第十章 新しい始まり
一ヶ月後、咲は新しいプロジェクトに参加していた。今度は別の会社で、在宅ワークが中心だった。
涼介とは、あの日以来会っていない。彼から何度か連絡が来たが、咲は応答しなかった。時間が必要だった。
ある日の夕方、アパートのインターホンが鳴った。宅配便だと思って出てみると、涼介が立っていた。
「話をさせてほしい」
咲は迷った末、彼を部屋に入れた。
「香織は会社を辞めた」涼介は報告した。「実家に帰ったらしい」
「そうですか」
「咲、僕の気持ちは変わらない」
涼介は咲を見つめた。
「でも、今度は違う。君が嫌がることはしない。君のペースで、君の気持ちを大切にしたい」
咲は涼介の真剣な表情を見た。
「時間をくれる?」涼介は続けた。「急かしたりしない。ただ、可能性だけは残しておいてほしい」
咲は長い間考えた後、小さく頷いた。
「ただし、条件があります」
「何でも」
「もう昔の関係に戻ることはできません。新しく始めるなら、お互いを知ることから」
涼介は微笑んだ。
「そうだね。改めて、よろしくお願いします、倉持咲さん」
「こちらこそ、桜井涼介さん」
二人は握手を交わした。窓の外では、桜が散り始めていた。