アイデンティティの崩壊
「ゆづきおねえちゃん!これなに〜?」
佳奈ちゃんが恐竜の模型を指差しながら私の方を見てぴょんぴょん跳ねる
「これはね〜」
私は笑みを浮かべながら佳奈ちゃんの質問に答える
…がこれは表向きそうってだけ。実は心の中では動揺している
優が先輩に連れて行かれた。どうして?なんのために?初対面の男とどうして二人きりになる必要があるのか
…
昔、とあるラブコメで聞いたことある。幼なじみは、泥棒猫に好きな子を奪われるのがありがちな展開だ…と。まさか先輩…いやいや、つかさ先輩がそんなことするわけがない。そもそも優はまだ立ち直り切ったわけじゃないんだし
とはいえ、最近身の回りに女の子が増え始めている。いつ誰に取られてもおかしくない。ん?今私なんて言った?
『いつ誰に取られてもおかしくない』
!!
気がつくと、時間がまるで止まったかのような空間に、私の目の前にもう一人の自分がいた
『いい加減、素直に認めなさないよ。本当は優のことが』
違う!私は…私は…
『言っちゃいなさいよ、愛してるって。私だけの優でいてって』
違う、優は私だけのものじゃ
『ならなんで取られたくないの』
…いや、この子の言うとおりかもしれない。思えばそうだ。風呂場で春瑠ちゃんを押し倒してたのを見た時、私、どうして優に怒った?
『嫉妬してたんでしょ?自分も押し倒されたかったんでしょ?』
その通りだ。私もああいうことされたかったんだ
ああそっか、私、優に好きになって欲しかったんだ
『それでいいのよ』




