魔物を倒せない落ちこぼれ勇者候補、最強の相棒を手に入れた
訓練場の砂の上に、小さな魔物が転がっている。
角兎と呼ばれる魔物だ。
体は犬ほどの大きさしかないが、鋭い角で突っ込まれれば、骨ぐらい簡単に折れる。
駆け出しの勇者候補が相手をする、実戦用の魔物だった。
けれど、もう勝負はついていた。
角兎は僕の剣で傷を負い、もう逃げることもできない。
あとは、とどめを刺すだけ。
「レオ、また止まったな」
グレイ教官の声が、訓練場に響いた。
僕は剣を握ったまま、動けなかった。
角兎が震えている。
赤い目を見開き、荒い息を吐きながら、僕を見上げていた。
――いたい。
――やめて。
声が聞こえる。
耳で聞こえるのではない。
魔物の想いが、胸の奥に流れ込んでくる気がする。
本当に魔物の声なのかは、わからない。
僕の臆病な気持ちが、声になっているだけなのかもしれない。
だから僕は、魔物にとどめを刺す時、いつも遅れる。
勇者としては致命的な欠点だ。
わかっている。
でも、最後の一太刀だけが、どうしても遅れる。
「早くしろ」
グレイ教官が冷たく言った。
「魔物に情けをかける者は、勇者にはなれん」
周囲の生徒たちが笑った。
「また始まったぞ」
「魔物を倒せない勇者。なんでこの学校にいるんだ」
「落ちこぼれ勇者候補」
「角兎一匹に何秒かけるんだよ」
頬が熱くなる。
笑われることには慣れていた。
僕は剣を振り上げた。
角兎が、ぎゅっと目を閉じる。
――こわい。
その声が、胸に刺さった。
剣が止まる。
その瞬間、横から風が抜けた。
金色の髪が視界を横切る。
カイル・ブレイズ。
勇者学園で一番の成績を誇る主席候補だ。
カイルの剣が一閃した。
角兎は、声を上げる間もなく倒れた。
訓練場に拍手が起こる。
カイルは剣を払うと、僕を見た。
「勇者は魔物を倒す者だ。情けをかける者ではない」
僕は何も言えなかった。
正しい。
魔物は人を襲う。
町を壊す。
人の命を奪う。
だから勇者は魔物を倒す。
それが勇者学園で最初に教わることだった。
グレイ教官が僕の前に立った。
「レオ・アルバ。お前は剣の筋も良い。魔力も強い。魔物の知識も豊富だ。だが、その甘さだけで全てを台無しにしている」
「……すみません」
「謝るな。直せ」
教官はそう言い捨てると、訓練場の中央へ歩いていった。
グレイ教官は全員を見回し、声を張った。
「卒業試験では、危険度の高い魔物を用意する。実戦に近い形になる。覚悟しておけ」
僕は剣を握りしめた。
卒業試験で失敗すれば、僕は勇者にはなれない。
落ちこぼれのまま、勇者への道は閉ざされる。
勇者になりたかった。
人を守る勇者に。
父さんも母さんも、僕が勇者学園に入れた時、泣いて喜んでくれた。
「誰かを守れる人になりなさい」
そう言ってくれた。
でも僕は、魔物の声が聞こえる。
倒すべき相手の痛みが分かってしまう。
魔物を倒さなければ、勇者にはなれない。
けれど、聞こえてしまった声を無視してまで勇者になることが、本当に正しいのか。
その答えが出ないまま、卒業試験の日が来てしまった。
僕はもう、自分には勇者なんて無理なのかもしれないと、あきらめかけていた。
卒業試験の日。
学園の大闘技場には、全生徒と教官たちが集められていた。
高い石壁に囲まれた巨大な試験場。
その中央に、分厚い鉄の檻が置かれている。
檻の中には、黒い獣がいた。
狼に似ている。
だが、大きさは狼どころではない。
伏せていても、人の背丈を超えている。
黒い毛並み。
太い四肢。
額には、短い黒角が一本。
そして首元には、黒い杭が深く打ち込まれていた。
杭からは鎖のような紋様が広がり、獣の体を縛っている。
グレイ教官が言った。
「本日の卒業試験は、黒悪獣の討伐だ」
生徒たちがざわめいた。
黒悪獣。
凶暴な魔物。
硬い剛毛に覆われ、動きも素早く、魔法耐性もある。
教本にはそう書かれていた。
カイルも剣を握り直した。
「本物か……」
グレイ教官は満足げに言った。
「心配はいらん。支配の杭で制御している。暴れはするが、完全に制御下にある」
支配の杭。
魔物の動きを縛り、人間の命令を通すための道具。
危険な魔物を扱う時に使われると、授業で習った。
だが僕は、その黒い獣を見た瞬間、胸の奥を掴まれたような気がした。
――われを支配するとは。
僕は息を止めた。
――人よ、われを忘れたのか。
声が聞こえた。
僕の臆病な気持ちではない。
本当に聞こえた。
それは荒々しい言葉ではなく、古く、重い声だった。
――苦しい。
――やめろ。
僕の背筋が冷えた。
これは、ただの魔物じゃない。
僕は図書館で読んだ古い魔物図鑑を思い出していた。
黒い毛並み。
額の角。
金色の目。
闇ではなく光を宿す魔力。
すでに滅びたと書かれていた、伝説の神獣。
「先生」
僕は気づけば声を出していた。
グレイ教官がこちらを見る。
「何だ、レオ」
「あれは黒悪獣じゃありません」
闘技場が静かになった。
グレイ教官の目が細くなる。
「何?」
僕は檻の中の獣を見た。
その金色の目が、僕を見ていた。
苦しみながらも、確かに僕を見ていた。
「あれは、黒神獣ガルムです」
一瞬、誰も何も言わなかった。
次の瞬間、笑い声が起こった。
「黒神獣?」
「伝説の神獣だろ?」
「もう滅びたって授業で習ったぞ」
「また魔物の声かよ」
グレイ教官も呆れた顔をした。
「レオ。黒神獣ガルムは、はるか昔に滅びている」
「滅びていません」
僕は言った。
「まだ幼いだけです。覚醒しかかっています」
グレイ教官の笑みが消えた。
「そんなことが、なぜ分かる」
「声が聞こえます」
また笑い声が起こる。
けれど、カイルだけは笑っていなかった。
僕をじっと見ている。
僕は続けた。
「このまま追い詰めれば、闇に落ちます」
「闇に落ちる?」
グレイ教官の声が低くなった。
「レオ。これは黒悪獣だ。周りを惑わすな」
「先生、試験を中止して調べてください」
「私に逆らうのか。仲間の卒業試験の邪魔をするな」
グレイ教官は僕を睨んだ。
「黒悪獣を討伐する。これが試験だ。戦いたくないのなら、そこで見ていろ。残念だが、君は勇者にはなれない」
僕は下を向くことしかできなかった。
檻が開いた。
黒い獣が、ゆっくりと立ち上がる。
支配の杭が、どくん、と脈打った。
黒い光が杭からあふれる。
ガルムの目が濁る。
――やめろ。
――われに人を殺させるな。
僕の胸に、声が流れ込んだ。
だが、誰も信じない。
誰にも聞こえない。
「始め!」
グレイ教官の号令が響いた。
生徒たちが一斉に動いた。
先頭はカイルだった。
「行くぞ!」
剣が光る。
火の魔法。
風の刃。
氷の槍。
攻撃が黒い獣へ向かう。
だが、効かない。
剣は硬い毛皮に弾かれ、魔法は黒い霧に飲み込まれる。
「硬い!」
「押さえろ!」
「足を狙え!」
黒悪獣が吠えた。
咆哮だけで、前列の生徒が吹き飛ばされる。
カイルは踏みとどまった。
さすがだった。
けれど、カイルの剣でさえ、黒悪獣の皮膚を浅く裂くのが精一杯だった。
「何をしている! ただの黒悪獣だ。お前たちの力なら倒せる!」
グレイ教官が怒鳴った。
「早く討伐しろ!」
支配の杭がさらに黒く光る。
その瞬間、ガルムの体が大きく跳ねた。
苦しげに首を振る。
黒い霧が濃くなる。
額の角が、禍々しい黒に染まり始めた。
僕は叫んだ。
「駄目です! 杭が暴走しています!」
グレイ教官の顔が引きつった。
「馬鹿な。支配の杭で制御できるはずだ。私は確認した。あれは黒悪獣のはずだ」
黒神獣ガルムが前足を振るう。
石床が砕ける。
生徒たちが逃げ惑う。
もう試験ではなかった。
カイルが膝をつき、荒く息を吐いた。
「くそっ……何なんだよ、これ」
僕はカイルのそばへ走った。
「カイル、大丈夫?」
「俺より、あいつを見ろ」
ガルムの体は、黒い光に包まれていた。
その奥で、金色の光が小さく明滅している。
まるで、何かが内側から必死に押し返しているようだった。
けれど黒い光は、そのたびに金色の光を飲み込もうとしている。
ガルムは暴れているのではない。
抗っている。
僕はそう感じた。
「やっぱり、倒す相手じゃない」
カイルが僕を見た。
「レオ。お前、本当に聞こえてるのか」
「うん」
「魔物の声が?」
「僕も自信がなかった。でも、この魔物は声として聞こえる」
「じゃあ、あいつは何て言ってる」
僕はガルムを見た。
「人を殺したくないって」
カイルの目が見開かれた。
その時、グレイ教官が叫んだ。
「全員、総攻撃だ! 黒悪獣を討伐しろ!」
「やめろ! 総攻撃するな!」
僕は叫んだ。
「ガルムに人を殺させたら、本当に闇に落ちる!」
それでも、誰も動きを止められない。
だから僕は走り出した。
「僕が何とかする!」
「待て、レオ!」
カイルが叫ぶ。
僕は振り返らなかった。
「あれは黒悪獣じゃない!」
黒い霧が吹き荒れる。
近づくだけで肌が焼けるように痛い。
でも、止まれない。
あの杭を抜かなければ、いつか人を殺し、神獣が闇に落ちてしまう。
神獣ではなく、誰にも止められない魔獣になってしまう。
「ガルム!」
僕は叫んだ。
「お前は黒悪獣なんかじゃない!」
ガルムの金色の目が、一瞬だけ僕を見た。
その目に、怒りはなかった。
苦しみだけがあった。
「黒神獣ガルムだろ!」
僕はガルムの前足に飛びついた。
硬い毛を掴む。
体が振り回される。
地面が遠くなる。
黒い霧が腕を焼く。
「ぐっ……!」
痛みで手が離れそうになる。
でも、離したら終わりだ。
僕は歯を食いしばり、ガルムの背へよじ登った。
支配の杭は、首の後ろに刺さっている。
近づくほど、黒い光が強くなった。
胸の奥を、また強く掴まれたような気がする。
――苦しい。
――やめろ。
――人よ、なぜわれを縛る。
その声は、さっきよりも低く、濁っていた。
――憎い。
――壊したい。
――すべて、消してしまいたい。
支配の杭に苦しめられ、追い詰められ、神獣の心が闇に染まりかけている。
このままでは、ガルムは人を殺し、闇に落ちてしまう。
僕は叫んだ。
「違うだろ、ガルム!」
杭へ手を伸ばす。
届かない。
ガルムが暴れる。
僕の体が宙へ浮く。
落ちる。
そう思った時だった。
「レオ!」
カイルの声がした。
見下ろすと、カイルがガルムの足元に駆け込んでいた。
「お前ひとりじゃ無理だ!」
「カイル、危ない!」
「うるさい! 俺には声なんか聞こえない!」
カイルはガルムの爪をぎりぎりで避け、砕けた石床を蹴って跳んだ。
「でも、お前が聞こえるって言うなら、信じてやる!」
その言葉に、胸が熱くなった。
カイルはガルムの体に剣を突き立てない。
硬い毛を掴み、僕とは反対側からよじ登ってくる。
「杭はどこだ!」
「首の後ろ!」
「見えてる!」
支配の杭から伸びた黒い鎖のような紋様が、ガルムの体に絡みついている。
カイルはそれを見て、歯を食いしばった。
「これか!」
カイルの剣が閃いた。
黒い紋様の一つが、断ち切られる。
ガルムが苦しげに吠えた。
でも、金色の光がわずかに強くなる。
「レオ!」
カイルが叫ぶ。
「俺が周りの鎖を斬る! お前は杭を抜け!」
「分かった!」
カイルの剣が、次々と黒い紋様を斬っていく。
一本。
また一本。
支配の力が薄れていく。
けれど、そのたびに黒い光が弾け、カイルの腕を焼いた。
「ぐっ……!」
「カイル!」
「止まるな!」
カイルは叫んだ。
「レオ、自分を信じろ! 俺は、お前の心が強いことを知っている。負けるな!」
僕は歯を食いしばった。
杭を掴む。
熱い。
手のひらが焼ける。
それでも離さない。
「抜けろ……!」
杭はびくともしない。
カイルが最後の黒い紋様に剣を叩きつけた。
刃が欠ける。
それでも、カイルはもう一度振った。
「割れろおおおっ!」
黒い紋様が砕けた。
杭の光が一瞬だけ弱まる。
「今だ、レオ!」
僕は全身の力で杭を引いた。
動かない。
まだ足りない。
その時、カイルが僕の隣へ来た。
「一緒に引くぞ!」
「わかた、抜くんだ!」
カイルは欠けた剣を杭の根元に差し込み、てこのように力をかけた。
僕は杭を掴む。
カイルは剣を引く。
黒い光が弾ける。
ガルムが咆哮を上げる。
闘技場全体が震えた。
「戻ってこい、ガルム!」
僕は叫んだ。
「お前は神獣だ!」
カイルも叫んだ。
「聞こえてるんだろ、神獣!」
僕はカイルを見た。
カイルは歯を食いしばったまま笑った。
「俺には聞こえないけどな!」
その声に、ガルムの金色の光が強くなった。
僕は最後の力を込めた。
「お前は、黒神獣ガルムだ! 闇なんかに負けるな!」
カイルも剣を引いた。
「抜けろおおおおおっ!」
僕たちの声が重なった。
支配の杭が、抜けた。
黒い霧が空へ噴き上がる。
僕とカイルの体が吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられる。
そう思った。
けれど、僕たちは落ちなかった。
大きな尾が、僕たちの体を受け止めていた。
ゆっくりと地面へ降ろされる。
僕は顔を上げた。
ガルムの体を包んでいた黒い光が消えていく。
代わりに、金色の光があふれ出した。
黒い毛並みの中に、神聖な紋様が浮かぶ。
まだ幼かった神獣が、覚醒したのだ。
額の角は、黒ではなく、金の筋を帯びて輝いている。
濁っていた瞳は、静かな金色に戻っていた。
闘技場の誰かが、震える声でつぶやいた。
「黒悪獣じゃない……」
別の誰かが言った。
「本当に、黒神獣ガルムだ……」
ガルムは僕とカイルの前に立った。
そして、ゆっくりと頭を下げる。
僕は震える手で、ガルムの鼻先に触れた。
温かい。
生きている。
助かった。
そう思った、その時だった。
「聞こえていたぞ、人の子」
低く澄んだ声が、闘技場に響いた。
誰もが息を呑んだ。
それは唸り声ではなかった。
魔物の鳴き声でもなかった。
人の言葉だった。
ガルムが、僕たちを見ていた。
「われを呼び戻したのは、お前たちか」
僕は震える声で答えた。
「……レオ。レオ・アルバです」
カイルも、呆然としながら名乗った。
「カイル・ブレイズ……です」
ガルムは金色の目を細めた。
「ならば覚えておこう。レオ・アルバ。カイル・ブレイズ」
その声は、僕だけではなく、闘技場の全員に届いていた。
「お前の声が、闇の底まで届いた」
ガルムは僕を見た。
「そして、お前の刃が、われを縛る鎖を断った」
今度はカイルを見た。
カイルは言葉を失っていた。
今まで僕だけが聞いていた魔物の声。
誰にも信じてもらえなかった声。
それに、ガルムが答えてくれた。
闘技場は静まり返っていた。
グレイ教官は、その場で震えていた。
安全のためだと信じていた支配の杭。
それが、黒神獣ガルムを闇へ落としかけていた。
もし、レオが杭を抜かなければ。
もし、カイルがレオを信じなければ。
この闘技場どころか、学園も、町も、すべて消えていたかもしれない。
グレイ教官は、ようやく理解した。
自分の無知と思い込みで、神獣を強大な魔獣に変えてしまうところだったのだ。
僕はその場に座り込んだ。
全身が痛い。
腕は焼けるようで、足も震えている。
隣では、カイルも座り込んでいる。
「レオ」
「何?」
「お前、本当に聞こえてたんだな」
僕は苦笑した。
「うん。今日、やっと確信できた」
「なんだそれ。最後まで自信なかったのかよ」
「うん。でも、それでも聞こえた声を無視できなかった」
カイルは少し笑った。
「それが、お前なんだな」
その言葉に、胸が詰まった。
ずっと、落ちこぼれだと思っていた。
魔物の声が聞こえるせいで迷う僕は、勇者に向いていないのだと思っていた。
でも、もしかしたら。
この声が聞こえることにも、意味があったのかもしれない。
カイルはガルムを見上げた。
「魔物の声が聞こえる力か。うらやましいな」
僕たちは顔を見合わせて、少しだけ笑った。
学園長が、僕とカイルの前に立った。
「レオ・アルバ」
「はい」
「君は、誰にも聞こえなかった声を聞いた」
学園長は、次にカイルを見た。
「カイル・ブレイズ」
「……はい」
「君は、その声を信じた」
カイルは照れたように目をそらした。
「途中まで疑っていました」
「それでも最後には信じた。それで十分です」
学園長は、黒神獣ガルムを見上げた。
「今日、この場にいた者は忘れないでしょう。魔物の声が聞こえるという力が、確かに存在することを」
僕は何も言えなかった。
ずっと僕だけを苦しめてきた声。
誰にも信じてもらえなかった声。
でも今日、その声が誰かを救った。
ガルムが僕たちの背後で低く鳴いた。
僕が振り返ると、ガルムは地面に伏せた。
「乗れ、レオ・アルバ」
「え?」
「われを救った者よ。お前の行く道を、われも見よう」
闘技場がどよめいた。
カイルが肩をすくめる。
「神獣に誘われてるぞ。断るのか?」
「いや、でも……」
「行けよ」
カイルは笑った。
「魔物の声が聞こえる勇者候補なんて、お前しかいない」
僕はガルムへ近づいた。
黒い毛並みは柔らかく、金色の光を帯びて温かかった。
恐る恐る背に乗る。
ガルムが立ち上がると、視界が一気に高くなった。
闘技場の生徒たち。
教官たち。
学園長。
カイル。
みんなが、僕とガルムを見上げている。
僕は小さく息を吸った。
「僕は、魔物の声が聞こえる」
もう、それを恥ずかしいとは思わなかった。
「だから僕は、聞こえた声を見捨てない勇者になりたい」
ガルムが空へ向かって吠えた。
それは恐ろしい咆哮ではなかった。
闘技場の空を震わせる、澄んだ遠吠えだった。
その日、落ちこぼれの勇者候補だった僕は、黒悪獣を倒さなかった。
誰にも聞こえなかった黒神獣の声を聞き、闇の底から呼び戻した。
そして僕は、伝説の黒神獣ガルムを、最強の相棒にした。
しばらく、短編を毎日11:50分に更新予定です。
お昼休みにでもお読み頂ければ嬉しいです。
できるだけ斬新なアイデアをひねり出して書いています。
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