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11.魔法の授業

 食事が終わった私はチエルさんに連れられて東棟に来ていた。

 父様の研究室だという部屋をチエルさんがノックする、と、バンっと勢いよく扉が開く。


「来たか!」


 父様は魔法使いの正装であるローブを身にまとっていた。髪はおろされ、さらりと肩から束が流れた。


「頑張ってくださいねお嬢様」と手を振るチエルさんと別れ、私は父様の研究室に入る。

 中は思ったよりかは広かった、壁は窓以外は全面棚のようだ。よく分からないガラスの器具や何かが入った瓶が綺麗に並べられており、形容しがたい不思議な甘い匂いがした。でんと置かれた作業台には紙と本がいくつか乗っているが、作業スペースがしっかり空けられているようだ。


「今日から魔法の授業だよ。夕食の時間までみっちりやるからね?」

「はいっ!よろしくお願いします!父様!」

「魔法の授業の時は師匠と呼びなさい」

「……師匠!」


 もぅ!めんどくさいな!


 今日は基礎の基礎から学ぶ座学からだそうだ。父様はソファに座ると私を隣に座らせた。


「魔法、魔術、奇跡。他にも呼び方は様々あるが、一概にして事象を発生させる技術だ。この三つの違いはなんだったかな?」


「魔法陣や詠唱を使わないで発動するのが魔法。魔法陣や詠唱を使って発動するのが魔術。魔力に頼らないのが奇跡です」


「その通りだ。一般的に魔法と魔術は同一視されて多く魔法と呼ばれる。何故なら、魔術とは魔法陣や詠唱の補助効果を経て魔法を発動させる技術だからだ。魔法をより扱いやすく簡潔に纏める技術を魔術という。極論、魔術でできることは全て魔法で再現出来る。より発動の難易度が上がるけどね」


 世間一般的に魔法より魔術の方が扱い易いとされている。だから人はこぞって”魔術”師よりも難しい”魔法”使いを名乗る。


 魔法と魔術のメリット、デメリットの違いや、魔法と魔術の進化の歴史を説かれたあと、みっちり魔法陣の記号と魔法言語の基礎をおさらいさせられた。詠唱の発音までみっちりだ。

 なんの発動の意味もない記号だけを並べた魔術の基礎陣を教えられ、キンっと足元に浮かべる。


「歪んでいるよ。陣の美しさは効率に直結する。正しい形を感覚で覚えなさい」

「はいっ」


 父様の指示通りに魔法陣を展開し、矯正されていく。しばらくそうした後に外に出て改めて魔術を使ってみると、なるほど確かに発動の感覚が違うような気がした。こう、持ってかれる魔力の量が違う感じがする。


「本当に細かい事だが、難しい陣を発動しようとすればするほどこの細かい事が響いてくる。鍛錬を欠かさないように」


 それから、父様に魔力コントロールを上げる練習方法を教わった。

 魔力のコントロールは魔法陣を描くのにも必須の要素。魔力を複雑に動かし幾何学模様を作り出す。父様は色んな種類の模様をシュンシュン切り替えていたし、周囲に張り巡らせたり、複数の模様を同時に制御したり……もう色々と凄かった。

 私は幾何学模様を生み出すまでは何とかついていけたが、父様のように自由自在に模様を操ることは出来なかった。


「練習あるのみだね。カノンならすぐに出来るようになる」


 残りの時間は基礎魔法や基礎魔術を発動させられた。魔術だけではなく、魔法も魔力の細かい流し方の違いで威力や使用効率が全然違うのだと気づけた。


 父様が言っているのはこういうことかぁ、と、今日習ったことを反映させていく。


「カノンは飲み込みが早いな」

「そうかな!」


 よしよしと褒められる。




「カノン。パパと三つ約束して欲しいことがある」


 父様がそう切り出してきたのはそろそろ夕食の時間だろうかという頃だった。父様は私を座らせると正面に向かい合って座った。そしてあやされるように手を握られる。


「一つ。人に向かって無闇に魔法を打ったりしてはいけないよ。君の魔力量だと相手は対応できないかもしれない。身の危険を感じる時は別とするけどね」


 なるほど確かに。今まで人に向かって魔法を打ったことなどなかったが、そもそも魔法は危険なものだ。その意識をもてということだろうと理解する。


「二つ。上級の魔法は許可を出すまで禁止だ。君の魔力量だと予想外の事故を起こす可能性がある」

「えっ!移動魔術は?」

「それも上級だね」

「ええぇ!」


 死活問題なのに!!


「このお屋敷で暮らしてたら足がムキムキになっちゃうよ……」

「ふふ。まぁなるべく早く教えてあげられるようにしようか」

「やったぁ」


 父様は首をこてっと傾けて笑った。


  「三つ。自分の力を過信しないこと。魔力は怖いものだ。暴発すれば君自身に危険が及ぶ。感情を昂らせ過ぎれば魔力は引っ張られる。便利な力だけど、恐ろしいものだときちんと理解するんだ」


 魔力暴走という現象があるということは知っている。子供の頃に起こりやすい魔力暴走を恐れてか、よく婆ちゃんに魔力暴走の怖さを説かれていた。おかげでか、もともとの性質でか、私は魔力暴走とは無縁の生活をおくっている。


「約束できるかな?」

「わかったわ」

「いい子だ」


 父様はまた私をよしよしと撫でた。

 今日は新しい魔法を習うことは無かったが、父様のお話はとても為になった。




 夕食のための食堂へは父様と手を繋いで行った。次からは基礎魔法の応用を教えてくれるらしい。


 そういえばと父様にくるー!を披露する。くるりと回り、スカートをひろげれば、父様は蹲ってしまって「私の娘が可愛すぎて辛い」と苦しそうにしていた。


 真似っ子マナーをしながら夕食を食べ終える。

 今日はサラダに、クリームパスタだった!塩味と胡椒がきいたパスタには海老っていう海の幸が入っていてとても美味しかった!もちろん海老は初めて食べた!デザートのケーキは真っ赤な苺が乗っていてふわふわだった!


 満足しながらお風呂に入る。磨かれるのはまだ慣れないが、最初よりかは抵抗が薄くなったかもしれない。やんわりと自分で洗うと伝えているが叶えられる日は来るだろうか……。


 夜の時間は父様はお仕事があるらしい。私のために時間を作ってくれてたんだとなんだか申し訳ない気持ちになってしまったが、父様は「カノンが気にすることではない。私がやりたいからそうしているのだよ」と言ってくれた。


 マリーさんとチエルさんが退室してしまうとひとりぼっちだが自由時間ということらしい。

 することも無いので今日のおさらいをすることにした。父様に教えてもらった魔力のコントロールをあげる練習をしよう。


 一人で幾何学模様を並べて練習する。ひたすら無心で魔力コントロールの練習をして過ごす。

 次までにできるようになって父様を驚かせるのだ。

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