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第1話 その1 「はじめまして、ご主人たま♡」

 セシリア!?


 こちらを訝しげに見つめる瞳は深淵の黒曜石みたいに澄んでいて、コルセットで締め上げられた中世風の赤いドレス。肩口にふわりとかかるツインにまとめられた縦ロール。


 艶やかな黒髪と整った顔立ち。まだ幼さを残しているのに、どこか妖艶で不遜。そして魅惑的な口元。


 セシリア・フォン・アーネスト。


 わたしが制作していたゲーム『聖女と薔薇の刻証 ~Rose et Sainte~』に登場する悪役令嬢。そして――わたしの推しキャラ。


 キレイ。カワイイ。ちっさ!


 いけない、つい興奮してカタコトになっちゃう。身長百四十九センチ。わたしが設定したセシリアの身長。実物を見ると……ちょっと小さすぎたわね。


 ごめんね。狙いすぎちゃった。あと五センチくらい大きくしてあげればよかったね。エヘッ。


 そんなわたしの感情とは関係なく、わたしの体がぶるっと震えた。


「チビッコ♡」


 わたしが小声でそう呟いた。


 ルナリアAI、おまえもか! と心の中で思わず突っ込む。小さい子って可愛いもんね。仕方ないよね。


 神殿に神官の荘厳な声が響く。


「セシリア・フォン・アーネスト! 神より与えられしギフト名『ルナリア』クラスAAA+++ 最上級」


 神殿に居合わせた人々から歓声が上がった。


「最上級なんて初めて見た、さすが公爵家の誇る才女だ」


「これで次期王妃候補筆頭確実だな」


 口々に称賛の声が上がる。ざわめく人々の声に反応し、ルナリアの体が周囲を見回した。


 おー、天井高い。柱太っ。


 吊り下がっているのか支えているのかよく分からないけど、巨大な柱が中央に床から天井までドーンとそびえ立っている。


 表面には装飾というより電子部品や基板の回路を連想させる幾何学模様がびっしり刻まれていた。その柱の前、神殿の中央でわたしとセシリア様が向かい合っていた。


 この光景、どこかで見た気がする。


 あっ。


 思い出した。


(これって血の盟約の儀式!?)


《量子生体認証による適合アーティファクト起動検証。現在では血の盟約と呼ばれる儀式です》


 プラム・プロセスの声が答える。


 この世界では誰でも十四歳になると、ギフトと呼ばれる古代超科学文明の便利な道具を一つもらえる。


 だけどその性能はピンキリで、差は天と地。しかも上級ほど良いものが出やすいという鬼畜仕様。


 考えたやつは大罪人である。


 わたしだけどね。


《“透香”の記憶ログには『よくあるスキル獲得イベント』と記録されています》


 身も蓋もない言い方しないでよ。これでもゲームの特色出そうと必死に捻った設定なのに。


《『中世設定のみだとありきたりで凡庸。そこに滅びた古代機械文明を持ってきて魔法も奇跡も科学の産物にこじつけよう。うん、わたし天才』という思考ログを確認》


 なんでわざわざわたしの声を合成して読み上げるの。やめてよ、クリティカルダメージなんだけど。


(乙女ゲーなんだもん。それくらい緩くていいのよ)


《ゲームとしては肯定です》


《ですが設定が現実となった場合、曖昧な要素は存在せず世界は秩序に従って生成されます》


 なんか意味深なこと言ってるな、プラムのくせに。いやAIらしい回答なのか。


 外では神官の声が続いている。


「保有スキル名:ラプラスの悪魔、メイド検定特級?」


 再び神殿内がざわめいた。


「デーモンって悪魔だよな。超絶破壊魔法なのか」


「見た目そのままメイドじゃないのか」


 そんな騒ぎの中心にいるセシリアだけは、神官の言葉などまるで耳に入っていなかった。


 彼女の頭の中では、ただ一つの言葉がリフレインしていた。


「チビッコですって! この高貴なる私に向かって、あろうことかチビッコっておっしゃいましたわね!」


 怒ってるのそこなの?


 しかも怒りマックス状態。ごめんなさい。わたしの嗜好が原因です。


 本当に可愛いんですよ。でもそんなに睨まないでください。怖いです。目を逸らしたい。


 そう思った瞬間、視界がズレた。


 いや、切り替わった。


 ルナリアの視点から、ルナリアとセシリアを俯瞰する外部視点に放り出された。


(プラム、なにこれ?)


《空気中のナノマシン操作による外部視覚切り替えです。透香が今、自分で切り替えました》


(まともに顔見れないってそういう意味じゃないからね)


 まあ切り替わったものは仕方ない。それにこの機能、ちょっと便利かも。


 外から見たルナリアは銀髪碧眼でメイドスタイル。それもフリルたっぷりの短いスカートのフレンチメイド。


 ……フレンチメイド?


 えっ。


 このデザイン見覚えある。


 というか、わたしのトラウマ。


 高校の文化祭。クラスの出し物。メイド喫茶。無理矢理着せられたメイド服。


 それじゃない!?


 そのメイドが、今まさに優雅にスカートの裾をつまんで会釈した。


「はじめましてご主人さま♡」


 胸の前で両手を合わせ、満面の笑顔。


「ご主人様の専属メイド」


「ルナリアたんでーす♡」


 両手でハートを作って前に突き出す。


「よ・ろ・し・く・ね ご主人たま♡」


 イヤァァーー!!


 決めやがった。文化祭で練習させられた『キャピキャピメイドご挨拶』を完璧に。


 なんなのここ。異世界じゃなくて羞恥地獄なの?


 セシリアが引きつった顔で固まっている。


 そうだよね。いきなりご主人たまだもんね。


 っていうかルナリア。なんであんたまで顔真っ赤なの。恥ずかしいならやるな。


(やっぱりここ地獄なの?)


《透香の記憶をスキャンし、最も可愛く自己アピールできたと認識されている記憶を参考にしました》


(違うから! 恥ずかしいだけだから!)


《深夜に姿見の前でポーズを決めて心拍数を上げている記憶ログもあります》


 スタンドミラーの前でメイド服ポーズを取ってニヤけていた自分の記憶がフラッシュバックした。


(あああ違うのよ!)


 羞恥MAX。


(そりゃ女の子だもん。メイド服着たらちょっとくらい可愛いって思うでしょ!)


《実践すると絶望的に痛いですね》


(やっぱり地獄だった。ころして)


《神殿内の聴衆者心理解析完了》


《85.4% 興味喪失および積極的関係構築拒否》


《いわゆるドン引き状態です》


 なんでそんな分析読み上げるの。


《残り12%は好意的感情および極度の興奮状態》


《一部に恋愛感情の兆候あり》


《朗報ですね》


(それのどこが朗報なのよ、プラム)


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