エピソード1『闇夜の訪問者』
『出会い』
私は目を開く…そこには見慣れてしまった天井が映り…体を起こして周囲を見ると、窓から陽光が差しているのが見えた
私は立ち上がり…寝巻きを脱いで制服に着替える
部屋を出てリビングに入り、朝食の準備を始める
朝食を食べながら…タブレット端末を使用して、情報を確認する
月光学園
都内有数の中高一貫校であり、『異能』を有する能力者と『異能』を持たない無能力者によって学科が分けられている
能力者の所属する学科は先進学科と呼ばれ、能力制御の実技と基礎教養、希望に応じた専門教育を行っている
無能力者が所属するのは普通科であり、基礎教養と進路希望に応じた専門教育などを行っている
この学校は日本政府によって運営が行われているが、こういった能力者の為の学園は戦勝側の連合国である『日本』『アメリカ』『ロシア』『イギリス』に置かれており、運営費の多くは『連合国議会』から出されている
私は朝食を食べ切り、鞄を持って玄関から出る
私がエントランスから外に出ると、輝夜が待ち伏せしていた
「おっはよ〜!有栖ちゃん」
「おはよう…輝夜」
「元気ないな〜」
「いつも通りってことでしょ」
「ん〜まぁそうなのかな?」
私は彼女を通り過ぎて歩き出す
「早く行こう、時間の無駄」
「は〜い」
輝夜は嬉しそうに私の横に着いていく
学校に着くと、輝夜は生徒会長の用事ですぐに校舎内に入っていく
面倒臭いのがいなくなった私は一息ついて、事前に言われていた通りに教員室に向かう
教員室の前に立つと、私はノックしてドアを開ける
「失礼します…霜月有栖です…校長先生はいらっしゃいますか?」
私がそう呼びかけると、校長をしていると思われる教師が立ち上がり私の方に向かってくる
「待っていました、霜月さん…今担任の先生をお呼びしますね」
校長先生が手招きして、小柄な女の先生を呼ぶ
「あなたの担任となる1年Aクラスの紅優希先生です」
「はい!紅優希です!よろしくお願いします!」
なぜか担任の教師の方が緊張しているように挨拶してくる
「霜月です…よろしくお願いします」
「…」
教師が物珍しそうに私の方を見てくるので、私は問いかける
「何かついてますか?」
「は!失礼でしたよね!ごめんなさい!」
やり取りのぎこちなさに校長がフォローするように話してくる
「彼女は非常に優秀な教師です、君にとって何かの刺激になると思うよ」
その後は学校生活についての注意点などを教えてもらい、教室まで案内された
先生が私を連れて入ってきたことでクラスメイトは少し騒がしい
「(聞いていた通り、ランク3以下が大半を占めてるね…あの偉そうな男はランク2能力者みたいだね)」
「今日から皆さんと共に学ぶことになる霜月有栖さんです…みなさん仲良くしてあげてくださいね!」
紅先生は私に挨拶を促す
「霜月有栖と申します…皆さんと仲良く出来ればと思っています…よろしくお願いします」
私が頭を下げると、クラスの全員が拍手し始める
私は入学前にこう言われた…
『君がランク1の能力者であることは内密にしてほしい…君がそうであることは担任、校長などの必要な人間には伝えておくが、くれぐれも口外しないで欲しい』
何故かと聞いたが大した答えは得られなかった
席を決めてもらい、席に座るように促されると…私からはため息が溢れる
「どうかしましたか?」
紅先生は私を見つめる
「なんでもありません…席に着きますね」
私は指定された席に座り…隣の女子生徒に挨拶する
「これからよろしく」
「はい!これからよろしくお願いします!」
その女子生徒は元気に挨拶する
授業は退屈なもので…私にとってはこれまで学んできたことを復習しているだけのようなものだった
休憩に入ると、隣の席の女子生徒が話しかけてくる
「退屈ですか?」
「え?そんなことは…顔に出てた?」
「ふふっ…はい、授業中すごく退屈そうでした」
「よく分かるね…そういえば名前を聞いてなかったね」
「はい、私は蔵持希空って言います!よろしくお願いします」
「希空ね…覚えたよ」
「ありがとうございます、宜しければ希空と呼んでください!」
「分かった、じゃあ私のことも有栖って呼んで」
「はい!有栖ちゃん」
彼女はとても嬉しそうに私を見てくる
「(この娘…輝夜と同じタイプだ)」
昼休憩になると、偉そうな男子生徒が私の前に立つ
「おい…お前の能力のランクは?」
私が無視していると、その男は机を叩く
「聞いているのか!」
そこで希空が止めに入る
「失礼ですよ!神城君!」
だが、私は立ち上がって希空の肩を叩き動きを止める
「私はさ…嫌いなんだよ、自分の能力のランク付けで調子に乗って他人を不快にする人間が」
私の言葉に、その男は嘲笑で返す
「そんなに低いのかよ…」
「君の頭脳ではそれが限界か…」
「は?」
私が意識するだけで、氷塊で出来た棘が彼の命を掠める
その様にその場にいた全員が息を呑む
「次は外さないよ…嫌なら私の前から消えて」
私は彼の能力を知っている、私の同格に上位互換の奴がいるから…彼が能力をしようとすると、ひとつの声がそれを止める
「やめないか!それ以上彼女に何かするのなら私が容赦しない」
そう言って教室に入ってきたのは、『輝夜』だ
周囲の人間は口々に「生徒会長だ」と呟いている
「有栖、能力を解除してくれ…」
私は氷塊を解除して彼女に向き直る
「輝夜」
「有栖…一緒に来てくれ」
すると、希空が輝夜の前に出る
「会長!彼女は悪くないです!」
「分かっている、蔵持…私は元々彼女に用があってここに来た、君も生徒会役員だ…一緒に来るか?」
希空は言葉の真意を図りかねて頷く
「よし、では二人とも…生徒会室に」
輝夜は私と希空を連れて教室を後にする
私は教室を出ていく時に見た…仲間に解放される神城が私を睨んでいる様子を
________
ランク1能力者
日本
『氷結の華』霜月有栖
『天使』???
『煉獄』???
『神聖』???
『奇術師』アルセーヌ
________
『訪問者』
席に着くと、輝夜の顔の威厳が無くなっていく
「先ほどはすま無かったな…彼は私と同じランク2能力者なのだが、どうにも自身の力を誇示せずにはいられないらしい…ただでさえ一年にランク2は三人しかいないしな」
「三人もいるんだ」
私が溢すと、希空は頷く
「先ほどの神城凪君、神白司君、そして…私です」
「全てAクラスに?」
「あぁ…だが神白は休校中だけどね」
私が平然と受け入れたことに驚いたように希空は呟く
「驚かないんですか?」
「まぁね…見れば分かるから」
「見れば?」
「彼女はそう言うものだと受け入れた方がいい、考えるだけ無駄だ」
「で?輝夜は結局何の用だったの?」
「あぁ!そうだった…有栖、生徒会に入る気は…」
「ない」
私の即答に輝夜は分かっていたように項垂れる
「分かっていた…ことでしょう?私がそんな面倒なことするわけがない」
「まぁそうだな…蔵持も生徒会なんだが、それを考慮してもダメか?」
私は希空の方を見る
希空は相変わらずの笑顔で私を見返す
「考えても良い…他のメンバーに害がなければ」
「分かった、生徒会メンバーを紹介する為の場を用意しよう」
話が進んでいくと、希空はふと疑問に思ったことを聞いてくる
「有栖ちゃんと会長はどう言ったご関係で?」
「ふふん…よくぞ聞いてくれた!」
輝夜が変なことを言いそうだったので淡々と告げる
「彼女は私と幼馴染というだけ…それ以外の何者でもない」
「そうだったのですね…大変そうですね」
希空は同情するように私に呟く
「何が大変そうなんだい?」
____________
教室に戻っても、特に突っ掛かってくる奴もおらず…その後は平和に一日を過ごした
帰りの支度をしていると、希空が話しかけてくる
「家はどちらに?」
「『New Start』っていうマンションだよ」
「私の家のすぐそばですね!一緒に帰りましょう!」
「もちろん」
彼女は眩しい笑顔で私を見てくる
帰路につき、私と希空は帰り道にあるカフェに入る
そこで雑談をして時間を過ごし
別れる前にアドレスを交換する
「また明日!」
私は自身の部屋に入り、荷物を置いてコーヒーを淹れて飲み始める
タブレット端末を開いて…神城凪のことを調べ始める
名前:神城凪
ランク2
能力:『豪炎』
詳細:気性が荒く、『月光学園中等部』でも問題を起こしていた
『月光学園高等部』に入った際の再測定でランク2に昇格した『再覚醒者』と思われる
「再覚醒者…」
私はその文言を読んで彼の気性の荒さについて理解する
私はそれを閉じて呟く
「酷いものだね」
私が目を覚ますと、外はすでに真っ暗になっており…時刻を確認すると、20時を回っていた
私は夕食を買いに行く為に私服に着替えて外に出る
私は目的地に向かって歩を進める
付近のコンビニに入る寸前…私は帽子を目深に被った男がこちらを見ていることに気づく
その男が何かを呟くと…その通りに竜巻が発生し、周囲を巻き込んで破壊する
一般人はそれに反応できず、巻き添えになる…はずだった
その通りにいた数人を抱えた有栖の姿が空中に現れる
「(っ…二人助けられなかった…)」
有栖はビルの屋上に着地し、助けた5名を置く
「(それ以前に…反応できなければ誰も助けられなかった、あれは…『ランク1』…つまり、こいつは未登録の…)」
その男の姿は一瞬で有栖の立っているビルの横に位置するビルに移る
「会えて光栄だよ…『氷結の華』」
「私は光栄じゃないよ…君は誰?」
「そんな事を気にしている余裕が貴女にあるのですか?」
その瞬間…風の刃が助けた一般人を狙うが、空中でその動きを止める
「あるよ…君はランク1だよね、でも私は君を知らないな」
「それは当然でしょう…私は日本に属しているわけではないので…『ランク1』と判断されれば…所属する国を選ばせられる…貴女もそうなのでは?」
有栖は懐から拳銃を引き抜いて構える
「そうだね…でも知ってるよね?能力者はランク測定を受けないと…反意ありと見做されて極刑に処されるって事」
男は口角を持ち上げる
「もう一度だけ聞くよ…君は誰?」
「…私は『彼岸花』のひとり…フォニクスと覚えてください」
「(『彼岸花』…聞いたことがある…世界各地で活動しているテロ組織で…活動理念は…『無能力者抹殺』)」
有栖は拳銃を片手に持ち、氷の剣を創造する
「私に何の用?」
「勧誘ですよ…我々はまだ規模が大きくない…ランク1である貴女が仲間になってくれれば、心強い」
「お断りするよ」
「残念です…特別な能力者である貴女が仲間になってくれれば…怖いものなどなくなるというのに」
「(私が『月光学園』に入ってすぐこうなったって事は…情報が漏れている…『内通者』かな)」
その男は彼岸花を一本取り出す
「それでは…危険な敵になる貴女には退場願うことにしましょう」
私は踏み出し、攻撃上に一般人が被らないように男の背後に回り込む
「『乱風空間』」
男を中心に竜巻が発生し、私は後退を余儀なくされる
「この風をどうにかしないと」
私は勢いよく地面に手を突き…巨大な氷塊で風諸共男を打ち上げる
拳銃を構えて発砲する
弾丸は氷塊を避けるように軌道を動かし、男に命中する
男は銃弾を彼岸花で受け止めて弾道を逸らす
「危ない危ない…」
男が指を鳴らすと、凄まじい竜巻が有栖を襲う
「『永劫氷壁』」
厚い氷塊の壁が彼女を包み…竜巻から彼女を護る
フォニクスは赤色灯が近づいてくるのを見る
「今宵はここまででしょう…またお会いしましょう、『氷結の華』」
彼の姿は風の中に消えていく
有栖は追うのを諦めて剣を消し去り、拳銃を収納する
「ここまでとは…」
有栖は近づいてくる警察官を見る
「…長官」
その男は…警察庁長官『一之瀬快斗』だった
「有栖…現場は公安が抑える…来なさい」
「分かりました」
____________
警察がその場所を封鎖する様子を見渡せる場所に、フォニクスは着地する
「やはり…『氷結の華』は警察庁か」
「随分と派手に荒らしたね」
背後に黒いドレスに身を包む少女が現れる
「…パペティア」
「勧誘できないなんて分かっていたでしょ…あの娘の忠誠心は日本にしか向いていないんだから」
「そうだね…大事の前に現れた絶好のチャンスだったから早まったかな」
「戻るよ…あの方の忍耐もそこまで持つものじゃないよ」
「そうしよう」
_____________
警察庁 長官室
一之瀬はデスクに座り、有栖に自身の前にあるソファに座るように促す
「長官…被害は」
「それに関しては問題ない…二名の死者を除いた五名は保護した…心配しなくていい」
「…」
「今回の件は…想定外が過ぎたな…『彼岸花』の足取りは負わせているが、期待はできないだろう」
「任務には支障はありません、ですが…あのような邪魔が入り続けると…」
「君の『異能』に関しては制限を解除することにしよう、次に接敵する事があれば…確実に薙ぎ払え」
「了解」
有栖は立ち上がり、退出する
一之瀬はひとり残され…窓から夜景を眺める
「…」
___________
名前:霜月有栖
能力:『霜華』『???』
称号:『霜月家次期当主』『氷結の華』『ランク1』『警察庁直属能力者』『調停者』
次回予告
『彼岸花』との接敵がありながらも、有栖の学校生活は夏休みに突入する
平穏な日常に隠れて、赤色の闇が忍び寄る
『駄目ですよ…私の有栖ちゃんには触れさせません』
輝夜の瞳は月光のように輝きを増す
彼岸花の黙示録編・エピソード2『支配者と月光の華』




