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聖女ミレイユの偉大なる御心は理解できかねます

 レストランにいる他の客からも、ミレイユはよくない注目を浴びていた。


 子どもたちもシスターも、場違いな場所に来ているのではないか、帰ったほうがいいのではないかと、不安そうだ。


 子どもたちとシスターの服装を見るに、ここから一番近いエリード孤児院だとわかる。


「聖女様、お話はどうか別室で……」

「なぜ?この子たちが作った野菜に、何か問題でもあるというのですか?」


 支配人らしき人物が、子どもと客たちを気遣い、別室に誘導するものの、ミレイユは動かない。


 ミレイユは、小さな5歳くらいの女の子の肩を持って後ろに回った。


「種から一生懸命育てましたのよ。毎日水やりも頑張ったわよね?」


「うん!」と頷く女の子と、優しく麗しい聖女は絵になるけども……。


「ミレイユ様、お気持ちは嬉しいのですが、正面からではなく勝手口からでよいのです。他の方の迷惑にはなってはいけませんし……」


 シスターがおろおろとミレイユに伝える。


「まあ……」


 ミレイユにわかってもらえそうな雰囲気を感じて、支配人が少しホッとした顔を見せたのも束の間。


「シスター……!ここであなたが諦めてどうするのですか?」


 ミレイユは意味の分からない説教を始めた。


「労働の対価を得るのは当然の権利です……!今ここで諦めなければ、子どもたちの努力の結晶は、このお店を始めとしたあらゆる店舗で使っていただける未来があるかもしれないんですよ⁉」


(今、まさにその未来をあんたが潰してるけど!?)



「申し訳ございません。少々お待ちください」



 同じく様子を見ていた、エリオット様が、静かに席を立つ。


(私としたことが……!)


「ダメです!」

「!」


 レオナは素早く立ち上がり、エリオット様の肩を両手で掴んで、また座らせた。


「エリオット様は、ここで待っていてください!」


 勢いよく肩を押してしまったせいで、顔が近い。

 ぽかんとしてるエリオット様を背に、揉めてるミレイユたちの元へ。


「とってもいい品質でしょう⁉これから専属で契約を結んでいただければ、子どもたちのためにもなりますのよ」

「ですから……」


 大人たちの話し合いの行方を見守る子どもたちの表情には、不安の色が滲んでる。


(いい加減に……しなさいよ!)


 周囲の客たちから向けられる冷ややかな視線に、子どもたちは肩をすくめ、小さく身を寄せ合っていた。


「そのお野菜。アストレア家で買い取りましょう」

「レオナ様……!?」


 驚くミレイユを無視して、支配人とシスターの方を向き、話を進める。


「お話の途中で申し訳ございません。子どもたちのお野菜、遠くからでもみずみずしい新鮮さを感じましたわ。私が買い取ってもよろしくて?」


「も、勿論でございます…!ありがとうございます……!」


 レオナの纏うドレスと、「アストレア家」の名を耳にした瞬間、シスターと支配人の表情が引き締まり、ぴしゃりと背筋を正した。


「私どももそれで問題ございません」


 支配人がお辞儀で会釈し、レオナに敬意を表す。


「ありがとう」

「お待ちください……!」


 にっこりと微笑むと、なぜかミレイユが突っかかってくる。


「なにかしら?」

「レオナ様……!慈悲は素晴らしい心ですが、これではこの子たちの自立に繋がりません!今日レオナ様が野菜を買っただけでは、何の解決にもならないのですよ」


 せっかく話がまとまったところだったのに。ただで終わらせてくれないのが、ミレイユだ。


「今日だけなんて、一言も言っていませんが?」

「えっ?」


「今後は継続して野菜を買いましょう。きちんと収穫と品質に応じた料金を支払います。必要な物は、すべてアストレア家でご用意しますわ」


 いきなり決まった話に、子どもたちとシスターが目を丸くしていた。


 ミレイユが子どもたちに報酬を継続的に受け取らせようとしたのは、あながち間違ってる話しではない。


 孤児院は寄付で成り立つところも多く、それ以外で作った品物は基本的にバザーや市場などで安く買いたたかれるか、自分たちで消費するものだけになってしまう。


 寄付が少なくなれば、子どもたちの生活に関わってくる重要な問題だ。


(工業品や工芸品の手作業は、とにかく数が強いられる。とくにレベルが高いものが求められるから、子どもたちは簡単な手仕事しかできず、お金も稼げない)


 でも、農業となれば話は別だ。

 売れる、食べれる。生活も食事も安定する。


「そ、そんなよろしいのですか?」


 シスターに、もちろんと優しく微笑む。


「あとで公爵家から使いの者を送ります。シエル」

「はい」


 控えていたシエルがすぐさま返事をする。


「頑張って野菜を育ててくれた子どもたちに、お菓子を買いに行ってくれるかしら」


 お菓子の言葉にすぐに子どもたちが反応するのが微笑ましい。

 だけど、私の視線に気づいてすぐに気まずそうにしてしまう。


 さっきミレイユに注目させられた女の子の前で、目線を合わせてしゃがむ。


「そのお姉さんが、不安な思いをさせてごめんなさいね。これは私からのお詫びと、美味しい野菜を教えてくれたことのお礼よ」


 ぱっと子どもたちの顔が明るくなった。


「ありがとうございます……!」


 シスターは何度も頭を下げながら、シエルに誘導されて、子どもたちと手を繋ぎ笑顔で帰っていく。


「お騒がせしてごめんなさいね」

「とんでもないです……!お手数おかけしてしまい申し訳ございません」


 支配人が今度は私に90度で謝罪する。ずっと無視されていたミレイユがしびれを切らしたように声を張り上げた。


「レオナさま……!どうしてそんなに自分勝手なのですか?」




聖女はいつも正しくて当たり前なのでしょうか?


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

エリオットがそろそろ出番を待ってます!

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