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第47話 今日の夕飯、何だろな。

 あの後……虚白に誘拐される事件が起こった後。虚白はすっかり大人しくなった。抜け殻のようになった様子の虚白を見て、柚希は二人きりで話がしたと言い出した。


「キミねえ、自分が何されてきたか、本当にわかってるわけ?」


 勿論、いつきさんは呆れた顔で反対したし、私も何かされてしまうのではないかと心配したのだが、柚希は頑として譲らなかった。


「雛だって、操られていたとはいえ、雛の首を絞めた俺と、ちゃんと向き合ってくれた。許してくれた。だから俺も、虚白とちゃんと、話したい」


 まっすぐな目で見つめてくる柚希に、私たちはしぶしぶ折れたのだった。


 話し合いは、難航するかと思われたが、意外と早い終着を見せた。というのも、柚希が凄まじい頑固さを発揮したせいだった。


 虚白に、柚希に抵抗するほどの元気は残っていなかったらしい。


 結果、話し合いは柚希の望み通りに決着し、虚白もこの明石屋に住み着くことになったのである。かなり強引に決めてしまったらしいのだが。幸い、澄子さんは虚白さんが明石屋に住み着くことを快諾してくれた。流石の一言である。


 柚希が虚白を強引に引っ張って来た当初。私は最初、虚白を受け入れることができず、毎日警戒して過ごしていた。


 けれど、キャンキャン噛みつく虚白を前に、平然としている柚希を見て、私も覚悟を決めたのだ。


『虚白さんは、凄まじいツンデレってことですもんね!』


 拳に力を込めながら気合を入れて言ったこの一言が、恐らく決定打になったように思う。住民たちに奇異の目で見られてしまった。


 勿論、虚白さんが一番目を見開いて、信じられないものを見るような目を向けてきたのだけれど。なんだかそれを見ていたら、少しだけ彼に対する恐怖が和らいだのだった。


『本当に澄子に似てきたね」


 驚いたような顔を浮かべる住人たちの中で、いつきさんだけはどこか上機嫌だったので、悪いことではないだろう。


 澄子さんの手腕と、住民たちの融通のおかげで、就職先を見つけたらしい虚白さんは、すっかり丸くなり、今や立派な柚希の保護者である。


「おい、お前ら、聞いてんのか!」


 ガミガミという虚白さんの説教を聞き流していると、柚希に袖を引っ張られた。口元に手を当てている様子を見るに、内緒話がしたいらしい。それに対して耳を貸すと、柚希はこっそり囁いた。


「今日の夕飯、何だろな」


 私はそれに微笑んで、柚希の耳に囁き返す。


「何でしょうね……でも、きっと美味しいですよ」


 いつものようにそう返すと、柚希は穏やかに微笑み返してくれた。

お付き合いいただきありがとうございました!

こちらは公募用に書き下ろした作品だったので、完結しつつ、続きを書ける余地を残す作りにしておりました。

PCの中で眠っていた作品ですが、読んでくださった方を楽しませられたのでしたら幸いです。

またいつか、他の作品でもお会いできることを祈って、結びとさせていただきます。本当にありがとうございました!

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