第十一章 エピローグ
半年後、咲と涼介は定期的に会うようになっていた。仕事の話から始まって、お互いの趣味や将来の夢について語り合った。
昔とは違う関係性を築いていく過程は、思った以上に楽しかった。咲は涼介の新しい一面を発見し、涼介も咲の本当の魅力に気づいていった。
「今日は何を食べようか?」
日曜日の午後、二人は街を歩いていた。恋人同士ではなく、でも友人以上の関係として。
「何でもいいです」
「相変わらず、選択を委ねるね」涼介は笑った。「でも、最近少し変わったよ。自分の意見を言うようになった」
確かに、咲は以前より自分の気持ちを表現するようになっていた。涼介との関係を通じて、自分自身を見つめ直すことができたのかもしれない。
「涼介さんも変わりました」
「どう?」
「優しくなりました。昔は、もっと一人で抱え込んでいたけど、今は人に頼ることも覚えたみたい」
涼介は照れたように頭を掻いた。
二人は公園のベンチに座った。桜並木が美しく咲いている。
「咲、一つ聞きたいことがある」
「はい」
「今の僕たちの関係、どう思う?」
咲は少し考えた。
「悪くないです」
「それだけ?」
「今は、それで十分だと思います」
涼介は微笑んだ。急いで答えを求めない。それが、今の二人の約束だった。
桜の花びらが舞い散る中、二人は静かに時を過ごしていた。恋愛というより、人生のパートナーを見つけていく過程のようだった。
真の幸せとは何か。それは、相手を理解し、自分も理解してもらえる関係を築くことなのかもしれない。咲と涼介は、ゆっくりとその答えを見つけていこうとしていた。
春の風が二人を包み込んでいた。新しい季節の始まりを告げるように。
(完)