2.弟子ならギリ受け入れられます
レインおじさんの家は見たことも無いほどでかい豪邸だった。ここが王城ですよ〜と言われても納得してしまうほど大きな屋敷の前に魔導車が付き、扉が開く。
「さぁ、おいでカノン」
手を差し出されたので、渋々その上に手を置き魔導車から降りた。少ない荷物である鞄を持ってトントンと段差をくだる。
そのままレインおじさんに手を引かれ玄関の方に向かうと、ギィイと両開きの扉が音を立てて開いた。
貴族様の家のドアって自動で開くんだぁ、と、感心していたら、後ろから燕尾服を着た若い男が出てきた。なんだ自動ドアじゃないんだ。
「おかえりなさいませレイン様」
黒髪にこれまた綺麗な青色の瞳をした燕尾服の男は仰々しく頭を垂れた。
レインおじさんは私の手を引いて玄関をくぐると、エントランスで立ち止まる。
「リュート。予定を変える」
「と、いいますと?」
リュートと呼ばれた燕尾服の男は首を傾ける。視線は私と繋がれたレインおじさんの手にあるようだ。
「使用人を探しに出たのだが思わぬ拾い物をしてね。私はこの子、カノンを弟子として育てることにした」
グイッと手を引かれ、わたたとバランスを崩す。
「弟子……ですか?レイン様が?」
「あぁ。また、私の身の回りの世話をさせるように教育してくれ。部屋も本棟の客室をあてがうように」
「かしこまりました」
なんか待遇が良さそうな事を言っている。レインおじさんは私から荷物を取り上げると、リュートさんに渡した。
「少し準備にお時間が必要かと」
「構わないよ。私は夕食までカノンの資質を見てくる。それまでに何とかしてくれればいい」
「御意に」
リュートさんはまた仰々しく頭を垂れる。
「さぁ、カノン。おいで」
「えっ、わっ」
レインおじさんは私を抱き上げた。これでも私は歳の割には背も高い方である。重くないのかなと思ったが、魔力で浮かされている感じがするので、レインおじさんは重さなど感じていないのだろう。
そのままレインおじさんは、キンっと見知らぬ陣を足元に発動させる。途端ブワッと魔力に包まれた感じがしたかと思うと、周りの景色が一変していた。
ここは庭だろうか。芝生が敷き詰められた広い空間が広がっていた。後方には屋敷が見える。
「この屋敷は広いからね。こういう移動方法を覚えておくと便利だよ。まぁおいおいね」
レインおじさんはウィンクしながら私を下ろすと、今度はこの広い芝生に透明な防御壁を張った。私は感知能力が高い。レインおじさんの魔力に四方八方包まれているようで落ち着かない。
「さてカノン。今から君の資質を見るけれど……その前に、はじめに一番大事な事を言っておくよ」
「はい」
レインおじさんに真剣な顔で見下ろされる。何を言われるのかとごくりと唾を飲む。
「私のことは師匠と呼ぶように」
ズコッとコケそうになったが私は悪くない。
一番大事なことがそれかよと口に出そうになったのを必死に押しとどめた私は偉いと思う。
「よろしくお願いします。師匠」
気を取り直してそう言えば、レインおじさんは至極嬉しそうににんまりと笑った。
それから、師匠の指示に従って、色々と魔力の扱い方や使える魔法などを見られた。
師匠の指示に従いながら、魔力を練ったり発動したり、魔法に関する知識を試されたり、質問されたり、的当てゲームの様な事をさせられたり、簡単な魔法を教えてもらったり、魔力総量を見られたり……本当に色々させられた。
師匠ははじめこそニコニコしながら指示を出していたが、途中から真顔になり、いまでは真剣に何かを考え込むようにじっと私を見つめている。
「……」
何も言わなくなってしまった師匠の前で、私はふよふよと浮いていた。これはさっき師匠が教えてくれた浮遊魔法だ。まだ扱いが難しいが空中でクルンクルンと回ったりするのは楽しい。
ちょっと調整すれば空中を自由自在に飛び回れるらしい。師匠は空をビュンビュン飛び回ってた。私も練習あるのみらしい。
「誰に魔法を教わったのかな?」
「祖母です」
それから祖母や、両親のことについて色々と聞かれた。と言っても私が知っている情報など微々たるものだ。クレイトニー婆ちゃんはあんまり自身の事や母親の事を教えてはくれなかったから。
「君はいくつだったか」
「先月八つになりました」
「その髪色と目の色が誰譲りか分かるかい?」
師匠にそんなことを尋ねられて横に垂れた金髪を見る。
「わかんないです。でも、婆ちゃんは同じ目の色をしてました」
婆ちゃんは真っ白に抜け切った髪に真っ赤な瞳をしていた。詳しくは分からないが、この紅の瞳は婆ちゃん譲りなんだろう。金髪は誰だろう。知らない。
「そうか……母の名は?」
「レティシア」
ビクリと、一瞬師匠の魔力が僅かに膨れ上がったような気がする。
魔力というのは親から受け継がれる事が多いと聞く。ここまで親族の事を気にされるということは、何か師匠には心当たりがあるのかもしれない。私の母親に関する、心当たりが。
まぁ、私にはどうだっていい事だ。母様の顔も知らないのだから。
そんなことより気になることがあった。私は師匠の目線と同じ高さに浮かぶ。
「私はどうですか?師匠の弟子としてやっていけるでしょうか?」
師匠はずっと指示を出すだけで全然褒めてくれない。淡々と試験を受けているような気分だ。感触が掴めない。
これでも結構優秀な方だと自分では思ってはいるが、師匠の魔法に関する知識は私のような付け焼き刃な技術とは全く違うものだ。知らない魔法の方が多いし、さっきも答えられない質問が幾つもでてきた。
弟子にと連れてきた者が思ったより出来なくてガッカリされているのかもしれない。
師匠はふよふよ浮いている私の手を取るとさっきのような真剣な顔つきで言った。
「大丈夫。君を国一番の魔法使いにしてあげるよ」
別にそこまで望んでないんだけどな。




