聖女様も立場を弁えてくださいませ
ミレイユの目には少しだけ涙が溜まってる。
「私が気に入らないのは、残念ですけど仕方がないことだとは思います……。けれど、なんでも自分通りにするのはよくないです」
「はい?」
自分の思い通り、それはミレイユを表す言葉にぴったりだ。
「ミレイユ様。昨日の話を聞いてませんでしたか?」
「!」
「私どもアストレア家は、今後エリオット様のバックアップに努めます。農園の知識と経験のある者なら、歓迎して向か入れるのは当然ではないですか」
「あ……」
ミレイユにもエリオットが農業を推進していることは、ほんの少しは覚えているようだ。
「アルバート様と結ばれて嬉しいのはわかりますけど。今後皇后になるのですから、きちんと周りに耳を傾けていただけなければ困りますわ」
ああ……もう貶める必要もないのに。
(当たり前の注意なんだけど…、悪役令嬢のような振舞いみたいに見えちゃう自分が悲しい)
はあとため息とついた溜息を扇で隠して顔をあげると、エリオットと目がパチッとあう。
「話は終わったかな」
(エ……っ)
すると、「エリオット!」とミレイユがエリオットに駆け寄って、腕を触る。
「あなたもここに来ていたのね」
ミレイユが目を輝かせる。
「ミレイユ様、お付きのものはどうしました?」
「ああ、外で待ってもらってます。ねえ…エリオット。どうしてレオナさまと一緒にいるのですか?」
(あれ……?)
笑顔だけど、エリオットの目が笑ってないことに気づいた。
気づかないミレイユは、きっといつもエリオットにこの調子で話してるんだろうなと、わかるくらいすらすら話を続ける。
「昨日の婚約も突然でしたし……。もしかしてなにか弱みを……っ」
「ミレイユ様」
エリオットの声に力が入る。
「私の婚約者を貶めるような発言は控えてください」
笑顔は保ったままのエリオットに、ミレイユがひゅっと息を呑む音がした。
「護衛を置いてくるようでは困ります。今は皇太子妃なのですから」
「ご、ごめんなさい」
「騎士や侍女にも再教育が必要ですね。もちろんミレイユ様にも」
注意されるのは想定外だったようで、ミレイユはあれ?あれあれ?と混乱してる。
「子どもたちの生活を自立させる……その心意気は大変すばらしいです」
「で、でしょう?私もそう思って……」
褒められたから、怒られてるわけではない……とミレイユは少しホッとするも、
すぐにその希望は消え去った。
「ですが、皇后としては失格です」
「え」
「王位についた兄上と共に皇后になるのでしたら、物事の順序と、周りを困らせない術を改めて学んでいただかなければなりません。不用意に民を惑わせぬように」
子どもたちの野菜だって、ちゃんとTPOを考えて、ミレイユが連れて来れば、あんな風に周りから冷たい視線を浴びせられることもなかった。
支配人だって営業時間内だからこそ、ドレスコードのある店に来ているお客様を優先しなければならない。
「ご、ごめんなさい……。すぐに勉強しますわ。エリオットもだから一緒にーー」
手を伸ばそうとするミレイユから、エリオットはそっと身をかわし、私のそばへ。
「申し訳ございません」
肩を寄せられて、いつのまにかエリオットの胸にぽすっと頭をつけている。
「私は婚約者とのデート中ですので」
(エ………エエエエッエエエ!?)
婚約者宣言、ご馳走様です!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
ミレイユに冷たくするエリオット...!
運命が変わりはじめたことは確かなようです
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