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29.祈り子様

「父様」

「どうしたんだいカノン」

「あのね、フェリシア王女がまたお茶会しようって言ってくれていて……行ってもいい?」

「もちろんかまわないよ。……ちょうどいい。王都まで1度飛んでみようか」

「えっ!いいの!?」

「あぁ。でも、とりあえず今回だけだ。1人での移動はまだ控えなさい」

「うんっ!」


 次の授業で教えてくれることにはなっていたが、一足早い実践といったところだろうか。王都まで自由に行き来出来るようになればもっと頻繁にフェリシア様とお茶会できるし、王都のお店にだって行き放題だ。わくわくと逸る心が抑えられない。

 父様は私を撫でると真面目な声音で続けた。


「今、王都のタウンハウスには、例の魔獣事件の穢れを払うために祈り子様がいらっしゃっている。お会いしたらしっかり挨拶をするようにね」

「祈り子様が?」


 思わず声に出してしまった私に、父様は小さく頷いた。

 祈り子。浄化の力を持った奇跡を起こせる人。


「あぁ。聖都から来てくださった高位の方だ。ホールに残った穢れの浄化をお願いしている最中でね」

「……すごい人、なんだよね」

「そうだよ。だから失礼のないように」


 そう言われて、私はこくりと頷いた。胸の奥が、ほんの少しだけ、ひやりとする。


 ……会わない方が、いいのかな。


 そんな考えが浮かんだ理由は、自分でもよくわからない。ただ、祈り子という言葉を聞くと、どうしても心がざわついた。



 翌々日。私はマリーさんとチエルさんにお城行き用おめかしをされていた。水色のワンピースに白いレースのカーディガンが可愛らしい。今日は髪は結ばずに下ろしているスタイルだ。結んでないかわりに太めのカチューシャが着けられた。いつも通りとても可愛いが、どこか大人っぽい雰囲気だ。


「お嬢様……可愛さに磨きがかかってますね」

「本当です!ぶっちゃけお披露目パーティとかも私担当したかったんですけど!!」


 マリーさんが文句を言いながらネックレスを着けてくれた。お披露目パーティの着付けは王都の侍女さんにやってもらった。私を飾るのが好きなマリーさんはドレスの着付けもやりたかったのだろう。


「まぁまぁマリー。文句を言わないの。ドレス選びの時は一緒にいたじゃない」

「そうですけどっ!ドレスの着付けは私もっとやりたいですっ」

「お嬢様がいるだけで十分じゃない。レイン様だけの時なんて何も口出し出来なかったんだから」

「そう言われたら返す言葉がないかもですね……」


 マリーさんはお洒落のことに関しては熱が人一倍入るので、私のコーディネートはほとんど彼女が考えてくれている。マリーさんはもっと私を着飾りたい欲が抑えられないらしい。


 まぁ、飾りがいがかるからな、私って。とんでもなく可愛いし。


 マリーさんがああ言うのも仕方が無いことだろう。


 鏡の前でくるりと回る。もう慣れた仕草。マリーさんとチエルさんがパチパチと手を叩きながら可愛いと讃賞してくれた。



「お待たせ父様」

「はぁ!カノン!今日もとんでもなく可愛いね!」

「ありがとう」


 もう可愛いと言われたらスカートを広げるように一回転するのが恒例行事となっている。ちょんと周り終えた時にスカートを摘んで可愛いポーズをとるのも忘れない。父様はすごい勢いで拍手してくれた。


「さてカノン。王都までの位置指定の仕方は分かるね?」

「はいっ」

「いけそうかい?」

「やるの!」


 父様は私に迷子防止の追跡魔法をかけた。


「落ち着いて発動すればそうそう失敗しない」

「うん」


 父様は安心させるようにそういうと1歩離れた。


 魔法陣に魔力を込める。距離が距離だからごっそり魔力が持っていかれた。周囲が歪み、切り替わると、私は王都のタウンハウスのエントランスに立っていた。


「やった!成功ー!」


 ばんざいしてると父様が隣に飛んできた。


「うん。問題ないね。さすがカノンだ」

「えへへ」


 ぐりぐりと頭を撫でられる。


 ……あ。


 じわじわと込み上げてくる違和感。ひんやりとした感覚が明確にある事がわかってしまう。久しぶりの穢れの感覚。


 気の所為、かな、前より呼吸がしづらいような……。


 きゅっと父様の手を握る。


「どうかしたのかい?カノン」

「ううん。なんでもない……祈り子様いらっしゃるんだよね?」

「そうだね。ご挨拶に行こうか」


 何処にいるかなと父様は歩き出した。私には分かる(・・・)


「ホールに居るんじゃないかな」


 確信があった。


「そうかもしれないね。行ってみようか」



 やはり祈り子様はホールにいらっしゃった。


 穢れの場所には簡易的な祭壇が作られ、そこに向かって祈り子様は膝まづき祈りを捧げていた。白を基調とした長いローブを身にまとっており、腕には包帯が巻かれている。腰まで伸ばした金色の髪が光に反射してキラキラと輝いていた。

 少し離れた位置に白い甲冑を身につけた騎士様が二人祈り子様を護るように立っていた。


「おや」

「申し訳ありません。邪魔をしてしまいましたね」

「構いません。そろそろ休憩するつもりでしたから」


 そう言った声は優しく、まだ幼さの残る少年の物。振り向いた彼は空のような薄い水色の瞳をしていた。意外だったのは祈り子様が思った以上に若かったことだろう。私よりかは年上だろうが、青年というにはまだ幼い。そんな人。


 ただ、そんな祈り子様の体は、深刻なほど穢れに犯されていた。


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