デート?いいえ?視察です!
晴れた空、心地よい風、石畳の道を、華やかな装飾が施された漆黒の馬車がレストランの前で止まる。
扉が開かれ、先に降りたエリオットが、レオナに手を差し伸べた。
「レオナ嬢。お手をどうぞ」
きらっきらの日差しを浴びたエリオットの金髪が、風が吹いてふわりとなびく。
(いい仕事するなぁ……風)
エリオットに見とれてるほんの数秒で、意識がようやくはっきりしてきた。
(あれっ!?さっきまで私、御屋敷にいなかった⁉)
大変なことにほとんど記憶がない……。
いつのまにか一緒に馬車に乗り、市街まで出てきてしまっていた。
(意識が途切れないように、隣でシエルが背中をつねってくれてたことだけは覚えてる……!)
「レオナ嬢?」
「あ、失礼しましたっ」
振動してしまう手の震えをなんとか抑え、エリオットの手を取って、降り立つ。
(エリオット様に触れる機会、増えすぎでは……!?)
目の前には、最近流行り始めた、野菜を中心とした料理のレストラン。
フレンチさながらの美味しくてヘルシーな料理が食べられると、評判の店だ。
「ここは……」
「ご存じでしたか?」
「はい! 西方で修行してきた料理人がいると有名ですよね。来てみたかったんです」
エリオットが知っていて嬉しい素振りをするので、合わせて返事をする。
「それはよかった。私も来ようと思ってたんです。でも、なかなか休みが取れなくて」
「ご多忙でいらっしゃいますものね……」
王位継承の儀の準備も、まだまだ終わってない職務に積み重ねられ、エリオットの苦労が見えて、胸が切なくなる。
そこで、ピンと来た。
(そっか、これは視察ね!?)
本当は視察に来たかったけど、アルバート達のせいで増えた仕事で来れなかったんだわ。
さすがに、昨日の今日なら、公爵家へのフォローにエリオット様が回されて、当たりまえ。
婚約宣言したばかりの私と来れば、周りに『実は、前から仲良かったんです♡』という、アピールも、視察もできて、一石二鳥。
(私の体面も気にしつつ、仕事の話も潤滑に済ませようとするなんて…エリオット様の気遣いと、社畜具合が申し訳ない)
ここまでエリオット様を社畜精神にさせた、アルバート&ミレイユ…!許すまじ……っ!
「このデート!立派につとめあげてみせますわ」
「それは、頼もしい」
心の中で一気にやる気と使命感が燃え上がる。
「では、参りましょうか」
「はい!」
純白のクロスが敷かれたテーブルに、上品な磁器と銀のカラトリーが並ぶ。
中央には、オレンジと黄色と緑の花が綺麗に飾れていた。
お皿には、旬の野菜が使われた、これまたカラフルな料理が品よく収められてる。
銀のフォークをそっと差し入れ、一口食べると、繊細な旨味がじんわりと広がった。
「とっても美味しいですわ……!」
「本当に」
向かいの席で食べてるエリオットも同じように頷いてる。
(昨日まで表立って関わることもできなかったのに。エリオット様のこの対応……。婚約者の立場ってすごいわね……)
急な申し出を嫌な顔せず受け入れて、対応する。小さなころから王族としてだけではなく、アルバートにも振り回された結果だろうか。
エリオットの柔軟さを利用しているのは事実なので、胸が痛い。
シェフからの説明を一緒にエリオット様に聞きながら、一通り食事を終える。
すると、デザートを待っているときに、エリオットが少し申し訳なさそうに口を開いた。
「急に付き合わせてしまってすまない。しかもシェフの話に夢中になってしまって……」
少し顔を赤くしてる、エリオットに胸があったかくなる。
「いえ。大変興味深いお話でしたもの!調理法であれだけ苦みをなくせると知れば、市場の価値が変わってきますよね」
「そうだな。たくさん収穫できて、栄養価も高いのに、生で食べにくいから、消費できにくかったが、この調理法を広めれば……あっ、すまない。つい仕事の話をしてしまった」
さっきも同じことで反省したはずなのに、また口にしてしまったと、エリオットは申し訳なさそうに眉を寄せ、気遣うような眼差しを向けてくる。
「気にしないでください!私はエリオット様のお力になれるのが嬉しいです」
「レオナ嬢は寛容だな……どうして今まで誤解していたのか」
悪役令嬢として、アルバートとミレイユの邪魔をしていたころのことだろう。
(エリオット様ルートにしないため、なんて言えない…!)
「あー……まあそれは、成り行きといいますか……!」
アルバートとミレイユについていくエリオットを陰ながら、応援してたから、余計神出鬼没に思われてしまいそうだ。
(エリオット様には会わないようにしてたけど、あのバカたちは絶対エリオット様に愚痴ってるだろうし……!)
よし、はぐらかそう!
「と…とにかく、これからは私がそばにいますので」
ほほほ……っと公爵令嬢らしく笑顔を浮かべて、誤魔化すことにする。
これは、心からの本心だ。
「私とのデートなんて嘘つかなくていいくらい、エリオット様が好きな時にどこへでも出かけるようにしますからね」
「レオナ嬢。それは……」
エリオットが何か訂正しようとしたその瞬間、店内にふわわんと間延びした声が響く。
振り返るとそこには、今収穫してきたばかりのような野菜をカゴに持った土埃っぽさが溢れる子どもたちと、困ってる様子のシスターらしき女性をひきつれたミレイユがいた。
「子どもたちが一生懸命作りました!こちらのお店で使っていただけませんか?」
空気を読まないと書いて、ミレイユといいます!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
次回、ざまぁの予感です!
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