6.まだ1日目なんですよこれ
食堂に入るとまたまた父様は先に来ていて座っていた。
今日は昨日のザ・貴族って感じの豪華な服ではなく、シンプルなシャツにスラックスというスタイルだ。長い黒髪は後ろで編まれ、三つ編みになっている。
父様は私を見やると顔に手を当てて上を向いてしまった。
「大変だ。私の娘可愛すぎないか?」
「そうですね。とてもお似合いですよカノン様」
「これはダメだ。求婚者が殺到してしまう」
「何を言ってるんですか」
父様とリュートさんがそんなやり取りをしているのを見ながら席に着く。今日のご飯はなんだろうとワクワクしながら待っていると、大きなお皿が運ばれてきた。
わぁ、わぁああ!!
お皿の上はパラダイスだった!
ふわふわのスクランブルエッグにベーコン、パンケーキの上にはシロップがかかっており、カラフルなお野菜の隣には飾り切りされたフルーツが盛られている!無意識にぱちぱちと手を叩いていた。
食前のお祈りを終え、フォークを持って何処から食べようか吟味する。
よし。まずはこのパンケーキだ。こいつから食べてやる。グサッとど真ん中にフォークを刺し、丸ごと口に運ぶ。しっとりとした生地にあまぁい蜜がかかっており大変美味だ!ほっぺた落ちそう!
黙々と食べていると隣で父様が私の一挙手一投足をみながら「私の娘可愛い」と鳴いていた。
ペロリと朝ごはんをたいらげる。また追い皿が来るかな……結構お腹いっぱいなんだけどなと構えていたが、次の皿が来ることはなかった。朝はあれで終わりらしい。
「ごめんな、カノン。本当は今日から君の事を見てあげたかったんだけど、色々と予定が変わってしまってね。私はどうしても外せない用事が出来てしまったんだ」
「そうなんですね」
まぁ、突然娘が出来たという話にまでなっているのだから父様はこれから色々と大変なのかもしれない。
「じゃあ今日は私は何をすればいいですか?」
「君のことはリュートに頼んであるから、彼の指示に従いなさい」
「分かりました」
こくんと頷くと父様はまた「私の娘可愛い」と鳴き始めた。
「レイン様。そろそろお時間かと」
「あぁ、そうだったね」
リュートさんに囁かれ、父様は席を立った。
おいでと浮かされ父様の腕の中に座らされる。
父様がそのまま食堂を出ると、ぞろぞろと食堂にいた使用人さん達が後ろからついてきた。
父様が向かったのは屋敷のエントランスだった。吹き抜けの大きな階段の上からホールを見下ろすと、四十人くらいの使用人の人達が綺麗に整列していた。
食堂から着いてきた使用人さんたちも後ろに並んでいる。
父様が前に進むとしんと場が静まり返った。
「昨日迎えたカノンが私の実の娘であると判明した。これよりこの子を私の娘として迎え入れる。皆もそのつもりでいるように」
パリッとホールに響く声は凛々しく、父様なんかかっこいいかもしれない。父様はつらつらと状況説明をした後に、私への扱いを厳命しているようだ。
チラリと階下を見下ろす。メイドさん従僕さん騎士さんや調理師さんのような格好をしている人もいる。私と同い年くらいの子も何人かいた。
私はじっと父様の腕の上で聞いていたが、「何事よりもこの子を優先するように」だとか「何かあったらただじゃおかない」とか言われてなんだか小っ恥ずかしい気持ちだった。
「以上だ。時間を取らせた」
父様がそう〆ると、ザッと一斉に使用人さん達が頭を下げた。
どんな訓練されてるんだろう。揃いすぎてちょっとビクッとしてしまった。
父様は私の部屋まで移動魔術で飛ぶと、私をベッドに下ろした。リュートさんもついてきたようで、後ろに控えている。
「ではパパはお仕事をしてくるからいい子にしているんだよ?夕食は一緒に食べよう」
「分かりました」
よしよしとまた頭を撫でられる。そろそろせっかく綺麗にしてもらった髪がぐちゃぐちゃになってきたかもしれない。
「行ってらっしゃい父様」
私がそう挨拶すると父様は身をかがめたままピタリと動かなくなってしまった。そしてプルプル震え出すとわっとわめき出した。
「パパって呼んで!」
「えぇ……」
父様はちょっとめんどくさい人かもしれない。
―――
「お嬢様はしっかり教養がおありのようだ」
リュートさんに預けられ、今日は何をするのかなと待っていたら、椅子に座らされ、延々とテストみたいな事をさせられた。
文字が書けるかとか、どれくらいの知識があるのかとかを計られている感じがする。
なんか難しい問題もいっぱいあったけど一応読み書き計算は婆ちゃんに教えてもらっていたので出来る。でも難しい問題はわかんない。なんだこの記号は……。
「お嬢様にはイーサリオンの後継者として相応しい教育を受けていただきます」
なるほど。そのために今どれくらいの知識があるのか調べているのか。
それから午前中はずうっとリュートさんがつきっきりで私の学力を調べていた。
お昼に簡単な昼食をとって、午後の私はキラキラしたものに囲まれていた。
「さぁお嬢様。お気に召したものはありましたか?」
恰幅のいいこのおじさんはイーサリオン家お抱えの商人だという。並べられているのは服だとか装飾品だとか靴だとか身の回りのもの。リュートさんとマリーさんとチエルさんに囲まれて私は色んな服だの靴だのを合わされていた。
「お嬢様はお可愛らしいのでなんでも似合いますねっ!」
「こちらなんかもいいのではないですか?」
「えっと、そんなにいっぱいいらないかな……」
既に山のように積まれた購入予定品の上にさらに買うものを乗せようとするマリーさんとチエルさんをやんわりと制す。
明らかに高そうな品がこんなに積まれて大丈夫なのかと私は震えていた。もういい。もういいと首を振っても絶対似合うから、可愛いからとどんどん買うものが増えていっている。
ただの庶民の感覚が抜けない私はこの金銭感覚にはついていけない。あぁ、また追加された……。
結局山のような買い物をしてしまった。
わぁ、わぁぁ……と震えながら購入品を片付ける。と言っても片付けてくれたのはマリーさんとチエルさんだ。新しい部屋には服をしまうためだけの部屋がついており、そこにどんどん物が運び込まれた。
「こんなに買っちゃって良かったんですか?」
「何をおっしゃいますお嬢様。お嬢様のための服にしては少ないくらいですよ」
ひぃっ!これで、これで少ないだって!?私だって成長するんだぞ。すぐにこんなの着れなくなっちゃうよもったいない!
ハワハワしていると、残りの時間は食事のマナーについて勉強しましょうかとリュートさんに連れ出された。




