9.まだ2日目なんですが
目が覚めるとやっぱり父様の腕の中にいた。モゾモゾと動き腕から抜け出す。
昨日は泣きながら寝てしまったらしい。せっかくだから父様と色々お話したかったのに残念だ。
でも、母様の声も聞けて姿も見れた。そんなこともう絶対起こりえないと思っていたのに。
時計を見ると昨日と同じくらい五の刻を回ったあたりだ。
そういえば着替えとか準備とかどうすればいいのかな。
ここは父様の部屋だし、一緒に寝る事になっているのだから下手に部屋に戻るのは良策じゃない気がした。
そして、今お祈りをしないとお祈りをする時間が無くなる気もしていた。
きっと今日もまた一日お貴族様生活をしないといけないのだから。
カーテンを開くと、窓の先は広いバルコニーになっているようだ。ちょうどいいと窓を開け……たかったけど鍵がよく分かんない仕様だった。この筒状の突起に魔力込めればいいのかなと魔力を込めてみたがバチンと弾かれる。何かの魔法がかかっているようだ。
「どうした?」
「わっ」
むくりと起き上がった父様が目を擦りながらこちらを見ていた。
「ご、ごめんなさい」
「謝ることはないよ。外に出たかったのかい?」
コクリと頷く。
父様は私の後ろに立つと、「よく見ておきなさい」と私の手を通して突起に魔力を流した。
「うちの屋敷の鍵は複雑にしていてね、魔力を流す量と魔力を通す順番が正しければ開くようになっている」
へーと聞きながら父様から流される魔力の感触で魔力を通す順番を覚える。この屋敷には魔法がある程度使える使用人しかいないが、鍵を開けれるようになるまでは結構な熟練度が必要なんだそうだ。
父様はカチャッと鍵を開けて見せたが、トンっと魔力をぶつけすぐに閉じてしまった。閉めるのは適当に魔力を当てれば一発で閉まるらしい。自動で鍵が閉まるなんてすごい。
「やってみなさい」
「はい!」
どうやら私に実践させようとしたらしい。さっき父様に見せてもらった通りに魔力を通す。ちょっと細かい動きが必要で針に糸を通しているような感覚だったが難なく鍵を開けられた。
ドヤァと父様を見上げると「さすが私の子だ」と撫でられた。
扉を開けてバルコニーに出る。
今日はちょっと曇っているようだ。
そして太陽も出ていない時間だったのか薄暗い。キョロキョロと空を見ていると父様は東棟の方を指さした。
「太陽はあちらだ」
「えっ?」
「お祈りをするんだろう?」
「うん」
女神様の依り代がない時、通常は太陽に向かってお祈りをするのが基本だ。太陽に向かって座ると父様も横に座った。一緒にお祈りしてくれるみたい。
手を組み女神様に祈る。
女神様。私は父様に会うことができました。母様の姿を見ることも出来てすっごく嬉しいです。お貴族様は大変かもしれないけど頑張ります。
お祈りを終えて部屋に入る。父様は腕を組んで何か悩んでるみたいだ。
「聖堂でも作ろうか?」
「いや、いらないです」
即答した。流石にそれはやりすぎです。というか、そんなパン食べる?くらいの軽いノリで言わないで欲しい。感覚の違いにビビるから。
六の刻を回った頃にリュートさんとマリーさんとチエルさんが起こしに来てくれた。
父様にまた後でねとバイバイすると、そのままマリーさんとチエルさんについて自室に向かった。
「さぁお嬢様!今日はどの服を着ますか?」
マリーさんに背中を押され、昨日買った服の前に立つ。
どの服を着る?と、言われてもいっぱいありすぎて選べないよ……。
「マリー。お嬢様が困っているでしょう?」
「だって早く飾りたくて仕方ないんですもの!」
マリーさんはニコニコしながら、コレは?コレは?と服を出してくる。
「マリーさんのオススメでいいよ」と言うと、マリーさんは「真剣に考えさせていただきます!!!」と服を睨み始めた。
「こちらはいかがでしょう!ワンピースなのですがカラフルなお花の刺繍が可愛らしく、今日のような曇り空の下でくるりと回ればスカートが広がってお嬢様は間違いなく太陽になられるでしょう。絶対可愛いと思います!!」
力説だ。目がかっぴらいていてちょっと怖い。「それにしますぅ」とこくこくと頷くとチエルさんがちょっぴり怒気を含んだ声でマリーさんを叱った。
「もう!マリー!」
「はいはい先輩。分かりましたって」
怒られてもマリーさんは何処吹く風のようだ。私は二人に手伝ってもらいながら黄色いワンピースに袖を通した。
今日はツインテールというのだろうか。高い位置でふたつに髪を結ばれ、黄色い花飾りをつけられる。
「お嬢様。最っ高に可愛いです!!」
「サイズもピッタリのようで安心致しました」
「お嬢様!くるーって回ってみてください!くるーって」
えぇー、と思いながら言われた通りくるー!っと一回転する。スカートはふんわり横に広がった。
「可愛いー!!」
「レイン様の前でもやってあげてみてください」
よせやい。そんなに可愛い可愛い言われると、ちょっと得意気になっちゃうじゃないか。
朝食は昨日と同じようなワンプレートだった。父様の真似っ子をすればマナーはなんとかなると覚えた私は今日も父様の動きを模倣していた。リュートさんから横入りが入らなかったのでまずまずと言ったところだろうか。
「さてカノン!今日の午後は時間が取れそうだ。パパと魔法の勉強をしよう」
「ほんとうですか?」
やったー!
魔法のお勉強は好きだ。魔法に関して、大抵のことは出来る自信がある。足りないのは知識。その知識を得る機会が今までは少なかった。だから私が使える魔法は初級本に載っているような基本的なものばかりなのだ。
「私、移動魔術覚えたいです!!」
死活問題だからね!!体力もないからね!!!
「移動魔術はちょっと後だね。あれは技術がいるんだよ」
「えぇー!?」
ぶぅと膨れる私を見て、父様はくくっと笑った。
「私は魔法に関しては手を抜かないからね?基本から行こう」
「はぁい」
移動魔術を教えてくれるのは後になってしまったが、私は午後を楽しみに待つのだった。




