表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/47

第32話 正体

 私は柚希の言葉に同調して、話の続きをすることにした。


「この件は一旦保留にして、話を戻しましょう。……柚希を探していた私は、彼が家の裏の山に行ったのではないか、と気が付いて、すぐに向かいました。なんとか山を登っていくと、山頂で柚希を見つけたので、声を掛けました。すると、柚希の背後にあったはずの影が、柚希の中に吸い込まれていくのが見えて……。その後は、皆さんも知っての通りです」


 わざわざ首を絞められた、と言って、柚希に下手な罪悪感を抱かせるのも可哀想だ。そう思って、最後の部分で言葉を濁す。


「俺のうしろに影が……。それが、俺を操ったのか?」

「恐らくね」


 当事者であるのにも関わらず、一番情報量が少ない柚希が、なるほどと腕を組んだ。


「私たちの方も、大して情報量的には変わらないわね。雛ちゃんの様子がおかしかったし、夜になっても帰ってこなかったから……。知り合いに雛ちゃんの居場所を占ってもらったのよ。頂上に着いたら、様子のおかしな柚希ちゃんはいるわ、死にかけている雛ちゃんはいるわで、びっくりしたわぁ。ダメよお、雛ちゃん、あんまり一人で無茶しちゃ」


 身振り手振りをしながら語る侑李さんに、頭が下がる思いだ。


 何も言わずに出てきてしまったのに、心配してわざわざ探しに来てくれたのだ。申し訳ない限りではあるが、今回は本当に助かった。


「そうよ、雛ちゃん。夜の山道なんて、危ないんだから。一人でなんて、余計にだめよ」


 澄子さんにも念を押されてしまって、素直に反省する。


 心配してくれるひとたちがいるのだから、急いでいたにしろ、あまり無計画で動くべきではないだろう。今後は気を付けたい。


「重要なのはここから先だ。特に犬っころ、よーく聞きな。僕たちが見たのは、実体のないあやかしだった。だからこそ、あれはキミの体に憑くことができた。それに、見たところ、キミの体から出てきた影には耳があった。だからあれは恐らく、犬のあやかしだ。実体のない、他人に憑くことのできるあやかし。僕たちは、それは恐らく犬神であると判断した」


 柚希は、首を傾げた。


「犬神は俺だけど……。実体がないとか、体に憑くとか、よくわからないな。犬の姿に戻ったり、邪気を払ったりすることは出来るけど……」


 心底不思議そうな顔をする柚希に、そんなものなのか、と思った。


 けれど、私とは対照的に、他のひとたちの表情が、柚希の発言で曇ったのがわかった。


「……そういえば、柚希さんは捨てられていたのでしたよね。やはり、自分が何者なのかは本能でわかりましたか?」


 不意に、黙り込んでいた太郎さんが、そんなことを尋ねた。柚希は気恥ずかしそうに頭を掻く。


「実は、俺も自分が何のあやかしなのか、わかっていなかったんだ。だって、捨てられる前の記憶が全然なかったから……。だけど、虚白と元主人は、俺を犬神だって言った。だから俺は、自分は犬神なんだってわかった」


 その話を聞いた瞬間、もしかして、という考えが頭をもたげた。その思考が的外れか否かを判断するために、あやかしたちの顔を見回す。すると、一同揃って渋面をしていた。


 やっぱりそれって、もしかして嘘を吐かれていたら、わからなかったり、する……?


 どういうメリットがあってそんなことをするのかは、わからない。


 けれど、それができるかどうかでだけで考えてみると、できる可能性は否定しきれないように思えた。


「……そうか。まあ、兎も角、僕たちは少なくとも犬のあやかしだと思った。恐らく犬神であろうと考えている。……キミの知っている中で、その元主人に関わる犬のあやかしに心当たりはあるかい?」


 珍しく深く突っ込まなかったいつきさんの問いに、柚希は間髪入れずに答えた。


「それなら、虚白だ。あいつは、狛犬だから。でも、相手が犬神なら、俺以外に心当たりはないし、関係ないだろ?」


 その場にいた、柚希以外の全員が、言葉を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ