第17話 弟みたい
「お待たせ致しました」
声をかけると、青年は無言で体を起こした。その目が潤んでいるように見えたから、もしかすると、まだ熱は下がり切っていないのかもしれない。
これを食べたら、薬を飲んでもらわないと。
昨日は意識が朦朧としていたから、半ば無理やり薬だけ飲んでもらった。けれど、今日はお願いすれば自分で飲んでくれそうだ。
私は、レンゲを青年の手に手渡そうとする。けれど、青年の目がまたぼんやりとしてきているのを見て、やめた。私が食べさせてあげたほうがよさそうだ。
レンゲで雑炊を掬って、何度か息を吐きかける。それから、レンゲを青年の口元に持って行く。
「口を開いていただけますか? あーん、と」
「あ……」
あーん、の意味は伝わっていなかったかもしれないけれど、私の顔を見て、真似をするように青年は口を開いてくれた。なんだか幼い子供のような仕草に、小さく笑い声を零してしまった。
「ふふ、お上手ですね。はい、あーん」
言いながら、青年の口の中にレンゲを入れる。
すると、条件反射のように青年が口を閉じたので、レンゲを引き抜く。
青年は、もぐもぐと何度か口を動かして、ゴクリと喉を鳴らした。特に抵抗なく食べてくれたのを見て、鳥の雛を連想した。
お口に合ったかな?
心配になって顔色を見ると、青年はまた「あ」と言いながら口を開いたので、破顔してしまった。美味しかったみたいだ。
青年が口を開くたびに、雑炊を食べさせ続ける。
時間はかかったが、彼は用意した分を全て平らげてしまった。
大分回復していたようだ。
雑炊を食べさせ終え、薬を飲ませると、一仕事終えた後の達成感を感じた。
妙な満足感を感じながら、食器を片付ける。すると、布団の間から、あのアイスブルーがこちらを覗いているのが見えた。
どうかしたんですか、と尋ねる代わりに、ニッコリと笑って見せる。すると、アイスブルーは一度布団の中に消えて、それからもう一度姿を見せた。
「……ありがとう」
小さく聞こえた声に、私はまたきゅうんと胸が鳴る音が聞こえた気がした。
どうしてこんなに、お礼は素直に言ってくれるのかな! 正直、ぶっきらぼうな物言いとのギャップが凄くて、妙に可愛いからやめてほしい!
返事をするのも野暮な気がして、私は微笑み返しただけで、あとは食器を下げるために、無言で部屋を出る。
階段をとつとつと下りながら、二度も言ってもらえたお礼の言葉を思い返した。
恥ずかしそうに、不本意そうに、それでもお礼を言うんだなあ。
そう考えると、青年は、自分よりずうっと幼い少年であるかのような気がしてくる。年下っぽいというか、可愛げがあるというか……。
「あ、弟っぽい……?」
思いついた言葉に、自分で思わず笑ってしまった。けれど、なかなか的を射た表現なのではないだろうか。




