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58.”可愛い”頂上決戦

*.゜+

ピピナが愛されること……それは、産まれて来た時から決まっていた、”運命”なの―――!


ピピナが産まれた日……それは、ある春の日の12日。猛烈な暴風雨が咲きかけの花を散らしている中だったそうよ。人々は嘆き、悲しみ、女神エリュナに祈りを捧げていたわ。


だけど、ピピナが産まれた瞬間、嵐は止み、空には虹がかかったの!


ピピナは祝福された子!女神から愛されているに違いないわ!


だってピピナ、こんなに可愛いんだもの!!


ピピナの可愛さは誰もが認めるもので、出会う誰もに可愛いと言われてきたわ!

だってそうよね、ピピナが可愛いのは当たり前なんだもの!!


ピピナは六歳の頃から可愛い魅せ方を追求してきたわ!

七歳で贈り物に困り、八歳で―――


―――略―――


だけどある日、ピピナの世界に雑音が現れたの。


そう!!あなたよ!カノン・イーサリオン!!


ピピナのことをずっと可愛いって言ってくれていたアゼル兄様もエインレッドのシルヴァ兄様も、急にピピナも可愛いけどカノン・イーサリオンも可愛いなんて言い始めたのよ!!!


衝撃だったわ!!だってピピナの可愛いさは絶対的で圧倒的で唯一のものなんだもの!!!!!


°・*:.。.☆


「ピピナは世界で一番可愛い存在でなくてはならないの!だから決めなくてはならないのよ、ピピナと貴女、真に”可愛い”のがどちらなのか!!!!」


パチパチと形式的にでも拍手を贈ってあげた私はかなり優しいだろう。長い語りだったけど、このピピナという子がどういう子なのかよくわかるお話だった。


私は笑みを浮かべると、心に決めていた一言を発する。


「帰って大丈夫かな?」


静かに校門で待機でしているアズールが見えるのだ。早く帰ってアズールが通う家政学校の話も聞きたい。


「まっ!逃げるの?まぁ、ピピナの可愛さを前にしたら逃げ出したくなる気持ちも分かるけど」


きゅぴっと頬に指を当てるピピナさんの仕草は確かに可愛いを研究しきった人間にしか出せないものだ。指の角度、顎の引き方、何故か顔にかからない横髪―――この子も日々可愛いを追求しているのだろう。


―――でも、私には分かる。この子は私には勝てない。多分、勝負にもならないと思う……。


「ルールを説明するわ!ズバリ単純にここを通る生徒にどちらが可愛いか聞いていくの!!!もちろん、男女ランダムよ!!!」


困ったように微笑むことしかできない私を、ピピナさんは勝負を受けたと理解したようだ。意気揚々とルールを説明し、「絶対に勝つから!!」と息巻いている……。


「どうしてこんなことになってるんだろう……」


そう頭を押さえていたら背後から声がかかる。


「お荷物、預かっておきますよ」

「アズール……」


アズールはスっと鞄を持ってくれた。その自然な行動にもドキリとしてしまう。


「もちろん、カノンお嬢様の方が可愛いですから、自信を持ってくださいね」


なんて言葉をかけてくるアズールは、ほんの少しだけ口角が上がっている気がした。実はこの状況を楽しんでいるのではないかと思ってしまう。「ありがとう」と伝えればいつもの優しい微笑みが返ってくる。


「ふんっ!なぁに?貴女のところの執事?ならノーカウントよ!!仕える立場なら贔屓目に言うしかないじゃない!」


別に今のやり取りは勝負には関係ないだろうに……ピピナさんは突っかかってきた。

そのピピナさんの隣にも、彼女の荷物を預かった様子の執事さんが困ったような表情で立っている。


「お嬢〜ほんとに恥ずかしいんでやめてくれませんかねぇ」

「黙らっしゃい!!マルテはもちろんピピナの方が可愛いって言ってくれるわよねっ!!」

「モチロンピピナオジョウガ、セカイデイチバンカワイイデスヨ」

「それでいいのよ!!」


若干彼の言葉は棒読みだったような気がしたが、ピピナさんは満足したみたいだ。




私たちは通りがかる人に声をかけはじめる。呼び止められた人はピピナさんの勢いに恐れおののいていたが概ね問題なく勝負は進んだ。



結果は―――私の圧勝だった。


「なんでぇ!どうしてぇ!」


ペタリと座り込んでしまったピピナさんは、顔を真っ青にしている。


ふぅと息をつく。

概ね私の予想通りだ。「お疲れ様でした」とアズールが声をかけてくれる。


「ピピナの方が絶対絶対可愛いのに!!」

「結果が全てじゃないですかぁ。諦めて帰りましょうよぉ」

「マルテだって毎日可愛いって言ってくれるじゃない!!」

「だってお嬢は可愛いって言えばすぐ機嫌直るんで……」

「酷い!!ピピナを上手く使うために可愛いって言ってるの!?」


面白い主従だなぁと思いながら二人の会話を眺めていたら、何故かうんうんと頷いているアズールの姿が視界の端に映った。


「アズール……?」


そんな……まさかアズールも私を上手く使うために「可愛い」って……言って……?


「私はお嬢様のことを心から可愛らしいと思っておりますよ?」


サラりとそう告げるアズールの様子からは「可愛い」を魔法の言葉のように使っているかどうかは分からない。アズールは物事を曖昧にして逃げるのが得意だ。頬を膨らませてアズールを睨みつける。彼は「本当に可愛らしいですねぇ」なんて言いながらくすくすと笑っている。そんな姿にもきゅんとときめいてしまう私はもうどうにかなっているんだろう……。



それにしても、だ。

いつまでもピピナさんを放っておく訳にはいかない。このまま帰っても良かったが、それではあまりにも彼女が可哀想だ。

それなら早めにピピナさんに立ち直ってもらわないと、私まで変に注目を浴びてしまっている……。


はぁと息をつく。本当に、どうしてこんなことになっているんだろう。

私は座り込むピピナさんの前にしゃがみこむと、彼女の手をとった。


「可愛い、だけじゃダメなんだよ」

「ふぇ?」


上目で見つめてくる彼女は、よく分かっていないようだ。少し考えれば、誰でも分かることを。少し頭の弱い子なのだなと思うけれど、その真っ直ぐさは好感が持てる。


「ここはアーカナリア学院。社交界の縮図よ。イーサリオンを名乗る私に票が集まるのは当然のことだわ」

「でも!今回はどちらが可愛いかを競うものよ!そういう立場は関係ないわ!」

「そういうわけにはいかないの。私と繋がりを持ちたい、良い印象を残したいという打算は本心を凌駕するわ」

「でも、だったら場所とか、聞き込みをする層を変えれば……!」

「きっと何回やっても結果は同じよ」

「どうして!!」


声を荒らげるピピナさんを見つめ、私は現実を突きつけた。


「清楚可愛い私の方が圧倒的に万人受けするもの」

「そ、そんなっ!」


ピピナさんは激しいショックを受けたようで、愕然としている。


「これ、俺、笑っても良いとこっすかねぇ」

「優秀な執事でしたら、主の心境に同調する場面ですよ」


背後でヒソヒソとそんな会話か聞こえた気がする。



私はニコリと笑って、ピピナさんの手を両手で握り直す。


「大丈夫。誰も貴女が可愛くないなんてきっと思っていないわ」

「でも、ピピナは負けたわ」

「言ったでしょう?打算が勝つって。私に票を入れた人達も、別に貴女が可愛くないなんて一言も言ってなかったはずよ。思い出して?」

「でもぉ……!」


ピピナさんは自信を無くしてしまっているみたいだ。あんなに自分語りしていた彼女がしょぼしょぼになっている。私は彼女と出会って間もないが、よく知る人から見ればおそらくピピナさんらしくない状態なのだろう。


私はしっかりと彼女の眼を見つめた。


「……視線は常に相手の目を見て」

「……え?」

「恥じらう表情は上目遣いで。頬に指を当てる時は顔の角度まで意識して。柔らかに笑う時は目を細めて。精一杯の笑顔は相手からよく見えるように……」


それはほんの一時彼女を見てきて気づいたコト。ひとつひとつの仕草から感じるのはきっと彼女の執念。そしてそれは、きっと同じものを追求する私だからこそ理解できるもの。


「私には貴女の努力がとても分かる」


私がそう励ませば、ピピナさんは目を見開いた。


「だから他人の評価なんて気にしちゃダメよ。貴女もとっても可愛いわ。貴女自身も分かってて、認めてくれる人がいるでしょ?何より貴女に勝ったこの私が認めてるのよ?それでいいじゃない」


「ね?」と微笑みかける。ピピナさんはうるうると瞳を潤ませた。


「う〜〜かっカノン・イーサリオン〜〜っ!!!」


ぎゅむと抱きついてきた彼女を支える。


「さすがお嬢様。慈悲の心が聖女並みです」

「これは感動の結末って事で良いんすかぁ?」


またヒソヒソと小声で交わされる執事たちの会話を聞き流しながら、よしよしと彼女の背を撫でる。


人の心を掌握する術も、今まで学んできたことのひとつだった。



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