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34.タウンハウスでの一夜

 王城から王都のタウンハウスに帰ると、父様は急なお仕事で何処かに行ってしまっていた。本当は日帰りでイーサリオン領のお屋敷に帰る予定だったのだが父様が居ないのであれば一人では帰れない。

 移動魔術は出来るが、まだ一人での長距離移動は許可されていないのだ。仕方なく今日は王都のタウンハウスで過ごすことになった。

 



「おや。お嬢様もご一緒ですか」


 夕食の席はユリウス様と護衛さんたちも一緒だった。相変わらずユリウス様は穢れを纏っている。

 心なしか朝見た時よりも酷く感じるのは、きっと彼が穢れを引き受けている事実に気付いてしまったからだろう。ユリウス様は私の正面の席に座ると、ニコリと微笑んだ。


「それではいただこうか」


 お爺様の合図で食前のお祈りが始まる。ユリウス様が居るからか、いつもより長く時間が取られている気がする。


 今日の料理は野菜がたっぷり使われたスープに、ローストビーフだ。王都のシェフさんの味付けはイーサリオン領のお屋敷にの料理よりもやや濃い感じがする。が、これはこれで美味しい!


「相変わらず、この家の料理は身体に染みいりますね」

「お口にあったようで何よりです」

「ローストビーフにニナイの葉が香り付けに使われていますね。エリュナ・サンクティアではあまり見ない調理方法です」


 ユリウス様は目をキラキラさせながらローストビーフを口に運んでいる。先程から料理に対する感想が細かい。食べる事が好きなのだろうか。


「アルセリオンの料理は味が濃い印象がありますが、ここは別のようです」


 護衛さん達も会話に入りながら和やかに食事の時間が過ぎていく。私はというと、あんまり下手な事を喋っちゃいけないと思って笑顔で相槌を打つ程度だ。会話の主導はお爺様に任せっきり。


 レディなら、品良く会話を回せるようになりなさい。と、マナーの先生から言われているが、まだ、実践できるレベルに到達していない。それに食事中の会話は苦手だ。どうしても食べる事が疎かになって次の品を待っている給仕さんに迷惑をかけてしまう……。


 いつかはできるようになるのかな?難しいな、お嬢様って。


 そんなことを考えながら食事を進めていると、ユリウス様の視線がこちらに向いた。


「カノンお嬢様は今日は泊まられるとか。お父様お忙しいようですね」

「はい。でも大丈夫です。お爺様もいますし、寂しくはありません」

「ふふ。そうですか」


 ユリウス様は不思議な雰囲気の人だ。

 コロコロと笑う姿は年相応に感じるのに、喋り方が大人びている。

 祈り子という清らかであるべき存在なのに穢れを纏ってる。

 チグハグすぎて、ユリウス様という存在を理解しづらい。


「今日は王女様とお茶会だったのだとか。楽しかったですか?」

「はい。フェリシア王女には良くしていただいていて……ずうっと本の話をしてました」

「まぁ。カノンお嬢様は本がお好きなのですか?」

「そうですね、嫌いではないです」


 正直最初はフェリシア様に押し付けられるようにして読み始めた小説だったが、今では結構気に入っていて空いた時間に色々と読み漁っている。いい趣味と言えばいいだろうか。フェリシア様程の熱は入れられてないけど……。


「私も本を読むのが好きでして、移動の時間などはずっと読んでいます。カノンお嬢様のオススメはありますか?」

「えっ……私が読むの恋愛小説とかですけど、大丈夫ですか?」

「ふふ。大人びてらっしゃいますね」


 ユリウス様が「大丈夫だ」と言うので、最近読んだオススメの小説をいくつか紹介してあげた。なんでも帰りの魔導車で読む本がなくて困っていたらしい。

 話してみるとユリウス様はミステリーものというのだろうか、推理小説がお好みらしく、あちらからもいくらか小説を紹介してもらった。


「そしてその事件がなんともまぁ複雑で……あっ、ダメですね。これ以上は、実際に本を読んでくださいね」

「はい。オススメありがとうございます」


 ユリウス様とフェリシア様、傾向は違うけど熱量で言うと結構話が合うんじゃないかなって思った。


「カノンお嬢様は話しやすいですね。10年後、私が生きていれば妻に迎えたいくらいです」

「……ご冗談を」


 お爺様が苦い顔をしている。ユリウス様は変わらず和かにそう言うので冗談か本気か分からない……。

 私はなんだかその言葉が儚く感じた。10年後、生きている保証がないとそう言っているような……。


 このタイミングでデザートが出て来たのでそれ以上この話は続かなかった。





 夕食を終えて、私はタウンハウスの一室でピアノの練習をしていた。


「まぁまぁお嬢様。お上手になりましたね」


 トマスさんのぱちぱちという拍手の音が部屋に響く。まだピアノは練習曲レベルの物しか弾けないが、人に聞かせられるレベルにはなっていると思う。「ありがとう」とお礼を言えばトマスさんは目元の皺を深めて笑った。


「おや、お嬢様。お花飾りが増えていますね。王城でいただいたのですか?」

「うん。ルーケンフォード様に貰ったの」

「……ルーケンフォード様に、ですか」


 そういえば、つけたままだったとマーガレットを外す。

 花の寿命は短い。根から切り離されたマーガレットは少し萎れてしまっている。もうこのお花は捨てるしか無いだろう。


「帰りに少しだけお会いして、中庭を案内してもらったの」

「それはようございましたね」

「もう元気が無くなっちゃってるわ。可哀想だけど捨てておいて」


 そう言って花を渡すと、トマスさんはじっとマーガレットを見つめた。


「お嬢様。こちら押し花にしてみてはいかがでしょう?」

「押し花?」


 聞きなれない言葉に首を傾げる。トマスさんはにこやかに私の手を取るとマーガレットの花を戻した。


「花を乾燥させて長く鑑賞できるように加工するのです。樹脂で固めて栞なんかにするのもいいかもしれませんね」

「ふぅん……」

「よろしければ今から一緒に作りますか?乾燥には時間がかかりますが、作業は簡単ですよ」


 手元に戻ってきたマーガレットをつまむ。せっかくだし、押し花にしてみるのもいいかもしれない。


「……うん。そうね。教えてちょうだい。トマスさん」

「かしこまりました」


 トマスさんに押し花の作り方を教わり、マーガレットの花を紙で挟んで本を重ねる。


「どれくらいでできるの?」

「1週間程度でしょうか。私がしっかり見ておきますね」

「ありがとうトマスさん」


 次、王都に来る時にはきっと出来てるだろう。完成したらトマスさんが栞にしてくれると約束してくれた。


 ちょうど可愛い栞が欲しいと思っていたのでちょうどいい。


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