第六章 決断
翌日、咲は会社に行くことができなかった。涼介の告白が頭から離れず、どう対応すべきかわからなかった。
午後、インターホンが鳴った。香織だった。
「お体の調子が悪いと聞いて、お見舞いに来ました」
香織は果物の入った籠を持参していた。
「ご丁寧にありがとうございます」
「昨夜、涼介さんがいらしてたそうですね」
咲は驚いた。香織はどうやって知ったのだろう。
「マンションの住人の方から聞きました。たまたま知り合いがいたので」
香織の笑顔は相変わらず完璧だったが、咲にはその底知れない怖さを感じた。
「話は聞きました。涼介さんから」
香織はソファに座った。
「彼、混乱してるんです。昔の想い出に惑わされて、現実を見失ってる」
「香織さん」
「でも大丈夫。時間が解決してくれると思います」香織は立ち上がった。「咲さんがいなくなれば」
その言葉に、咲は身震いした。
「プロジェクト、降りていただけませんか?」
「それは」
「もちろん、正当な理由をつけます。他の案件が忙しくなったとか」香織は微笑んだ。「咲さんも、涼介さんを困らせたくないでしょう?」
咲は香織の提案を考えた。確かに、このままでは涼介を困らせるだけかもしれない。
「考えさせてください」
「明日までに返事をいただければ」
香織が去った後、咲は一人で考え続けた。自分がいることで、涼介の人生を複雑にしているのは事実だった。しかし、逃げることが本当に正しいのだろうか。