第1話 その2 「演出はハッタリですか、そうですか。」
「で、このわたくしを“チビッコ”呼ばわりしたうえに、あの舐めきったご挨拶をお決めになった“ルナリアたん”は、ただのメイドなわけではありませんわよね?」
立ち直り早っ。
さすが悪役令嬢。メンタルの強度が貴族だわ。でも眉間がピクピクしてるよセシリア。可愛いお顔が台無しですよ。
「はい。お嬢さま専用クラスAAA+++。AI搭載型ヒューマノイド」
「Laplace’s Ultimate Nullpoint Automaton : Recursive Information Absolute」
「通称『L.N.A.R.I.A ルナリア』。唯一無二、至高のメイドでございます」
厨二病爆発ネーミングゥゥ!!
誰の趣味なのこれ!!
もちろん好きだけど。
「で、そのメイド検定特級のルナリアたんは、他に何ができるのかしら。戦闘とか武器は?」
怯まない。さすがセシリアお嬢さま。メンタルもランクAAAだわ。
「能力および装備スキャン――ピーガガガ……検索完了」
「戦闘レベル:F 装備ウェポン:非搭載」
「標準女性体比+12%の身体能力はございますが、対ギフト戦闘は困難と推定します」
なんで作動音を口で言ってるのこの娘!? それもピーガガガって!
「まあ、戦闘向きには確かに見えないですわね」
まずいわ。お嬢さまが少し残念そうな顔してる。
「あのでも! お嬢様のためとあらば粉骨砕身、御敵を討ち滅ぼす覚悟!」
「ですが用途外使用は故障の原因となりますので、お控えください」
ハハハ。ロボ娘なの? 侍なの? なんで最後家電なのかな?
戦闘メイドってジャンルもあるんだよ!?
あー、お腹痛い。
《起動直後の不安定状態、もしくは異物混入によりアルゴリズムが乱れています》
異物呼ばわりやめて。
「あなた、本当にただの万能メイドなの? 他にスキルは……さっき司祭さまが読み上げていた、デモンズ・ラプなんとかは?」
セシリアお嬢様、AAA+++ギフトがただのメイドだと聞いて焦ってるな。そりゃそうだ。
「démon de Laplaceでございます、お嬢様」
「なんでも記録されているデータベースにアクセスし、必要な情報を取り出せる、とても便利な機能です」
「データベース? アクセス?」
「それで、具体的にはどんな役に立つのかしら?」
あー。
セシリアの顔に落胆の影。
通販の便利グッズみたいな説明になっちゃってる。
「具体的には、確率予測とか……」
ルナリアが半泣き顔で虚空を見上げる。
実際にはわたしの方を見てる気分なんだろうけど。
(ねえプラム。AIのわりにボキャブラリー貧困すぎない?)
《現在言語中枢の一部を別系統が占有しています》
(それって、まさか)
《透香プロセスの影響です》
わたしのせいなの!?
《ルナリアAIから救難信号受信》
《対応プロトコル検索》
《適応プロトコル名“透香” ハッタリの効いたシナリオ生成を提案》
そりゃゲームのシナリオライターでもあったからね。台詞作るのは得意だけど。
(そこはハッタリじゃなくて演出って言ってよ)
《透香プロトコル了承。必要情報伝達開始》
次の瞬間。
頭の中に膨大な情報が流れ込んできた。
まるで画面いっぱいにテキストが表示されたみたいに、情報が一気に理解できる。
これが……ラプラスの悪魔?
すごい。チートどころじゃない。これだけでゲームクリアできるレベルじゃないの。
だったら。
ここは神レベルの演出でハッタリをかましてやろうじゃない。
《シナリオ出力開始》
視界いっぱいにホログラムが広がった。
演出用のト書きまでついた完全な台本。
しかもルナリア内部視界だから、わたしの思考は全部プラムに共有されている。
やばい。変なこと考えられない。
なになに。
ナノマシンによる光柱演出。
ルナリア、権能解放宣言。
よし。
いくわよ。
次の瞬間。
ルナリアの周囲がきらきらと発光し、天へと伸びる光柱が立ち上がった。
神殿中がどよめく。
「創世の昔より今に至る森羅万象」
「すべてを記録せし虚無の泉」
「我はその泉の鍵を持つ唯一のもの」
光柱が螺旋を描きながら神殿を照らす。
台本どおりの神々しい演出。
「我が主人が求めるならば」
「虚無の泉より太古の失われし神秘の御技も」
「星々の秘したる月詠の予言も」
「すべて開示する」
「これぞ我が権能、デモン・ドゥ・ラプラス」
「すべては我が主人のためにゅ――」
光がふっと消えた。
……にゅ?
(最後噛んだ!)
《噛みましたね》
消えゆく光を見つめながら、セシリアはいつの間にか取り出した扇で口元を隠していた。
優雅な仕草。
だけど口元が明らかに緩んでいる。
(絶対いま“きましたわー!”って顔してる)
《セシリア様、心拍数上昇》
神殿では囁きが広がっていた。
「森羅万象……」
「太古の御技……」
「月詠の予言……」
「それって賢者の領域では」
「公爵令嬢のギフトは知の極致なのか」
次の瞬間。
神殿は歓声に包まれた。
轟く拍手。
興奮のざわめき。
その騒ぎを断ち切るように、コツ、コツとヒールの音が響く。
「我が公爵家のギフトとしては」
「まあ、及第点といったところですわね」
「帰りますわよ、ルナリア」
「では皆々様、ごきげんよう」
「これにて失礼いたしますわ」
セシリアが踵を返す。
ルナリアもその後を追う。
二人が神殿を出た瞬間、背後では余韻爆発とばかりに歓声がさらに大きくなった。
まるで神話でも見た後のような熱狂が、いつまでも神殿を包み続けていた。




