表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/47

第17話 弟みたい

「お待たせ致しました」


 声をかけると、青年は無言で体を起こした。その目が潤んでいるように見えたから、もしかすると、まだ熱は下がり切っていないのかもしれない。


 これを食べたら、薬を飲んでもらわないと。


 昨日は意識が朦朧としていたから、半ば無理やり薬だけ飲んでもらった。けれど、今日はお願いすれば自分で飲んでくれそうだ。


 私は、レンゲを青年の手に手渡そうとする。けれど、青年の目がまたぼんやりとしてきているのを見て、やめた。私が食べさせてあげたほうがよさそうだ。


 レンゲで雑炊を掬って、何度か息を吐きかける。それから、レンゲを青年の口元に持って行く。


「口を開いていただけますか? あーん、と」

「あ……」


 あーん、の意味は伝わっていなかったかもしれないけれど、私の顔を見て、真似をするように青年は口を開いてくれた。なんだか幼い子供のような仕草に、小さく笑い声を零してしまった。


「ふふ、お上手ですね。はい、あーん」


 言いながら、青年の口の中にレンゲを入れる。


 すると、条件反射のように青年が口を閉じたので、レンゲを引き抜く。


 青年は、もぐもぐと何度か口を動かして、ゴクリと喉を鳴らした。特に抵抗なく食べてくれたのを見て、鳥の雛を連想した。


 お口に合ったかな?


 心配になって顔色を見ると、青年はまた「あ」と言いながら口を開いたので、破顔してしまった。美味しかったみたいだ。


 青年が口を開くたびに、雑炊を食べさせ続ける。


 時間はかかったが、彼は用意した分を全て平らげてしまった。


 大分回復していたようだ。


 雑炊を食べさせ終え、薬を飲ませると、一仕事終えた後の達成感を感じた。


 妙な満足感を感じながら、食器を片付ける。すると、布団の間から、あのアイスブルーがこちらを覗いているのが見えた。


 どうかしたんですか、と尋ねる代わりに、ニッコリと笑って見せる。すると、アイスブルーは一度布団の中に消えて、それからもう一度姿を見せた。


「……ありがとう」


 小さく聞こえた声に、私はまたきゅうんと胸が鳴る音が聞こえた気がした。


 どうしてこんなに、お礼は素直に言ってくれるのかな! 正直、ぶっきらぼうな物言いとのギャップが凄くて、妙に可愛いからやめてほしい!


 返事をするのも野暮な気がして、私は微笑み返しただけで、あとは食器を下げるために、無言で部屋を出る。


 階段をとつとつと下りながら、二度も言ってもらえたお礼の言葉を思い返した。


 恥ずかしそうに、不本意そうに、それでもお礼を言うんだなあ。


 そう考えると、青年は、自分よりずうっと幼い少年であるかのような気がしてくる。年下っぽいというか、可愛げがあるというか……。


「あ、弟っぽい……?」


 思いついた言葉に、自分で思わず笑ってしまった。けれど、なかなか的を射た表現なのではないだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ