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22.お披露目前日

「それでは、本日はここまでとします。こちらは次回までの課題です」

「はい。ありがとうございました」


 ペコリとお辞儀をして先生と別れる。


 イーサリオンに来て半年と少し。私は日々勉強漬けの毎日を送っていた。イーサリオンの後継者として政治、法学、地理、歴史等などあらゆる教科を毎日綿密なスケジュールで詰め込まれている。もちろん時折父様から魔法の指導も受けている。まだ上級魔法は学べていないが、中級魔法を学ぶところまで来たのでもうすぐ機会があるかもしれない。


「ふぅ……。次は、帝国語か。あれ、発音難しいんだよね……」


 そのあとはアルセリオンの歴史、ピアノのお稽古……。休む暇もないが、文句などはない。衣食住を最高の待遇で受けているのだ。学ぶことは私のお仕事のようなもの。

 頑張るぞと、ぐっと手を握る。





「ぷふぁ……今日も疲れたぁ」

「お疲れ様です、お嬢様。スカートがめくれていますよ」

「アズールだ。お疲れ様」


 夕食を終え、ソファにゴロンと転がった私のスカートをなおしたのはアズールだった。私が忙しくなってしまってからアズールは執事としてスケジュールを一括管理してくれている。まだ見習いという扱いだがアズールの仕事はしっかりしていて私が困ったことはない。


「フェリシア王女からお手紙ですよ。いつも のように本も」

「ありがとう。後で読むわ。机の上に置いておいて」

「かしこまりました」


 フェリシア王女とも文通が続いていた。貸してくれる本のレベルも今では10だ。最近は長編を貸してくれる事が多くなってきた。息抜きに読むには少し長くなってきたかも……。


「毎日頑張られているお嬢様にご褒美です。内緒ですよ」

「今日はなぁに?」


 そう言いながら口を開ければ、ころんとチョコレートが転がり込んできた。これは王都で売ってる高い奴だ。おいしい。


「アズールがいつもお菓子をくれるから太っちゃいそう」

「ふふ。お嬢様の体重が増えてきてしまったらやめましょうか」


 ふにふにとお腹のお肉を掴んでみる。いや、まだ大丈夫なはずだ……。この間ドレスの試着をした時も誰にも何も言われなかった。


「私、太ってないよね……?」

「お嬢様は細いくらいですよ。もっと食べてください」


 そう言ってアズールはもう1つチョコレートを私の口に入れた。



「明日からはまた王都ですね。今回は私も同行いたしますのでよろしくお願いします」

「アズールは王都は初めてなの?」

「いえ、何度か父について訪問したことがあります」

「そうなんだ」

「お嬢様のお披露目が成功するよう微力ながらお力添えさせていただきます」

「ありがとう。あ、そうだアズール。またチェスの相手してくれない?今度はお爺様に勝てるようになりたいの」

「ふふ。構いませんよ」


 アズールは全く忖度してくれない。それでも3回に1回は勝てるようになってきた。アズールにも「強くなりましたね」と褒められるくらいだ。その夜はアズールとずっとチェスをして過ごした。




 久しぶりの王都へはやはり父様の移動魔術で移動した。父様、リュートさん、アズール、私での移動だ。リュートさんも移動魔術は使えるらしいが王都までの移動は無理らしい。


 ……あれ?


 王都に着いた瞬間、ピリリとした空気が私の肌を刺した。ほんの一瞬の出来事で、違和感はすぐに消えた。前来た時はそんなこと無かったのに。


「カノン?どうかしたのかい?」


 父様に呼ばれてハッと我に返る。


「ううん。なんでもないわ」


 パタパタと駆け寄り手を繋げば父様は満面の笑みで私を見下ろした。


「まずはお爺様に挨拶に行こう。お披露目は明日だ。流れをよく覚えておくようにね。まぁ基本は私と一緒に居ることになるだろうから笑顔で立っていてくれればそれで構わないよ」

「はぁい」


 お爺様は相変わらずツンとしていた。淡々と挨拶して淡々と当日は失敗のないようにと釘を刺された。父様は「大丈夫ですよ」と笑っていたが、私はちょっと不安で仕方なかったりする……ドレスにつまづいて転んだりしたらどうしよう……。


「わぁ」


 会場の下見という名目で連れてこられたタウンハウスのホールは、金色の布……リボンかな?で綺麗に飾り付けられていた。当日は花も入ってより一層豪華になるそうだ。

 案内されながら一通り当日の流れをトマスさんから説明を受ける。

 まだ飾り付けは終わっていないらしい何人かの作業員さんが脚立を持って壁際で作業をしていた。


「お嬢様、当日のドレスも到着していますよ。確認のために見ていただけますか?」

「そうなんだ!わかったわ」


 とててとトマスさんの後に続く。

 ふと、また肌の奥を爪で引っかかれたような、そんな感じがした。バッと感じた方を振り向くが、違和感はまたスっと消えてしまった。


 なんなんだろう。すごく嫌な感じ。


 じっと嫌な感じがした方を見つめていると、「どうかしましたか?」とトマスさんが気を使ってくれた。「大丈夫」と返事をして私はドレスの用意された部屋に向かった。


 後から思うと、この違和感を私は放置するべきではなかったのに。



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