アストレア公爵家は攻略済みです!
「なにもそんなに肩を落とさなくても。目的は達成したではありませんか」
公爵家へ向かう馬車の中、シエルはいつものように無表情でレオナに声をかけた。
「そぉぉぉなんだけどぉ……」
(なんであそこで『雇う』とか言っちゃったの⁉バカなの私⁉あれじゃエリオットを利用してのし上りたい悪役令嬢みたいに思われるじゃない!)
転生してから散々付き合わされてきたシエルは、慣れたようにレオナの頭をポンポン適当に叩き、カバンから大量の書類を取り出した。
「元気出してください。レオナ様。これからが忙しいんですから」
「わかってるわよぉ」
シエルから渡された書類をパラっと目を通し始める。
「先ほどのレオナ様の求婚、そして国王陛下夫妻の決定直後から、全ての計画が動き始めました。公爵家の事業はこれからエリオット様のバックアップとして、食料供給、水産資源、森林保全をベースに、医薬品の開発を進めてまいります」
これまで不動産とホテル事業をメインに行っていたアストレア家からは、大規模な改革となる。
公爵家主体の事業ではあるものの、悪役令嬢の私が主体だからと渋っていたアルバート側の関係者たちのサインが押されてる。エリオットの名前を聞いてから、手のひらを返してきたようだ。
「さすがエリオット様。圧倒的な信頼ね」
エリオットの積み重ねた努力に、うっとり微笑んでしまう。
「これからはレオナ様の信頼にも繋がりますよ」
無表情ながらも声色で、シエルが期待を込めていることがわかる。
(悪役令嬢として、今まで散々振り回しちゃったものね)
「これから……もっと、もっと忙しくなるわ。ついてきてねシエル」
「仰せのままに」
家に戻り、お母様とお父様に求婚が成功したことを報告し、盛大なお祝いを受けた翌朝。
早朝から私は、出かける準備をしていた。
(エリオット様のことだもの、きっと詳しい話をもっと詰めたいはず......!これから考えていた計画書を持って……と、台本のチェックも忘れずにね!)
昨日の夜、久しぶりに徹夜で作った。求婚の緊張感の開放からか、どっと疲れがでていたけど、『エリオットの婚約者』の肩書を手に入れた嬉しさでアドレナリンが分泌されて頑張れた。
王宮を訪れるお手紙は昨日帰ってすぐに出している。窓からシエルが受け取ったのが見えたので、他の侍女にお願いして着替え始めていた。
ノックが鳴り、シエルが入ってくる。
「失礼いたします。レオナ様」
「急いで準備してくださいませ…!エリオット様が来られます!」