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12.デイン

 イーサリオンのお屋敷に来て一週間とちょっと。

 お貴族様生活にも慣れてきた。


 私はカノン・イーサリオンと名乗るようにと父様から言われている。名乗るように、とは言われたが、まだ籍は完全には入っていないのだそうだ。よく分からないが、色んな人の前で親子であるということを証明しないといけないらしい。今度、王都にある聖堂に行くという話だけをぼんやり聞いている。


 私は父様と魔法の授業をしたり、リュートさんにマナーを教わったりしながら過ごしている。だけど二人も忙しい。ずっと私に付きっきりでいるわけにはいかない。そんな時はアズールが側に居てくれるようになった。


「お嬢様、姿勢を正してください」

「むぅ」


 ピシッと言われた通りに姿勢を正す。

 アズールは本当にちっちゃいリュートさんみたいだ。普通に歩いている時でも歩き方がダメならビシバシ指摘してくる。なんでもリュートさんに見ておくように言われているのだとか。ずうっとアズールに見張られて全く手を抜けない。


「次、気を抜かれている姿を見たら本を乗せますからね?」

「ええぇ!」


 スパルタァ!リュートさんより厳しいかもしれない。


 ふくれながら隣を歩くアズールを睨む。アズールの姿勢はとても綺麗だ。ぴんっとまっすぐ立つ姿はやっぱりリュートさんを思い起こす。アズールの姿勢が歪んだら仕返しに指摘してやろうとずっと目論んでいるのだが、実現できたことは1度もなかった。

 目が合うとニコッとアズールは爽やかに笑う。

 ぷいっとそっぽを向くと、こちらに走ってくるメイド服の少女が見えた。


「お嬢様ぁ!」

「エミリィ!」


 たたたっとかけてきたのは屋敷のメイドのエミリィだ。私より一つ上で歳が近いということで遊び相手として紹介された。焦げ茶色の髪は両サイドで三つ編みに結び、煮詰めた飴のような瞳は出会った時から好奇心に満ち溢れている。エミリィは普段は屋敷のメイドとして働いているが暇をもらうと私のところに遊びに来てくれる。

 ちなみにアズールの年齢は私の二つ上だそうだ。


「お暇をもらったのでご一緒しますっ。どちらに行かれるのですかっ?」

「裏庭で魔法の練習をしようと思って。父様に課題をもらっているの」

「そうだったのですねっ。お嬢様はお勉強熱心ですねっ!」

「魔法のお勉強は楽しいからね」


 エミリィも一緒に三人で裏庭に出る。


 今回の課題は全ての属性の基礎魔法を同時に一度に発動させることだ。

 これがまた結構難しい。魔法でなく、魔術でなら起動できたのだが、魔法になると上手くいかない。父様は魔術で起動できたのならいけるいけると結構軽いノリで課題にしてきたが、相反する属性魔法の共存が難しくあっちがつけばこっちが消えるを繰り返していた。


「お嬢様は素晴らしい才能をお持ちですね」


 後ろで見ていたアズールも魔力コントロールの練習をしているみたいだ。幾何学模様を点滅させたり回転させたり……ちょっとたどたどしいけど様になっている。

 ちなみに私は魔力コントロールの練習はもう完璧だ。いっぱい練習して、父様みたいに幾何学模様をビュンビュン動かせるようになって、ドヤ顔で披露するとめちゃくちゃ褒められた。「パパに似てカノンは天才だね!!」と。


「私もはやく移動魔術を覚えるところまで行きたいのですが、コントロールが難しくって。先輩にまずは鍵を開けられるようになってからだ出直してきなって言われるんですぅっ……」


 エミリィはあんまり魔法は得意ではないのか簡単な模様を生成するので精一杯のようだ。


「ちょっと魔力を柔らかくするとやりやすいよ」

「柔らかく」

「こんな感じ」


 エミリィの手に自分の手を添え、実演してみせる。エミリィの魔力は粘土みたいになっている。解してやるように魔力を注ぐとエミリィは鳥肌を立てた。ちょっと傷つくじゃないか……。


「なんか、なみなみしていることしか分かりませぇん! 」

「エミリィは魔力が硬いんだよ」

「硬いと言われてもっ!」


 きゃいきゃいと話しながらエミリィに魔力コントロールのコツを説明していると、背後から声がかかった。


「お前が叔父上の娘とかいう奴か?」


 振り向くと淡茶色の長い髪を後ろでポニーテールにした少年が背後に立っていた。お貴族様って感じのレースの着いた上品な服に身を包み、黄緑色の瞳はこちらをにらみつけている。


 ……誰?


「はっ!こんなちんちくりんの女がイーサリオンの後継者だなどと笑わせる」


 なんだかよく分からないが敵意を向けられているようだ。少年は私を上から下まで眺めるとふんっと見下すように鼻を鳴らした。


「お嬢様。こちらはデイン・クレイウッド様。レイン様の姉君のご子息で、お嬢様の従兄弟にあたります」


 アズールが間に入り、紹介してくれたが……従兄弟……いとこ。

 そうか父様が出来たということは他の血縁者も一緒に出来ることになるのだと今初めて気づいた。


「おいお前!魔法はどこまで使える」

「基礎魔法の応用くらいまでですけど……」

「はっ!イーサリオンの子がその程度までしか魔法を使えないとはこの先が思いやられるな。俺は中級魔法まで使いこなせるぞ」


 なんだろうか、自慢されているようだ。ちょっとムッとしてしまう。私だって中級魔法を教わればすぐにできると思う。多分。


「もうすぐ移動魔術だって教わる予定なんだ」


 デインはニヤリと口角を上げながら言ってきた。すごい攻撃的だなぁと思った。そして、やられっぱなしでは居られない性分なのが残念ながら私だ。


「だから?私の方が魔力量あるし」

「はぁあ?」


 もー売り言葉に買い言葉だ。こちらもふんっと胸を張る。


「生意気だなお前。俺は叔父上に名をもらっているんだぞ。叔父上はイーサリオンを俺に継がせるつもりでいるに違いない」

「知らないよ。父様は私が娘だって言ってくれているし後継者として過ごせと言われてるわ」

「女が出しゃばるなよ」

「カノン様、デイン様。おやめ下さい」


 アズールが困ったように間に入り、手で制しているがカッチンきている私たちは止まらない。


「自惚れるなよ平民風情が。お前のような品のない女が後継者だなどイーサリオンの格が傷つく」

「品がないのは貴方の方でしょ?女の子に突っかかってくるなんて、ださぁい」

「ほら見ろ。これが叔父上の娘だと?騙されてるんじゃないか?」


 バチバチと二人の間に見えない火花が散る。

 罵りあいの押収の後、先に手を出してきたのはデインだった。

 風と炎の複合魔法で辺りを囲われる。炎の竜巻だ。


「あっつ!人に……女の子に向かって魔法を打つなんて、さいってい!」

「こんなものにも対処できないのか。その魔力はやはり飾りのようだな」


 水魔法で幕を作り、バンバンと炎の壁に水をぶつけるが、ぶつける先から水が蒸発していく。デインは生意気に言う程の実力はあるようだ。ぐぬぬと炎の壁の中からデインを睨みつける。


「デイン様!何をするのですか!」

「うるさいっ」


 デインを物理的に止めにかかったアズールは振り払われた。なんて乱暴な奴だ。


「もぅっ!見てなさいよ!!!」


 私はデインに見せつけるように移動魔術の陣を張った。

 この術はもう何度も見せられたし、体験もしていた。


 できるはずだ。私なら。


 ふっと魔力に包まれ場面が切り替わる。

 やった!成功した!


 どうだ見たかと顔を上げる。


「……あれ?」


 私は全く知らない森の中に佇んでいた。


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