第二章 懇親会
夜の懇親会は、会社近くのイタリアンレストランで開催された。社員たちは和やかにワインを片手に談笑している。咲は端の席で、静かにパスタをつついていた。
「咲ちゃん、お酒飲まないの?」
隣に座った営業部の田中が話しかけてきた。咲より少し年下の、人懐っこい男性だった。
「車で来たので」
「そっか。でも今度一緒に飲みましょうよ。咲ちゃんって、なんか神秘的でいいですよね」
田中の言葉に、咲は小さく笑った。神秘的というより、単に人付き合いが苦手なだけなのだが。
「田中君、咲さんを困らせちゃダメよ」
香織が割って入ってきた。手にしたワイングラスが微かに揺れている。
「あ、香織さん。すいません」田中は慌てたように頭を下げた。
「咲さんは涼介さんの幼馴染なんですって。素敵な関係ですよね」
香織の言葉に、周囲の視線が一斉に咲に向けられた。咲は居心地の悪さを感じながら、曖昧に微笑んだ。
「香織」
涼介の声が響いた。彼は香織の隣に座り、そっと彼女の肩に手を置いた。
「少し飲みすぎじゃない?」
「大丈夫よ。楽しいもの」香織は涼介に甘える様に寄りかかった。「ねえ、咲さん。涼介さんって昔からこんなに優しかったの?」
咲は涼介と目を合わせた。彼の表情は読み取れない。
「さあ、どうでしょう」
咲の曖昧な答えに、香織は不満そうな表情を見せた。しかし、すぐにいつもの笑顔に戻る。
「もっと昔の話を聞かせてくださいよ。きっと面白いエピソードがたくさんあるんでしょうね」
「香織、そろそろ帰ろうか」涼介が立ち上がった。「みんなも、今日はありがとう。咲、送っていこうか?」
「いえ、大丈夫です」
咲は慌てて首を振った。二人きりになるのは、まだ心の準備ができていなかった。