第4話 その1 「転んでも、何も拾わずただで起きてね」
朝のお屋敷。
お嬢さまを起こしに部屋に向かう途中――
「おっ!ルナリア、今日は普通の格好だな。昨日のは、もう着ないのかい」
「おはようございます。全部忘れて!」
「あっルナリアちゃん すごかったね。食堂の屋根が無くなっちゃったもんね」
「おはようございます。申し訳ございません、もう2度といたしません!」
ヤバい、わたし、ヤバい。
もう今すぐクルッとターンして自室に戻って引きこもりたい。
何故こんな目に遭ってるかといえば、昨日お嬢さまとやらかしました。
「ドッカーン・ルナリアちゃん大作戦」が、お屋敷全体に思いの外、甚大な被害をもたらしてしまい、お屋敷のみなさまには、大変なご迷惑をおかけいたしました。
本当にごめんなさい。悪ノリしすぎました。
というわけで、わたしは有能メイドから手榴弾片手の危ない魔法少女に見事にジョブチェンジ達成。
昨日から屋敷中のみなさまにイジられております
《自業自得と分析》
『朝からテンション低いね、透香』
冷徹ロボと脳内引きこもりAIがきた。
昨日の「ルナリアちゃん」の魔法少女の衣装とセリフが羞恥の限界を超えたルナリアAIは、ルナリア躯体の制御をわたしに押し付けて逃亡。
現在も脳内VR空間で布団かぶって絶賛引きこもり中というわけでわたし“透香”が、昨日に引き続きルナリアのメインパイロット。
思ったより自分の身体然として動くものだね。
《ルナリア躯体は透香をベースで設計されてます》
(わたしのロボってこと?)
《有機ヒューマノイドです》
うーん よくわからない。などと言ってるうちに共犯者さまの自室前に到着。
まあやってしまったことは仕方ないよね。切り替えていこう!
共犯のお嬢さまの部屋に入ってカーテンを開けながら
「朝ですよ お嬢さま、おはようございます」
「朝なんて来なければいいのに」
お嬢さまも朝から、テンションだだ下がりですわ。
とりあえずガウンをおかけして、いつものように水差しで洗面器に水を注ぎながら
「今日は庭師のおじさん『昨日の爆風で花が全部散っちゃたよ』ですって』
わたしの朝の憂鬱もお裾分け♡
「うきゅー!」
洗面器に突っ伏しちゃった。効果はバツグンだ。
入水自殺手前で、お嬢さまをお引き上げして、鏡台の前に座らせてお髪を整えましょうね。ラグカールを外して、縦ロール整えてっと
鏡に映った自分の顔を見て、昨日のことを思い出したのか不機嫌そうな顔がワナワナと歪んだと思ったら――フラストレーションが、堰を切ったように言語変換されちゃった。
「どうしてわたくしがこんな誹りを受けなけれならないの! 」
「ちょっと無断で手榴弾を持ち出して、お屋敷の一部を吹っ飛ばしただけじゃない」
「それに実行犯はわたくしじゃなく、そこの駄メイドじゃありませんの」
確かに投擲犯はわたしです。ごめんなさい。
「それなのにわたくしが!この高貴なセシリア・フォン・アーネストが何故、こんな屈辱を浴びねばならないの」
「まさに不条理ですわ!悲劇ですわ!」
「とにかく、屋敷の皆さまに謝罪して回るなんて……それもあの、あのような惨めなものをぶら下げて回るなど、高貴なわたくしには耐えられませんわ!」
もうお嬢さまいい加減諦めてくださいよー
お嬢さまが何をそんなに嫌がっているかと言うと……
* * * *
昨日、ドッカーンとお屋敷を爆破した犯人2人は、アーネスト家自慢の手榴弾のあまりの威力に口アングリ状態。そこから我に帰って青くなって、その場から逃亡を企てた。
その瞬間、どこからともなく湧いてきた、セバス執事長とその配下らしい黒服にその場で引き倒されて後ろ手で拘束されちゃった。
それでもさすがお嬢さま 即文句が出てくるのね。
「セバス、その手をお離しなさい高貴なわたくしに触れっ!?」
セバスの肉厚のナイフがお嬢さまの喉元にピタリと当てられ、その冷たさに文句もピタリ。そして感応するかの如く、青ざめていくお嬢さまの耳元で
「セシリア様といえど、軍備品の無断持出不正使用は看過できませんな」
「軍法会議は免れぬとお覚悟ください」
お嬢さまが青い顔でコクンコクンと頷くと、喉元からナイフがゆっくりと離された。
その後犯人2名は軍事法廷という名の、近衛兵団の夕食賑わう食堂に手枷付きで連行されました。
おまけにここ、今回の爆破現場なのよね。屋根が吹っ飛んで青空食堂もとい星空食堂です。オープンエアーです。ゴメンなさい。
「おっ!テロリストお嬢さまのお出ましだー」
「ヒュー、ルナリアちゃんサービス衣装かい! ハハッハー」
などの手厚い歓待を受けあーだーこうだと、酒の肴がわりに和やかに軍法会議が進み。
「判決!」
「此度のテロリスト犯2名には、罰として明日午前中にお屋敷中を謝って回ることをもってその処分とする」
「但し、セシリア様には囚人服、ギフト・ルナリアはその魔法少女衣装のままで、両名ともこのプラカードを首にかけて回ること。以上!」
どっと、食堂に笑いと歓声が上がった。
プラカードは紐で繋がった2枚の板で、首にかけると胸と背中に板が掲げられる。
お嬢さま用は胸に「爆破犯ですわ♡」背中に「猛反省中でしてよ」
わたしが前は「魔法少女ルナリアちゃん参上♡」で後ろが「爆破しちゃうぞ!」
おまけにお嬢さまの囚人服は青と白の太い横ストライプのワンピース
これでお屋敷中回るのか、あー恥ずかしいだろうな。なんて考えていたら、横でお嬢さまは
「わたしは悪くない……わたしは悪くない……」
って小声で呪文唱え続けておりました。
アーネスト家ってかなり厳しい教育方針なのに、鋼の悪役令嬢は砕けないのね。
* * * *
そんなわけでこれからご朝食を済ませたら、お嬢さまとお着替えして素敵なお屋敷巡りが待ってるのに、お嬢さまってば文句ばっかりなんだもん。ワガママ!
「イヤよ。イヤ!絶対に無理よ。こんなセンスの無い服に袖を通すなどできないわ」
「そうよ、ルナリアあなた1人で回ってちょうだい! ねえ、そうしてお願いよ」
諦め悪いな、このお嬢さま。
「そういうわけにはまいりませんのは、ご自身もよく分かっていらっしゃいますよね」
「もういい加減にお諦めくださいませ、お嬢さま」
「分かってたってイヤなものはイヤなの! イヤって言ったらイヤなんですー」
とうとう「お嬢さま言葉」まで決壊しちゃったのね。お労わしい。
「こんなのイヤイヤ! 誰か変わりなさい。そうよ、イヤなことなんて誰かにやらせればいいのよ」
「この高貴なわたくし、セシリア・フォン・アーネストが自ら矢面に立つ必要などないのよ!」
お嬢さまはもう、悪役令嬢スキル「身代わりを捧げて逃走」が発動しかかってます。
駄々こねくり回してイヤイヤしてたお嬢さまが、突然何かに気づいたような表情を浮かべた。
「はっ! そうだわ。これだわ! 魔法が使えないなら、代わりに使えるものに使って貰えばいいんだわ」
「何故こんなことに気づかなかったのかしら、わたくしとしたことが フフフフ」
どこから出したのか、扇子で口を隠してほくそ笑み出したんですけど。
何、なに、いったいどうしたの?
「そうと決まれば ルナリア! 嫌なことは素早く終わらせましょう」
「サッサと着替えてお屋敷を回りますわよ」
「早く用意なさい」
お嬢さまが突然やる気になったのに面食らいながらも、お嬢さまを青白ストライプの囚人様にモードチェンジさせて首にプラカードっと
あらカワイイ♡
「お嬢さま何をお召しになっても素敵ですわ」
「うっさい駄メイド! さあ、まいりますわよ」
機嫌良くなったのはいいけどお嬢さまのあの扇子の下の笑顔。
絶対これ、またろくでもないことを思いついたんだろうなー




