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第九章 選択
翌週の月曜日、咲は退職届を書いていた。もう限界だった。職場の雰囲気は最悪で、多くの同僚が咲を避けるようになっていた。
「咲さん」
香織が現れた。満足そうな表情を浮かべている。
「賢明な判断ですね」
「これで満足ですか?」
「涼介さんのためです」香織は微笑んだ。「彼には私が必要なんです。あなたみたいな過去の亡霊じゃなく」
その時、ドアが開いた。涼介だった。
「香織、君がやったことは知ってる」
涼介の声は氷のように冷たかった。
「何のことかしら」
「咲の悪い噂を広めたこと。職場で孤立させようとしたこと」
香織の表情が変わった。
「涼介さん」
「もう終わりだ、香織」涼介は疲れたように言った。「僕たち、うまくいかない」
「そんな」香織は泣き出した。「私が何をしたって言うの?愛する人を守ろうとしただけよ」
「その方法が間違ってる」
香織は咲を睨んだ。
「やっぱり、この人のせいね」
「誰のせいでもない」涼介は言った。「僕が悪いんだ」
香織は何も言わずに出て行った。