来ちゃった♡には、心の準備が必要です
「え⁉」
こっちから出向くつもりだったのに⁉
「あと1時間もないかと…!こんなことなら夜更かしさせるんじゃありませんでした……!」
「ちょっちょちょっ……!私も心の準備が……!会う前に精神統一をっ……」
昨日も行く前に、緊張しないように3時間はプロポーズの台本を読んでいた。
「ダメです!心の中でして下さい!」
シエルが手を叩いた合図で、侍女たちがいっせいに動き、あれよあれよとお風呂やエステ、着替えとメイクを施される。
1時間後、シエルたちの手によって、昨日より磨かれた私が出来上がった。
「ひ、ひどい……もうエリオット様来ちゃうじゃない!」
今日話す予定の台本を胸の前で抱きしめて、潤む瞳でシエルを見た。
シエルは頭を冷やすためにと、お茶ではなく冷たいお水を注いでくれている。
「台本で婚約者と喋る令嬢なんて聞いたことありませんよ。昨日だけかと思ったら……もう」
なんと、シエルは昨日は、プロポーズだし仕方ないか……と許してくれてただけだと言う。
「これからエリオット様とお会いするときに、毎回するつもりですか?」
「ええ!もちろん」
当たり前でしょ!と曇りなき眼で言い返すと、シエルは非情にも台本をシュパっと取り上げた。
「却下です。公爵令嬢たるもの自信を持ってお話下さい。いつものように!」
(ひどい!!)
「第二皇子殿下がお着きになりました」
小さなノックと共に侍女が告げてくる。
(わざわざ本当に会いに来てくれた……!私に会いに……!)
「レオナ様?」
「すぐにお迎えに上がります」
嬉しすぎて液体化したレオナを、ひょいっと持って、侍女に返事をしたのはシエルだった。
「急にすまない」
「とんでもございませんわ。ご足労ありがとうございます」
「実は今朝は兄上と少し揉めてしまって」
「まあ……アルバート様が?」
大体察しはついてる。おおむね自分の派閥の令嬢と結婚しろとでも言ってきたのだろう。
「大したことではないのだが、君にイヤな思いをさせてしまうといけないから」
「そんな。わざわざお気遣いありがとうございます」
エリオットは連れてきた執事風の男性の方を向き、手をあげ、トランクを開けさせる。
長めの黒い髪が耳にかけてる。メガネの奥に光る紫の瞳が宝石みたいに見えた。
(あれ……?この人ってエリオット様の護衛騎士じゃない?)
あの村でも、外でも見た人と同一人物だ。着てる服が違うだけで全然違う人に見えた。
「昨日の話だが、私なりに具体的にまとめてきた」
ずらっとテーブルに並べられるのは、エリオット様が今まで尽力してきた研究の成果たち。
「レオナ嬢の期待に添えるかはわからないが……」
(謙遜してる推しもいい……)
「レオナ嬢?」
「し、失礼いたしました。拝見いたします!」
よろしければこちらもと、昨日作成した計画書をシエルから渡してもらう。
パラパラと資料を読む中、ちらっとエリオットに視線を向ける。
(書類を読んでるだけなのに絵になるわ……しかも私との『未来』についての書類って!)
完璧な外面の内心、きゃあきゃあとはしゃいでいることが、後ろで立つシエルにはバレてる気がした。
「私の活動について、ここまで理解してくださっているとは……。やはりレオナ嬢は素晴らしいですね」
一通り確認し終わると、エリオットは穏やかな笑みを浮かべた。
「光栄です」
「ただ……」
「ただ?」
少し困ったように首をかしげるエリオットに、思わずつられて首をかしげてしまう。
「レオナ嬢だけが私のことばかり、知っているのは少々不公平かなと思いまして」
「!」
(隠密使ってストーカーしすぎてるのバレてる⁉)
「いつか夫婦になるのですから、私たちの関係は対等でなければいけませんよね?」
にっこり優しく微笑むエリオットに、してもない浮気がバレた人間のように言い訳しなきゃいけない気がした。
「そ、そんなつもりはないのです。ただ殿下の素晴らしい活動で感謝する人々の声が聞こえてくるものですから!」
「……だとしても、これではいけませんね」
ふむ……と少し考える素振りをしたあと、エリオットはレオナに優しくも極上の甘い顔を向けた。
「もっとあなたのことを知らないと」
(かっ…………!)
まぶしさに、手で顔を隠してしまって、不覚にもエリオットの言葉がちゃんと頭に入ってこなかった。
「この後のご予定は?」
「特にございません」
震える声で返事をすると、よかったと、エリオットがニコリとしてるのがなんとなく伝わってくる。
「ではデートしませんか?」
デート!デート!?
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
次回は、エリオット目線のお話です!
レオナにデートを申し込む理由とは?
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