もう一人のきみ
科学館を出て、皆と別れた俺たち3人だったのだが…なんだろう、さっきから結月の様子がおかしい。俺の腕をずっと掴んでいる
「なあ結月、歩きにくいんだけど」
困り顔で言うと、頬を膨らませてさらに強く掴んできた。虹咲さんが怯えている。正直俺も怖い
「なあ、何があったんだよ」
「さっき、つかさ先輩と何話してたの?」
怖い目で俺を見つめながら訊ねる
「いや、そんな大した話はしてないよ」
「はっきり答えて。それじゃわからないよ」
怖い顔を俺に近づけて問い詰めてくる
「あーもううるさいな。家族の話されたんだよ!」
俺は逆ギレしてるような言い方で強く返す
「それで?」
俺から顔を離し、真面目な顔で俺に再び訊ねる
「それでって」
「他にだよ。他にはなんの話を」
「な、なんもしてないよ。それだけ」
「うそだっ!」
結月が大声で叫び、俺を押し倒す
「ちょっと結月ちゃん」
「あんたは黙ってて!!」
獣のような表情で虹咲さんに向かって叫ぶ。恐怖しか感じなかった。きっと虹咲さんも同じ気持ちだろう
「ねえ、どうせあの泥棒猫に告白されたんでしょ?答えなさいよ、私、なんのために頑張ったと思って…!」
俺の胸ぐらを掴みながら、キレ散らかす結月。俺は恐怖のあまり言葉が出なかった
「お願い!私だけの優でいて!」
この言葉で感じた違和感。
こいつ、本当に結月か?
「誰、きみ…俺の知ってる結月じゃない」
俺は無意識にそう呟く
「…!」
我を取り戻したのか、結月が今の状況に動揺しているような表情になった
「結月…か?」
「いや、ごめん…私」
結月の目から涙が溢れる
「結月?」
俺がそういうと、結月は俺から手を離し、暗い顔で立ち上がる
「ごめん。しばらく、一人にさせて」
そう言うと結月は、ひとりで家の方向へと走っていった
俺と虹咲さんを置いて




