第4話 その2 「なんでも出来るわけないよね」
午前中の「アーネスト家謝罪の旅」も大好評のうちに終了いたしました。
特にお屋敷で働く方々の託児施設では子どもたちに大変好評をいただきました。秋の感謝祭の出し物ででぜひ魔法少女の寸劇をとの熱いご要望もございましたが、『やなこったい』でございます。
お嬢さまにおかれましてはその後の話ではございますが、青白ストライプの囚人服をえらくお気に入りになられてナイトウェアとして愛着されております。
ほんとはね、すごく疲れた。
体力も精神力もごっそり削られたよ。
終わった時にはお嬢さまと2人で魂抜けかけたもん。
でも、なんとか苦難の旅を無事乗り越えました。その後は、ランチに午後のお嬢さまのダンスや習い事のお手伝い。アフタヌーンティーと慌ただしく過ごし、ようやくディナーの前にお嬢さまのお着替えの為、お部屋に戻ってまいりました。
王国歴の座学のノートを机に放り投げ
「うーん」と指を組んだ両手を上げてお嬢さまが背伸びする
「ルナリア! わたくし、とってもいい案を思いつきましたのよ」
こっち見てカワイイ瞳をくりくりっとしてるけど、可愛らしくないこと思いついたんだろーな。
「どのようなことでございましょうかお嬢さま」
「どのようなことって、もちろん学園での魔力実習の件よ」
「魔力実習やスキルのお披露目については、隠蔽はもう無理とのご結論をお出しになられたのでは?」
「そのとおりよ。あんな小手先で騙せるなんて思う方が愚かよ」
ここ数日その愚かに全力でぶつかって玉砕したの誰でしたか――
「無理なものは無理。どんな王様だって貴族だって持っていない魔法は使えないのよ」
ここでお嬢さまがドヤ顔で、人差し指を合わせるように振りながら
「で・も・ね! 王様や貴族がみんながみんな、なんでもできて優秀ってわけでもないでしょう」
「中には才能に恵まれなかった方やちょっと残念な方もいらっしゃいますが、それなりに家格を維持できておりますでしょう」
『自己紹介?』布団の奥でネコ耳ルナリアが、とんでもないこと呟いてるけど聞こえないわ。
お嬢さまは、再びドヤ顔決めて
「そ・れ・は・ね! その家を守る優秀な武官や文官がいるからよ」
「すなわち,自分にできないことは才能ある下にやらせればいいのよ。これぞ上に立つものの不文律の心得よ」
「そしてその賞賛を受けるのは、上に立つ者の義務なのよ」
実に清々しいクズ上司ぶりですお嬢さま。
悪役令嬢道の階段をまた一歩上られましたね。
でもねその階段の上はきっと絞首台ですよ。
早く降りてー!
「だからわたくしの魔法も、使える者にやらせればいいのよ。どう素晴らしい発想でしょう」
「ですがお嬢さま、従者の使った魔法じゃ学園の実習は通りませんよ」
「ギフトのわたしもお嬢さま以外の他者に対する魔法は持っていませんよ」
「そんなの分かってますわよ。それにあなたはわたくしにも魔法を使えないポンコツじゃないですの」
「そんなー! ポンコツだなんてひどいです。魔法を使えないのはお嬢さまの体質のせいじゃないですか。それならポンコツはお嬢さまの方ですよーだ」
「よくもおっしゃったわね。そこに直りなさい今すぐそのポンコツの減らず口を首から落として差し上げますわ」
お嬢さまが壁にかけてるサーベルに手をかけてこっちに向き直る。こうなったらわたしだって後に引けませんよ。
「いやですーポンコツっていう方がポンコツなんですよー! イーだ!」
お嬢さまは頭から湯気をピーって吹き出して、こちらに突進してくる。でもね、こちらも普通の女の子の1割増しくらいには強化されたヒューマノイドボディ。おまけに今この躯体を操作しているのはこの"透香様"だからね。
自慢じゃないけど、オタクの腐女子でも実は運動神経いいのだ。おまけにお祖父様の実家は剣道場。わたしも昔から習ってて、全国行けるくらいには強いのだよ。エッヘン!
そんなわけでお嬢さまの剣なんてヒョイと交わして逃げ続けられるのよ。もっとも、お嬢さまも本気ではないんだろうけどね。
要は本日のドタバタのストレス発散の為の楽しい乙女のコミュニケーションでレクリエーションよ。ひとしきりドタバタしてもうディナーの時間も迫ってきてるから、ヒョイっとお嬢さまから剣を取り上げてレクリエーション終了です。
「はぁはぁ……なかなかやるわね。ルナリア! それでこそわたくしのメイドですわ」
「お嬢さまこそなかなかでございましたよ。さすが文武両道のアーネスト家ご息女様ですわ」
と互いを褒め称えつつ、隙ありとばかりに再度襲ってきたお嬢さまをいなしてベッドにポイっと放り投げる。
隙ありじゃなくて騙し討ちですよそれ。
「はぁー もういいわ。それでどこまで話しましたかしら」
「ポンコツのくだりまでですか?」
「ムッー! だからそれはもういいの話を進めますわね」
「要は私の代わりに魔法を使えてわたしの評価になるものを使えばいいのよ」
《召喚獣のことと推測》
(その手があったのか)
「さすがですお嬢さま それ絶対いいです」
(あれでもお嬢さまの体質で召喚魔法なんて使えるの?)
《無理です 召喚獣は擬似生命プログラムを使ったナノマシンによる物質生成です》
《但し、この世界に存在している魔獣を手懐けて召喚獣代わりに使役することで偽装できる可能性はあります》
やっぱりどこまでいっても誤魔化しの茨の道なのですねお嬢さま。
「で、どのような召喚獣をお考えになさってるのですか?」
「知らないわ。あなたが考えなさいルナリア」
「高貴な私にぴったりな優雅で美しくゴージャスで、誰もが認めざるを得ない召喚獣を調べなさい」
「結果はまた夜に聞きますわ。まずはディナーに行きますわよ。準備なさい」
お腹が空いてきたので考えるの面倒になって丸投げしたのね。
VR空間で布団にくるまりながらネコ耳ルナリアが、アカシックレコード監修「セカイのどうぶつ大図鑑」を読んでるから、わたしも丸投げでディナーにいこうっと
そうして美味しくディナーも済ませて、その後お部屋に戻ってお嬢さまは自習タイム。
わたしはセバス様やメイド長その他執務官や護衛の近衛の担当者と明日の予定なんかを打ち合わせて、お部屋に戻りお嬢さまの入浴のお付き添い。入浴後の各種スキンケア、縦ロールのためのラグカールを巻いて就寝準備すべて整いました。
「ルナリア! わたくしに相応しい召喚獣は見つかりまして?」
寝る前に絵本読んでーってお願いしてくるこどもみたいに期待いっぱいで聞いてきますね。
(ルナリア決まった?)
脳内会議のVR空間で布団からノソノソと出てきてネコ耳ルナリアが「セカイのどうぶつ大図鑑」の開いたページをこちらに向けた。
(あっこれがあったか。さすがルナリア)
《その魔獣は性質に問題が……》
と言いかけるプラムを押し除けてネコ耳ルナリアが親指立ててgoodの決めポーズ
「それでは発表いたします」
「お嬢さまに相応しい召喚獣は……」
ドルルルルル…………(ドラムロール)
「美しく優雅でゴージャス誰でも知ってる……」
ドルルルルりゅ……ジャン‼︎
次回に続く……




