第二十七話 夜明け前の迷い
──空が、静かだった。
星蝕の嵐が去ったあとの泉は、まるで何事もなかったように澄んでいて、かすかなさざ波の音だけが、世界の輪郭をなぞるように響いていた。
ルナリアは、泉のほとりに静かに腰を下ろしていた。その隣には、サイードとアレクシスの姿がある。
誰も、言葉を発さなかった。
淡い光が、夜空の端に滲んでいる。もうすぐ、夜明けが来る。
(……お母様の祈りは、確かに星に届いていたのね……)
そう、知ってしまった。
でも、心の中にはまだ答えが出ないままの問いが残っていた。
(わたしは、何を選ぶべきなんだろう……)
母の想いは、ただ優しく……自らの命を賭けて祈りを捧げたことも、また事実だった。
王宮に星蝕が堕ちたあの日からずっと、ルナリアは誰かのために祈ることで、自分の存在価値を感じていた。
でも──今は、違う。
目の前にあるのは、サイードの真っ直ぐな視線。傷だらけの身体で、命を懸けてわたしを守り、ずっとそばにいてくれた人。
隣に寄り添うのは、アレクシスの揺れる眼差し。騎士として、そして友人として、幼い頃から守り、寄り添い続けてくれた人。
(わたしも、まだ一緒にいたい……もう、使命だけで心を閉ざしたくない……)
だけど──
(わたしは、唯一残された星の巫女……この世界を、この人たちを守れるのは――今はもう、わたししかいない……)
ルナリアの瑠璃色の瞳が揺れる。
(わたしが祈らなければ、この世界はいずれ………)
ルナリアは天を仰いだ。
輝いていた星々は、静かにひとつ、またひとつとその姿を儚く消していく。
ルナリアは、ゆっくりと立ち上がった。
まだ答えは出ていない……けれど、ほんのわずかに、確かなものが芽吹きはじめている気がした。
──空は、ほんのりと明るんでいた。




