1.使用人は嫌だなぁ……
「驚いた。こんな逸材がいるとは」
ぱちくりと瞬きをして、目の前の男を見る。
孤児院で最も綺麗にされた応接間。そこに呼び出された私は同じ年頃の少年少女と並んで立たされていた。
目の前のソファに座るのはどこぞのお貴族様だときいている。
長い黒髪とサファイアの様な深い青色の瞳が印象的だ。
このお貴族様は可哀想な孤児を屋敷の召使いにしたいと申し出て来たらしい。「わざわざ家主様が自ら選定しに来たのだ」ということだけ院長先生から聞かされていた。
そして、そのお貴族様はさっきからずっと私に視線を向けている。
たらりと冷や汗が背をつたう。
「決めた。この子にする」
ぽんと肩を叩かれ、カノンは選ばれる。
まだ部屋に入れられてから5分も経っていない。
院長先生は一瞬ポカンとしたが、すぐに笑顔をとり出してお貴族様と私の譲り渡しの話をし始めた。
お貴族様は私を連れていく上で、孤児院に大金を寄付していた。
あれだけの金があれば暫くは孤児院の懐も潤うだろう。
つまり私は買われた。
荷物をまとめさせられ、あれやほれやと孤児院から追い出されてしまった。孤児院の仲間達に挨拶する暇さえ与えられない。
乗せられたのは貴族様の、馬車……?馬がいないので馬車とは言えないが、魔法で動く乗り物のようだ。
「何故私が君を選んだか、わかるかい?」
「私の魔力が高いからでしょうか?」
お貴族様はニコッと笑った。
ええ、ええ。分かってますとも。
自分が周りより突出していると気づいたのはまぁ物心着いた頃からだ。昔から人の魔力を感知する能力に長けていた私は自分の魔力量が周りの子とは比べ物にならないほど膨大であるという事がすぐに分かった。そして魔法の基礎を勉強していくうちに、この魔力量は一番の武器であると理解していった。
私はこの魔力量を活用するために魔法の勉強を頑張った。色々と魔法を教えてくれたのは七つになるまで育ててくれた祖母のクレイトニー婆ちゃんだ。
クレイトニー婆ちゃんは私の魔力量が高いと知るや魔力を少なく見せる方法や、魔力測定を詐欺るコツなんかを教えてくれた。
婆ちゃんが死んで一人になった私は孤児院に引き取られる事になった。元々他に親戚もなく、母親は私を産んですぐに死に、父親はどこの誰かも分からない。婆ちゃんが死んでも自分一人で生活出来ると訴えはしたが周りの大人は聞き入れてくれなかった。
孤児院に入れられた私はまぁこれも運命と自分の置かれた立場を甘んじて受け入れることにした。
そして孤児院に入れられて一年目、魔力の高さがバレてこの男に買われた。
「その通りだ。しかも、魔力が高いことがバレないよう小細工したね?」
「……」
はぁとガッカリした風にため息をつく。
私は孤児院で”ちょっとだけ魔力高めの女の子”の地位をキープし続け、本当の力を隠し、ゆくゆくはお金持ちの養子の座を狙っていたのだ。召使いにされると聞いてはため息をつきたくもなる。
「まぁ、私には効かなかったが周りは上手く騙していたみたいだね。君のような者が孤児院にいれば速攻で売り切れていただろうし。身売り先を限定するのにはいい方法だっただろう。私自ら足を運んで正解だったみたいだね」
男は良い掘り出し物を見つけたとでもいうようにニヤリと笑う。
「あぁ。自己紹介がまだだったね。私はレイン・イーサリオン。よろしく」
「カノンです。よろしくお願いします」
差し出された手を握り返す。
「さて、カノン。私は今回使用人として働いてくれる適度な子供を見繕いに行ったのだけど、予想以上の収穫物を得てしまってね、君をただの使用人にするのは惜しいと考えているんだ」
「……はぁ。と、いいますと?」
レインおじさんはぎゅっと握った手に力を込めると笑顔で言った。
「君には私の世話係兼弟子になってもらおうと思っている」
「……なるほど?」
まじまじと、目の前のレインおじさんを眺める。確かに、思っていた。すごい魔力だと。
私が今まで見てきたどの人よりも高い魔力。
軽く大金を出せるところを見るに、かなりのお金持ちの家だろうとも思えた。
悪い扱いはされなさそうで一先ず安心する。
今までいた孤児院は、あまり良い環境とは言えなかったから。
いや、でも世話係ってなんだ?弟子だけじゃダメだったのかな。なんだか少し近すぎる距離を提案されたようで身構えてしまう。
でも、この人は良い人そうに見えるし、私に変なことは要求してこないと思う。
少し、見つめられる視線に違和感を覚える。まるで愛おしいものを見るような目。
考え過ぎだと、私は頭を振る。とにかく、使用人よりかは待遇がよさそう。
ラッキーな事だと思おう。




