もう勝負はついていた。


角兎は僕の剣で傷を負い、もう逃げることもできない。


あとは、とどめを刺すだけ。


「レオ、また止まったな」


グレイ教官の声が、訓練場に響いた。


僕は剣を握ったまま、動けなかった。


角兎が震えている。


赤い目を見開き、荒い息を吐きながら、僕を見上げていた。


――いたい。


――やめて。


声が聞こえる。


耳で聞こえるのではない。


魔物の想いが、胸の奥に流れ込んでくる気がする。


本当に魔物の声なのかは、わからない。


僕の臆病な気持ちが、声になっているだけなのかもしれない。


だから僕は、魔物にとどめを刺す時、いつも遅れる。


勇者としては致命的な欠点だ。


わかっている。


でも、最後の一太刀だけが、どうしても遅れる。


「早くしろ」


グレイ教官が冷たく言った。


「魔物に情けをかける者は、勇者にはなれん」


周囲の生徒たちが笑った。


「また始まったぞ」


「魔物を倒せない勇者。なんでこの学校にいるんだ」


「落ちこぼれ勇者候補」


「角兎一匹に何秒かけるんだよ」


頬が熱くなる。


笑われることには慣れていた。


僕は剣を振り上げた。


角兎が、ぎゅっと目を閉じる。


――こわい。


その声が、胸に刺さった。


剣が止まる。


その瞬間、横から風が抜けた。


金色の髪が視界を横切る。


カイル・ブレイズ。


勇者学園で一番の成績を誇る主席候補だ。


カイルの剣が一閃した。


角兎は、声を上げる間もなく倒れた。


訓練場に拍手が起こる。


カイルは剣を払うと、僕を見た。


「勇者は魔物を倒す者だ。情けをかける者ではない」


僕は何も言えなかった。


正しい。


魔物は人を襲う。


町を壊す。


人の命を奪う。


だから勇者は魔物を倒す。


それが勇者学園で最初に教わることだった。


グレイ教官が僕の前に立った。


「レオ・アルバ。お前は剣の筋も良い。魔力も強い。魔物の知識も豊富だ。だが、その甘さだけで全てを台無しにしている」


「……すみません」


「謝るな。直せ」


教官はそう言い捨てると、訓練場の中央へ歩いていった。


グレイ教官は全員を見回し、声を張った。


「卒業試験では、危険度の高い魔物を用意する。実戦に近い形になる。覚悟しておけ」


僕は剣を握りしめた。


卒業試験で失敗すれば、僕は勇者にはなれない。


落ちこぼれのまま、勇者への道は閉ざされる。


勇者になりたかった。


人を守る勇者に。


父さんも母さんも、僕が勇者学園に入れた時、泣いて喜んでくれた。


「誰かを守れる人になりなさい」


そう言ってくれた。


でも僕は、魔物の声が聞こえる。


倒すべき相手の痛みが分かってしまう。


魔物を倒さなければ、勇者にはなれない。


けれど、聞こえてしまった声を無視してまで勇者になることが、本当に正しいのか。


その答えが出ないまま、卒業試験の日が来てしまった。


僕はもう、自分には勇者なんて無理なのかもしれないと、あきらめかけていた。


卒業試験の日。


学園の大闘技場には、全生徒と教官たちが集められていた。


高い石壁に囲まれた巨大な試験場。


その中央に、分厚い鉄の檻が置かれている。


檻の中には、黒い獣がいた。


狼に似ている。


だが、大きさは狼どころではない。


伏せていても、人の背丈を超えている。


黒い毛並み。


太い四肢。


額には、短い黒角が一本。


そして首元には、黒い杭が深く打ち込まれていた。


杭からは鎖のような紋様が広がり、獣の体を縛っている。


グレイ教官が言った。


「本日の卒業試験は、黒悪獣の討伐だ」


生徒たちがざわめいた。


黒悪獣。


凶暴な魔物。


硬い剛毛に覆われ、動きも素早く、魔法耐性もある。


教本にはそう書かれていた。


カイルも剣を握り直した。


「本物か……」


グレイ教官は満足げに言った。


「心配はいらん。支配の杭で制御している。暴れはするが、完全に制御下にある」


支配の杭。


魔物の動きを縛り、人間の命令を通すための道具。


危険な魔物を扱う時に使われると、授業で習った。


だが僕は、その黒い獣を見た瞬間、胸の奥を掴まれたような気がした。


――われを支配するとは。


僕は息を止めた。


――人よ、われを忘れたのか。


声が聞こえた。


僕の臆病な気持ちではない。


本当に聞こえた。


それは荒々しい言葉ではなく、古く、重い声だった。


――苦しい。


――やめろ。


僕の背筋が冷えた。


これは、ただの魔物じゃない。


僕は図書館で読んだ古い魔物図鑑を思い出していた。


黒い毛並み。


額の角。


金色の目。


闇ではなく光を宿す魔力。


すでに滅びたと書かれていた、伝説の神獣。


「先生」


僕は気づけば声を出していた。


グレイ教官がこちらを見る。


「何だ、レオ」


「あれは黒悪獣じゃありません」


闘技場が静かになった。


グレイ教官の目が細くなる。


「何?」


僕は檻の中の獣を見た。


その金色の目が、僕を見ていた。


苦しみながらも、確かに僕を見ていた。


「あれは、黒神獣ガルムです」


一瞬、誰も何も言わなかった。


次の瞬間、笑い声が起こった。


「黒神獣?」


「伝説の神獣だろ?」


「もう滅びたって授業で習ったぞ」


「また魔物の声かよ」


グレイ教官も呆れた顔をした。


「レオ。黒神獣ガルムは、はるか昔に滅びている」


「滅びていません」


僕は言った。


「まだ幼いだけです。覚醒しかかっています」


グレイ教官の笑みが消えた。


「そんなことが、なぜ分かる」


「声が聞こえます」


また笑い声が起こる。


けれど、カイルだけは笑っていなかった。


僕をじっと見ている。


僕は続けた。


「このまま追い詰めれば、闇に落ちます」


「闇に落ちる?」


グレイ教官の声が低くなった。


「レオ。これは黒悪獣だ。周りを惑わすな」


「先生、試験を中止して調べてください」


「私に逆らうのか。仲間の卒業試験の邪魔をするな」


グレイ教官は僕を睨んだ。


「黒悪獣を討伐する。これが試験だ。戦いたくないのなら、そこで見ていろ。残念だが、君は勇者にはなれない」


僕は下を向くことしかできなかった。


檻が開いた。


黒い獣が、ゆっくりと立ち上がる。


支配の杭が、どくん、と脈打った。


黒い光が杭からあふれる。


ガルムの目が濁る。


――やめろ。


――われに人を殺させるな。


僕の胸に、声が流れ込んだ。


だが、誰も信じない。


誰にも聞こえない。


「始め!」


グレイ教官の号令が響いた。


生徒たちが一斉に動いた。


先頭はカイルだった。


「行くぞ!」


剣が光る。


火の魔法。


風の刃。


氷の槍。


攻撃が黒い獣へ向かう。


だが、効かない。


剣は硬い毛皮に弾かれ、魔法は黒い霧に飲み込まれる。


「硬い!」


「押さえろ!」


「足を狙え!」


黒悪獣が吠えた。


咆哮だけで、前列の生徒が吹き飛ばされる。


カイルは踏みとどまった。


さすがだった。


けれど、カイルの剣でさえ、黒悪獣の皮膚を浅く裂くのが精一杯だった。


「何をしている! ただの黒悪獣だ。お前たちの力なら倒せる!」


グレイ教官が怒鳴った。


「早く討伐しろ!」


支配の杭がさらに黒く光る。


その瞬間、ガルムの体が大きく跳ねた。


苦しげに首を振る。


黒い霧が濃くなる。


額の角が、禍々しい黒に染まり始めた。


僕は叫んだ。


「駄目です! 杭が暴走しています!」


グレイ教官の顔が引きつった。


「馬鹿な。支配の杭で制御できるはずだ。私は確認した。あれは黒悪獣のはずだ」


黒神獣ガルムが前足を振るう。


石床が砕ける。


生徒たちが逃げ惑う。


もう試験ではなかった。


カイルが膝をつき、荒く息を吐いた。


「くそっ……何なんだよ、これ」


僕はカイルのそばへ走った。


「カイル、大丈夫?」


「俺より、あいつを見ろ」


ガルムの体は、黒い光に包まれていた。


その奥で、金色の光が小さく明滅している。


まるで、何かが内側から必死に押し返しているようだった。


けれど黒い光は、そのたびに金色の光を飲み込もうとしている。


ガルムは暴れているのではない。


抗っている。


僕はそう感じた。


「やっぱり、倒す相手じゃない」


カイルが僕を見た。


「レオ。お前、本当に聞こえてるのか」


「うん」


「魔物の声が?」


「僕も自信がなかった。でも、この魔物は声として聞こえる」


「じゃあ、あいつは何て言ってる」


僕はガルムを見た。


「人を殺したくないって」


カイルの目が見開かれた。


その時、グレイ教官が叫んだ。


「全員、総攻撃だ! 黒悪獣を討伐しろ!」


「やめろ! 総攻撃するな!」


僕は叫んだ。


「ガルムに人を殺させたら、本当に闇に落ちる!」


それでも、誰も動きを止められない。


だから僕は走り出した。


「僕が何とかする!」


「待て、レオ!」


カイルが叫ぶ。


僕は振り返らなかった。


「あれは黒悪獣じゃない!」


黒い霧が吹き荒れる。


近づくだけで肌が焼けるように痛い。


でも、止まれない。


あの杭を抜かなければ、いつか人を殺し、神獣が闇に落ちてしまう。


神獣ではなく、誰にも止められない魔獣になってしまう。


「ガルム!」


僕は叫んだ。


「お前は黒悪獣なんかじゃない!」


ガルムの金色の目が、一瞬だけ僕を見た。


その目に、怒りはなかった。


苦しみだけがあった。


「黒神獣ガルムだろ!」


僕はガルムの前足に飛びついた。


硬い毛を掴む。


体が振り回される。


地面が遠くなる。


黒い霧が腕を焼く。


「ぐっ……!」


痛みで手が離れそうになる。


でも、離したら終わりだ。


僕は歯を食いしばり、ガルムの背へよじ登った。


支配の杭は、首の後ろに刺さっている。


近づくほど、黒い光が強くなった。


胸の奥を、また強く掴まれたような気がする。


――苦しい。


――やめろ。


――人よ、なぜわれを縛る。


その声は、さっきよりも低く、濁っていた。


――憎い。


――壊したい。


――すべて、消してしまいたい。


支配の杭に苦しめられ、追い詰められ、神獣の心が闇に染まりかけている。


このままでは、ガルムは人を殺し、闇に落ちてしまう。


僕は叫んだ。


「違うだろ、ガルム!」


杭へ手を伸ばす。


届かない。


ガルムが暴れる。


僕の体が宙へ浮く。


落ちる。


そう思った時だった。


「レオ!」


カイルの声がした。


見下ろすと、カイルがガルムの足元に駆け込んでいた。


「お前ひとりじゃ無理だ!」


「カイル、危ない!」


「うるさい! 俺には声なんか聞こえない!」


カイルはガルムの爪をぎりぎりで避け、砕けた石床を蹴って跳んだ。


「でも、お前が聞こえるって言うなら、信じてやる!」


その言葉に、胸が熱くなった。


カイルはガルムの体に剣を突き立てない。


硬い毛を掴み、僕とは反対側からよじ登ってくる。


「杭はどこだ!」


「首の後ろ!」


「見えてる!」


支配の杭から伸びた黒い鎖のような紋様が、ガルムの体に絡みついている。


カイルはそれを見て、歯を食いしばった。


「これか!」


カイルの剣が閃いた。


黒い紋様の一つが、断ち切られる。


ガルムが苦しげに吠えた。


でも、金色の光がわずかに強くなる。


「レオ!」


カイルが叫ぶ。


「俺が周りの鎖を斬る! お前は杭を抜け!」


「分かった!」


カイルの剣が、次々と黒い紋様を斬っていく。


一本。


また一本。


支配の力が薄れていく。


けれど、そのたびに黒い光が弾け、カイルの腕を焼いた。


「ぐっ……!」


「カイル!」


「止まるな!」


カイルは叫んだ。


「レオ、自分を信じろ! 俺は、お前の心が強いことを知っている。負けるな!」


僕は歯を食いしばった。


杭を掴む。


熱い。


手のひらが焼ける。


それでも離さない。


「抜けろ……!」


杭はびくともしない。


カイルが最後の黒い紋様に剣を叩きつけた。


刃が欠ける。


それでも、カイルはもう一度振った。


「割れろおおおっ!」


黒い紋様が砕けた。


杭の光が一瞬だけ弱まる。


「今だ、レオ!」


僕は全身の力で杭を引いた。


動かない。


まだ足りない。


その時、カイルが僕の隣へ来た。


「一緒に引くぞ!」


「わかた、抜くんだ!」


カイルは欠けた剣を杭の根元に差し込み、てこのように力をかけた。


僕は杭を掴む。


カイルは剣を引く。


黒い光が弾ける。


ガルムが咆哮を上げる。


闘技場全体が震えた。


「戻ってこい、ガルム!」


僕は叫んだ。


「お前は神獣だ!」


カイルも叫んだ。


「聞こえてるんだろ、神獣!」


僕はカイルを見た。


カイルは歯を食いしばったまま笑った。


「俺には聞こえないけどな!」


その声に、ガルムの金色の光が強くなった。


僕は最後の力を込めた。


「お前は、黒神獣ガルムだ! 闇なんかに負けるな!」


カイルも剣を引いた。


「抜けろおおおおおっ!」


僕たちの声が重なった。


支配の杭が、抜けた。


黒い霧が空へ噴き上がる。


僕とカイルの体が吹き飛ばされる。


地面に叩きつけられる。


そう思った。


けれど、僕たちは落ちなかった。


大きな尾が、僕たちの体を受け止めていた。


ゆっくりと地面へ降ろされる。


僕は顔を上げた。


ガルムの体を包んでいた黒い光が消えていく。


代わりに、金色の光があふれ出した。


黒い毛並みの中に、神聖な紋様が浮かぶ。


まだ幼かった神獣が、覚醒したのだ。


額の角は、黒ではなく、金の筋を帯びて輝いている。


濁っていた瞳は、静かな金色に戻っていた。


闘技場の誰かが、震える声でつぶやいた。


「黒悪獣じゃない……」


別の誰かが言った。


「本当に、黒神獣ガルムだ……」


ガルムは僕とカイルの前に立った。


そして、ゆっくりと頭を下げる。


僕は震える手で、ガルムの鼻先に触れた。


温かい。


生きている。


助かった。


そう思った、その時だった。


「聞こえていたぞ、人の子」


低く澄んだ声が、闘技場に響いた。


誰もが息を呑んだ。


それは唸り声ではなかった。


魔物の鳴き声でもなかった。


人の言葉だった。


ガルムが、僕たちを見ていた。


「われを呼び戻したのは、お前たちか」


僕は震える声で答えた。


「……レオ。レオ・アルバです」


カイルも、呆然としながら名乗った。


「カイル・ブレイズ……です」


ガルムは金色の目を細めた。


「ならば覚えておこう。レオ・アルバ。カイル・ブレイズ」


その声は、僕だけではなく、闘技場の全員に届いていた。


「お前の声が、闇の底まで届いた」


ガルムは僕を見た。


「そして、お前の刃が、われを縛る鎖を断った」


今度はカイルを見た。


カイルは言葉を失っていた。


今まで僕だけが聞いていた魔物の声。


誰にも信じてもらえなかった声。


それに、ガルムが答えてくれた。


闘技場は静まり返っていた。


グレイ教官は、その場で震えていた。


安全のためだと信じていた支配の杭。


それが、黒神獣ガルムを闇へ落としかけていた。


もし、レオが杭を抜かなければ。


もし、カイルがレオを信じなければ。


この闘技場どころか、学園も、町も、すべて消えていたかもしれない。


グレイ教官は、ようやく理解した。


自分の無知と思い込みで、神獣を強大な魔獣に変えてしまうところだったのだ。


僕はその場に座り込んだ。


全身が痛い。


腕は焼けるようで、足も震えている。


隣では、カイルも座り込んでいる。


「レオ」


「何?」


「お前、本当に聞こえてたんだな」


僕は苦笑した。


「うん。今日、やっと確信できた」


「なんだそれ。最後まで自信なかったのかよ」


「うん。でも、それでも聞こえた声を無視できなかった」


カイルは少し笑った。


「それが、お前なんだな」


その言葉に、胸が詰まった。


ずっと、落ちこぼれだと思っていた。


魔物の声が聞こえるせいで迷う僕は、勇者に向いていないのだと思っていた。


でも、もしかしたら。


この声が聞こえることにも、意味があったのかもしれない。


カイルはガルムを見上げた。


「魔物の声が聞こえる力か。うらやましいな」


僕たちは顔を見合わせて、少しだけ笑った。


学園長が、僕とカイルの前に立った。


「レオ・アルバ」


「はい」


「君は、誰にも聞こえなかった声を聞いた」


学園長は、次にカイルを見た。


「カイル・ブレイズ」


「……はい」


「君は、その声を信じた」


カイルは照れたように目をそらした。


「途中まで疑っていました」


「それでも最後には信じた。それで十分です」


学園長は、黒神獣ガルムを見上げた。


「今日、この場にいた者は忘れないでしょう。魔物の声が聞こえるという力が、確かに存在することを」


僕は何も言えなかった。


ずっと僕だけを苦しめてきた声。


誰にも信じてもらえなかった声。


でも今日、その声が誰かを救った。


ガルムが僕たちの背後で低く鳴いた。


僕が振り返ると、ガルムは地面に伏せた。


「乗れ、レオ・アルバ」


「え?」


「われを救った者よ。お前の行く道を、われも見よう」


闘技場がどよめいた。


カイルが肩をすくめる。


「神獣に誘われてるぞ。断るのか?」


「いや、でも……」


「行けよ」


カイルは笑った。


「魔物の声が聞こえる勇者候補なんて、お前しかいない」


僕はガルムへ近づいた。


黒い毛並みは柔らかく、金色の光を帯びて温かかった。


恐る恐る背に乗る。


ガルムが立ち上がると、視界が一気に高くなった。


闘技場の生徒たち。


教官たち。


学園長。


カイル。


みんなが、僕とガルムを見上げている。


僕は小さく息を吸った。


「僕は、魔物の声が聞こえる」


もう、それを恥ずかしいとは思わなかった。


「だから僕は、聞こえた声を見捨てない勇者になりたい」


ガルムが空へ向かって吠えた。


それは恐ろしい咆哮ではなかった。


闘技場の空を震わせる、澄んだ遠吠えだった。


その日、落ちこぼれの勇者候補だった僕は、黒悪獣を倒さなかった。


誰にも聞こえなかった黒神獣の声を聞き、闇の底から呼び戻した。


そして僕は、伝説の黒神獣ガルムを、最強の相棒にした。


しばらく、短編を毎日11:50分に更新予定です。

お昼休みにでもお読み頂ければ嬉しいです。

できるだけ斬新なアイデアをひねり出して書いています。

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