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62.見解の相違

 結局私は魔法研究会の扉を叩くことにした。

 生徒会も魅力的ではあったけど、ただでさえ私とルークが一緒にいると変な噂が立ちやすい。交友関係ももっと広めたかったし、魔法の話がいっぱいできる魔法研究会は丁度いい場だった。


 サークル活動のための部屋は高等魔法実習室と呼ばれ、学院の奥まった場所にひっそりと存在している。


 案の定というか、分かっていたけれど魔法研究会にはデインがいた。


 初めて魔法研究会を訪ねた日、デインが意外そうにしていたのを思い出す。


「カノンは生徒会行くと思ってた」

「?なんで?義務じゃないよ?私」

「なんでって……」


 デインは何か言葉を飲み込んだように見えた。気まずそうにしているその態度に疑問が浮かぶ。


「まぁ、そうか。いいんじゃね?」


 デインは何かに納得したように頷き目を逸らした。




「だーかーらー。なんでお前は何でもかんでも一個の陣に纏めたがんの?工程が無駄って気付かないわけ?」


 私が好む複合陣は一つの魔法陣に複数の要素を詰め込む魔術形式だ。魔力効率が良いし、魔術陣も詠唱もスッキリする。その代わり考えるのに様々な要素を考慮する必要があり、検証にも時間がかかる。


「作れるから作ってるだけよ!こっちの方が分かりやすいから好きなの!並列単体制御は詠唱長くなるし陣も重なるし見栄えが悪いじゃん!!」


 対するデインの主張する並列単体制御はもう確立された魔術陣をいくつも同時に発動し、制御することで現象を引き起こす魔術形式。詠唱も長ければ魔術陣も乱雑に重なり合って汚い。その代わり、単純に現象再現までの時間が早い。彼が言う分には効率がいい、だろうか。

 まぁとにかく、結果は同じになっても、過程が全く違う魔術形式だ。


「どうおもいます!?」

「どう思う!?」


 バッと近くにいたサークルの先輩、リネ様に詰めよれば、彼は呆れたように笑う。


「ここは自由に研究する場だからねぇ。カノン嬢の好きにすればいいと思うよ」

「ほらぁ!」

「ちっ」


 デインはぶすっとしながら自分の手元の紙に何かを書きつける。


「ほら」

「なにこれ?……!」


 そこにあったのは今私が組みあげようとしている魔術複合陣の完成系だった。


「むかつく〜!!こういうのは考える時間が楽しいのに!!」

「思いついたもん勝ちだ」


 ふふんとデインは意地悪に口角をあげた。


「いい出来なんじゃない?試してみなよ」


 リネ様が横から紙を覗き込んできた。

 私はぐぬぬと紙を睨みつける。デインが勝ち誇ったようにニヤリと笑う。

 

「ほら発動してみろよ」

「なんか精神的にやだ!」

「んだよそれ」


 自分で考えるのが楽しいのに!!眉間にシワが寄ってしまった。

 何か粗がないか探してやろうと陣を睨みつける。が、見れば見るほど面白い発想の陣だと、逆に感心してしまう事になった。悔しい!!!


「……なんでデインは並列単体制御が好きなの?複合陣も作れるのに」


 私がそう口を尖らせれば、デインは腕を組んで「何言ってんだコイツ」といいたげな顔をした。


「お前が言うように、詠唱が長くなんのも陣が重なるのも不格好だとは思わないし。単純に、もう完成されている単体陣の方が扱い易いし、発動しないリスク考えなくていいんだから早いだろ」

「ふぅん……」


 共感はできないが、まぁ、デインはそういう考えなのだろう。





「カノン様。先日発表された遅延発動理論についての考察見ました?」

「カノン嬢。君の魔術陣の事で聞きたいことがあって……」


 魔法研究会に所属してから、私はいろんな人と魔法のお話ができるようになった。ネフェル様が言っていた通り、ここの人たちは魔法への造詣が深かった。議論がこんなに楽しいものなのかと声も弾んでしまう!


「カノンちゃーん!今日も可愛いねっ」

「ありがとうございます」


 そう言いながら私の隣に座ったのはエドワーズ様。軽薄な印象の強い先輩だ。彼は肩を寄せてきた。


「そんな可愛いカノンちゃんに……はい、プレゼント!」

「わぁ!かわいい!」


 目の前に差し出されたのは可愛い小瓶に詰め込まれた飴玉だった。エドワーズ様はたまにこうしてお菓子をくれる。


「可愛いからカノンちゃん、絶対気にいると思って買っちゃった。裏路地の小さな店なんだけどすっごく雰囲気のいいお店でさ!」


 エドワーズ様はニコニコ笑いながら新しく見つけたお店について話はじめた。王都には隠れた名店がいくつも眠っているなぁと思いながら相槌を打つ。

 ふと、エドワーズ様の表情がやわらいだ。


「良ければ今度一緒に―――」

「カノン」


 突如割り込んで来た声に顔をあげる。


「デイン。どうしたの?」


 今日は居なかったはずだけど、いつの間に来たんだろう。デインは呆れたように腕を組んだ。


「今日そっち行くって話したただろ?アズールが待ってる」

「あれ?もうそんな時間?」


 慌てて時計を確認すれば、もう帰る約束をしている時間をとっくに過ぎていた。確かにアズールを待たせてしまっている。


「ごめんなさいエドワーズ様」

「いいよいいよ。気をつけて帰ってね」


 エドワーズ様はひらひらと手を振った。




 デインと並んで廊下を進む。

 今日のデインはなんだが静かだ。いつもはうるさく授業の話や魔法の話をしてくるのに。


 チラリと見上げる。昔は同じくらいだった身長もすっかり抜かされてしまった。


「何か怒ってる?」

「はぁ?別に。なんで」

「なんとなく……」


 先程の事を思い起こす。エドワーズ様は私をデートに誘おうとしていた。正直声をかけてくれて助かったけれど、あのタイミングはあからさまだっただろう。

 囲われているような、そんな行動。そう思わされるような場面は一度や二度ではない。

 だから昔、聞いてしまったのだ。「デインって、私の事好きなの?」と。


「今日は何の用事?」


 彼がイーサリオンのタウンハウスに来るのはよくある事だ。父様の仕事を手伝うためだったり、買い物をするためだったり、理由は様々だ。


「広いベッド使いたいから」

「そんな理由?」

「寮の部屋と寝台の狭さ知ったらお前ビビるぞ」


 アーカナリア学院の寮とはいえ、土地は限られている。部屋のグレードが下がってしまうのは仕方がないだろう。良いとこのお坊っちゃんであるデインは気に入っていないらしい。


「うちから通えば良かったのに。親戚の家から通う子も多いでしょ?」

「……いいだろ別に」

「結局うちによく来るなら同じなのに。変なの」


 デインは私を睨みつけるように見下ろす。なんだか今日は本当に機嫌が悪いみたいだ。


「お前がさっさと婚約者決めないから取り置きされてんだよ。定期的に顔出せって言われてんの」


 デインは吐き捨てるようにそう言った。それは私が予想していなかった答えだった。


「ご、ごめん……」


 無神経な事を言ってしまったと申し訳ない気持ちになる。

 私が相手を決めないせいで、彼はずっと宙ぶらりんだ。


「卒業までには決めるね……」

「お前さぁ……」


 デインは何か言いたげに口を開いたが、はぁとため息をつくだけでその先は続かなかった。





「アズール!」


 待たせてしまっていたのだろう。正門で、アズールは本を開いていた。私が駆け寄るとアズールはにっこりと微笑む。


「お疲れ様でした。お嬢様」

「ごめんね、遅くなっちゃって」

「いえ。問題ありません。どうぞ私のことは気になさらないでください」


 アズールはそう言って胸に手を当てる。洗練された動作が素敵だ。

 どこかに行ってしまいそうになる意識を無理矢理ひき戻す。きっと屋敷でも父様が心配している。


「デイン行こ。……デイン?」


 デインは少し離れた場所から、ただこちらを眺めていた。

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