第四章 嫉妬
「咲さん、ちょっといいですか?」
翌週の月曜日、香織が咲のデスクにやってきた。いつもの笑顔だったが、どこか硬い印象を受けた。
「はい」
「お忙しいところすみません。ちょっと相談があって」
二人は会議室に向かった。香織はコーヒーを二杯用意すると、咲の向かいに座った。
「実は、涼介さんのことで」
咲の心臓が早鐘を打った。
「最近、なんだか様子がおかしいんです。上の空というか、考え事をしてることが多くて」
香織は困ったような表情を見せた。しかし咲には、その表情の奥に鋭い視線を感じた。
「何か、心当たりはありませんか?幼馴染として」
「いえ、特には」
「そうですか」香織は少し間を置いた。「でも、咲さんが来てから、涼介さんが変わったような気がするんです」
その言葉に込められた意味を、咲は理解した。
「私は仕事でここにいるだけです」
「もちろん、わかってます」香織は笑顔を浮かべた。「でも、男の人って昔の想い出に弱いじゃないですか。特に初恋の人には」
咲は息を呑んだ。
「初恋って」
「あら、違いました?」香織の笑顔が冷たくなった。「てっきり、お互いに特別な感情を抱いていたのかと」
「そんなことは」
「ならよかった」香織は立ち上がった。「でも咲さん、一つだけお願いがあります。涼介さんを惑わせるようなことは、しないでください」
香織の言葉に、咲は何も答えることができなかった。