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第37話 忠告

 第二回の綾部家会議が開かれたのは、その日の夜だった。


 柚希は参加をしなくてもいいのではないかと提案したのだけれど、柚希はそれに首を振った。


「恐らく、犬っころを狙ってきたのは、虚白の独断だろうね。前回にしろ、今回にしろ、奴以外には誰も現れなかった。一度失敗しておきながら、次も増援がないとは、考え難い。奴の発言からして、犬っころを比較して下げることによって、特権的な生活を送るための糧とすることが目的だろう。それに、どうやら主人とやらは犬神が嫌いらしいしね。連れ戻して、自分が疑われる芽は潰しておきたいんだろう」


 改めて考えても、なんて身勝手な言い分なのだろうかと腸が煮えくり返る思いがする。


「そんなの、全部あのひと……虚白の都合じゃないですか! どうして、酷い目に遭うってわかっているのに、柚希が戻らなきゃいけないんですか!」


 感情のままに口調を荒くして、どんと食卓を叩く。すると、目を丸くした侑李さんが、こちらを向いた。


「ひ、雛ちゃんがそんなに感情的になるなんて、珍しいわね……。虚白に啖呵をきっていたのも、びっくりしたわ……」


 胸を押さえる侑李さんに、急に恥ずかしさがこみ上げる。


「あら、あら。雛ちゃん、最近、随分感情を表に出すようになったわねえ」


 澄子さんに、温かい目を向けられて、更に羞恥心が沸き上がった。


「す、すみません、つい……」


 顔が熱くなっているのを感じながら、謝罪を口にする。しかし、澄子さんは直ぐに首を横に振った。


「謝らなくていいのよ。寧ろ、私は嬉しいと思っているのよ。だって、雛ちゃんはいつもいい子だけれど、いえ、いい子過ぎるから……。我慢してるんじゃないかって、そう思うことがあったのよ。雛ちゃんが、自分の素直な感情を出してくれるようになって、安心したわ」


 そう語る澄子さんの瞳には、愛情がにじんでいるように思えた。そのくらい、優しい目だったのだ。その目を見つめているうちに、気が付いた。


 私は、綾部家の人たちに迷惑をかけないようにと、そう思って生きてきた。けれど、それは私を本当の娘のように扱ってくれている彼女たちに対して、壁を作る行為だったのかもしれない。


「ありがとうございます……」


 小さな呟きは、ちゃんと澄子さんの耳に届いたらしい。彼女は、慈愛に満ちた微笑みで返してくれた。


 一連の流れを見守っていたいつきさんが、パンと手を叩いて話の軌道修正を試みる。


「ま、ああいう手合いは、簡単には諦めないだろうね。まず間違いなく、また来ると思っていいと思うよ」


 虚白は、去る時、「今日は」と口にしていた。柚希のことも、自分の所有物のように扱っていたし、確かにすぐに諦めてくれそうになかった。


 柚希は、会議が始まってからずっと、俯いていた。長い髪が顔の横にたれて、その表情は確認できない。けれど、明るい顔をしてはいないであろうことは、わかっていた。


 私は柚希の横顔をちらりと確認して、口を開く。


「でも、ひとりなのであれば、そんなに心配しなくてもいいですかね」


 けれど、太郎さんは、私の言葉に顔を横に振った。


「いいえ、雛さん。よく考えてください。彼は、柚希さんの前ではずっと、良い人のフリをしていたはずです。ですが、今回それをかなぐり捨てた……。開き直っていましたよね。つまり、その手段によって柚希さんをコントロールすることをやめたということになります」

「それって……」

「ええ、きっと、なりふり構わずに、あの手この手で柚希さんを連れ戻すつもりでしょうね」


 ぞっとした。いい人のフリをやめたということは、どんな非道な手段でも使えるようになった、という意味でもある。


 つまり、危険度としては寧ろ、高くなったかもしれないのだ。


「気を付けてくださいね、雛さん。貴女も今回、虚白さんに存在を認識されたはずですから。もしかすると、貴女を狙うようなことも、あのひとであれば、するかもしれません」


 太郎さんの発言は、私の肝を大いに冷やしたのだった。

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