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54.-閑話-すぅぱぁあどばいざぁ☆ふぇりしあ

 

「まぁ!そんな奥手ではダメですわ。貴女、ただ見ているだけで想いが伝わると本気で思っていて?殿方はそんなに察しは良くないですわ!目と目があうだけで好きになって貰える、なんてよっぽどの条件が揃わないと成立しないの!」


 キャンキャンと甲高い声にゼンハルトは頭を押さえる。

 そろりと声がする部屋をのぞくとやはりフェリシア姉上が一人のメイドを前に熱弁していた。


「まずは話しかけてみることからよ。貴女の話からするにお相手とは仕事の話しかしていないのでしょう?なんでもない日常のことを話してご覧なさい。もしかしたら少し違うなと感じてしまうかもしれませんし、とにかく相手を知るのです」

「はいっ、ありがとうございますフェリシア様っ」

「よろしくてよ」


 メイドは頭を下げて離れていった。


 姉上は恋愛小説や現実の関係妄想に飽き足らず、いつの間にか周囲の恋愛事情まで吸収し始めていた。

 しかも質が悪いことに、本人は一度も恋をしたことがない。


 それなのに、だ。


 気付けば城では「恋の相談ならフェリシア王女」という妙な定評が立ち、今日もまた誰かの人生を勝手に動かしている。


「まぁ。盗み聞きとは感心しないわよ、ゼン」

「姉上の声は響くんですよ」


 姉上は伸びをして、アーカナリア学院の制服の上着を脱ぐと侍女に渡す。姉上は一年前から学院に入学し、一人の生徒として勉学に励んでいる。

 もっとも、学院でも恋愛相談を受けているらしく、最近では家同士の繋がりにまで口を出し始めている。

 恋愛の実体験がゼロであることを除けば、完璧な恋愛プロフェッショナルだった。


「で、何か用?」

「今度のノクスフォード家のパーティ。姉上出席するんですよね?兄上が出席出来なくなったので僕がエスコートを変わることになりました」


 最近は父上が現王である祖父から王位を引き継ぐ話が出ており、城の空気はどこもかしこも落ち着かなかった。

 兄上なんかは王太子になる準備で顔を合わせる暇もないほどだ。


「えぇっ!ノクスフォード家のパーティを飛ばすの?それはダメでしょう!」

「でも、兄上の忙しさは姉上もわかってるでしょう?」


 姉上は「そういう話じゃないわ」と立ち上がる。


「何処に行くの?」

「ルークのところよ!」


 そう言ってズンズンと姉上は廻廊を進む。仕方なく僕も後を追うのだった。



「ルーク!」


 バタンと勢いよく扉を開けた姉上に、ルーク兄上は肩を跳ねさせた。

 いくらかの文官に囲まれ、何か打ち合わせをしていたようだ。

 僕は文官たちの訝しげな視線を感じて、ひどく気まずかった。姉上は全く気にしていないみたいだけど。


「びっくりした。どうしたの?姉上。ゼンも……」

「貴方カノンを針のむしろにしたいの?」


 びしりと姉上は指を突きつけた。


「針のむしろ?何の話?」

「人間関係の話よ!貴方、前もノクスフォードのパーティに出席しなかったでしょう?せめて公爵家のパーティくらい同列に参加なさい」

「でも、今僕が大切な時期で忙しいのは知ってるでしょう?ノクスフォードも分かってくれるよ……」

「イーサリオンのパーティには出れるのに?」

「……」


 兄上は明らかに気まずそうに目を逸らした。

 姉上はまともな事を言っている。僕もそうだよなと思ってしまった。


 兄上は恋に浮かれている。カノン・イーサリオンの事になると頭のネジが明らかに緩くなるのだ。


「ルークの気持ちはわかるけれど、あからさま過ぎる贔屓は反感を買うもとよ。特に貴方なんか色んなご令嬢をひっかけてるんだから」

「確かに、そう、だね」


 兄上は「やっぱり出席するよ」と反省したようだ。これで、僕とのエスコート交代の話しは無くなったかな?


「全く。どうしてルークはカノンの事になると周りが見えなくなるの?そんな余裕のない男は物語では受けないわ。もっとスマートでなきゃ」

「うぅ……」


 スーパー恋愛アドバイザーの姉上の言葉は兄上に効いたみたいだ。


「こんなんじゃ学院生活も思いやられるわ。裏庭に呼び出されるカノンが容易に想像がつく」


 姉上は呆れたように首を振る。あのイーサリオンの至宝を裏庭に呼び出せるほどの胆力がある令嬢は居ないと思うけど……。


 兄上はうっとりと来年に迫った学院生活に思いを馳せているようだ。


「三年間もほとんどカノンと同じ教室だなんて、僕この年齢に産まれてきて本当に良かった」


 なんて事を言いながらニヤニヤしている。この調子が三年間続くのかと思うと、さっさと婚約者にしてしまえばいいのにと思ってしまう。

 よく分からないが、兄上はカノン嬢に好いてもらうことにこだわっているみたいだ。


 兄上も大概恋愛脳だよな……。


 誰に毒されたかは言うまでもない。自分も恋をしたらこうなってしまうのだろうかと身震いする。こうはなりたくない。


「カノンは鈍い方ではないわ。誠実に愛情を伝えればちゃんと応えてくれるはずよ」

「もう!うるさいです姉上。これ以上は口出しして来ないでください」

「まぁ!生意気に反抗期??」


 姉上はふいと顔を背けると、悩ましげにため息を着いた。


「はぁ、いいわねぇ、ルークは。恋してて楽しそう。あーあ、私の運命の殿方はいつ現れるのかしら」

「えっ、学院で恋出来なかったら絶望的なんじゃ……」

「何か言った?」

「イエ、ナンデモナイデス」


 つい声に出してしまった。

 この恋へのハードルの高い姉上が、まともな恋愛というものを経験できるのかどうか、本当に心配だった。



 結局、兄上と姉上は二人でノクスフォード家のパーティに出席したのだった。

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