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56.可愛い私は制服も着こなす

「まぁ、お嬢様!やはり学院の制服もよくお似合いですね」

「ありがとう。可愛い?」

「とても可愛いですよ」

「どれくらい?」

「そうですね……あの太陽の光が届く範囲くらいです」


 チエルさんの表現力豊かな褒めに私は満足した。


 鏡を見れば、藍色の落ち着いた色合いが目に入る。膝丈のスカートにボレロ。裾には銀糸で細かい模様が刺繍されており、格式高さが表現されている。少し大人っぽいデザインだなと思うけれど、可愛い私はなんでも着こなせるので問題ない。


 今年の夏、私は十五歳になる。

 我がアルセリオン王国では貴族の子女はみんな十五歳から十八歳までの三年間、王都の外れにあるアーカナリア学院に通うことになっている。

 私も例外なく学院に通うことになる。ただ、そういうものと受け取っていたが、制服に袖を通してみるとちょっと楽しみになってきたかもしれない。


「サイズはどうですか?」

「……ちょっと、胸がキツイかも……」

「まぁ。それでは式までに直しますね」


 そう言ってチエルさんがサイズを測り直してくれた。




 制服のサイズ合わせを終えて、私は一息つく。


「終わったのか?」

「デイン!」


 後ろから声をかけてきたデインはフルーツスティックをかじっていた。長い淡茶色の髪を三つ編みにして横に垂らしている。


 彼は私の一つ上の学年だ。クレイウッド家は王都に屋敷を持っていないので寮生活をしている。

 デインは休みの日になるとイーサリオンのタウンハウスに顔を出したりしているみたいだ。

 ……確かに従兄弟だし、イーサリオンの後継者候補だけれど、ウチに入り浸りすぎじゃないかと思ってしまう。


 デインは私の正面に座ると隅に控えていたアズールに紅茶を頼んだ。


 アズールは私のなのに……!


 ちょっとむっとする。

 けれど、学院の事が気になっていたところだったので、話が聞ける人が現れたのはちょうどいい。


「デイン。学院ってどう?楽しい?」

「まぁ、ぼちぼち?楽しいかどうかは人によると思うけど、魔法の授業はかなり退屈」


 そもそも貴族の子女は大抵が家庭教師を雇い、必要知識を詰め込まれた後だ。学ぶと言ってもほとんどが復習だろう。行く意味があるのかとすら思えてしまう。


「授業のレベルはどれくらい?難しい?」

「んー、試験はあからさまに難しい。明確に順位付けしてやるっていう意思が感じられるな。授業の内容は普通だけど……社会性というか協調力みたいなものを育成する方針なんじゃないかと思う」

「へぇ」

「まぁ、俺はもちろん学年一位だけど」

「なぁに?自慢?」

「当たり前だろ。俺は叔父上みたいにアーカナリア学院を首席で卒業するつもりだ」


 ドヤァと胸を張るデインの前に、アズールがお茶菓子を置いた。


「お前もイーサリオンの子なら首席くらい取れよ?無理だったら俺がイーサリオンを継ぐからどっかに嫁げ」


 びしぃっと指をさされ、理不尽な事を言われる。

 現在のイーサリオンの正統後継者は私だというのに。


「私だって首席くらい……いや、でも、ルークが居るからなぁ……」


 アルセリオンの王位が新しい代に変わり、今やルークは王太子だ。彼の優秀さは噂で伝え聞いている。実際、もう政務の一部に関わっているという話も聞く。既に一歩先にいるルークに少しだけ焦りを覚えた。

 それに、彼の側近、ネフェル・モルヴェインも同い年だ。宰相家の新星も強力なライバルだろう。


「デインは学年がいいだけじゃん」

「はぁ?舐めんなよ!」


 デインは意気揚々と自分の学年が如何に激戦区か語り始めた。私は紅茶を飲みながら話を半分も聞いていなかったと思う。


 春から始まる学院生活に思いを馳せる。


 新しいお友達を作ったり、休み時間に一緒に話したり……制服でカフェにも行ってみたい。

 学年一位は難しいかもしれないけれど、イーサリオンの後継者として恥ずかしくない順位は取らなくちゃ。

 課外授業というのも気になるし、サークル活動もなにをしようか迷ってしまう。


 それに―――


「私って可愛いから、たくさん告白とかされちゃうかな?」

「はぁ?思い上がんなよバーカ」


 ちょっと言ってみただけじゃない!

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