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over again  作者: れもすけ
序章
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1

初めての投稿です。至らない点は多々あると思いますが……よろしくお願いします。


 夜明けとともに出発した。

 アルバイト先の先輩がくれたお古のiPodをポケットに、枕がわりにしていたボディバッグを背中にしょって。

 線路沿いをひたすら歩く。

 お父さんが商店街の夏祭りでもらったシャツを着て、五年間履き続けたスニーカーを履いて。


 前だけを見て、ただひたすら歩く。

 日が昇り、真上に来て、斜めに落ちていく。

 午後三時を過ぎて最初に行き着いた駅から電車に乗った。目的地に着くのは、早過ぎても遅過ぎてもいけない。夏の日暮れ時を計算して、明るいうちに電車を下りるのだ。

 夏休みを間近に控えた平日、乗り合わせた客は数人。大きな紙袋を足元に置いたおばさん、居眠りをするおじいさん、ガムを噛みながら携帯電話をいじるおにいさん……みんな、どこに行くのだろう。


 電車を下りてホームに立つと、少しだけ緊張した。

 できるだけ自然に、さりげなく振る舞わなくてはいけない。

 怪しまれないよう、イヤホンを耳に入れ、ずっとiPodを操作する振りをして歩いた。音の出ないプレーヤー、電池はとっくに切れていた。


 目的の場所は駅前の地図で確認した。

 バスやタクシーは使えない。

 まだ時間はあるけれど、あまり日が暮れてから徒歩で向かえば不審に思われるかもしれない。

 閑散とした駅前通りを行くときも、iPodに触れ続けた。

 幸い、警察官やボランティアに声をかけられたりもしないまま、最初の目的地である公園にたどり着く。


 波の音が聞こえる。

 風が強い。

 ゆっくりと、何気ないふうを装ってあたりを見回し、公衆トイレに飛び込んだ。

 思いのほかきれいに掃除され、明るいことに驚いた。誤算だ。でもここはれっきとした観光地なのだから、あたりまえなのかもしれない。

 とにかくここで、夜がくるまで待機。


 虫の音がにぎやかで、なのに自分の心臓の音と呼吸が騒がしい。

 あたりに人の気配がないことを確認して、公衆トイレから出た。

 公園の中から、そこへ行けるはずだ。

 でも見つかってはいけない。ボランティアが巡回しているというから、ここが正念場だ。

 波の音が大きくなるほうへ、ゆっくりと進む。

 草を踏みしめる音が響かないよう、でも発見されないよう、急ぎながらも細心の注意をはらった。


 そこに立つと、身体が浮き上がりそうな高揚感を覚えた。

 雲に覆われた空は真っ黒で、ずっとずっと続いているはずの海も真っ黒で、吹きつける風に混じる潮のにおいだけが迫ってくる。

 足元に――足元の、ずっとずっと下に打ちつける波。暗闇の中で白く砕けて散っていく。

 ボディバッグを下ろす。イヤホンをiPodに巻きつけ、バッグの外ポケットにはさんだ。


 全財産がここに入っている。なんの誇張もない。

 すべてがここにある。

 紙幣が一枚もない財布。

 たまたま持っていた地理の教科書。

 ハンドタオル。

 そして高校の学生証。『佐々木弥生』。入学式の日、お母さんが書いてくれた。


 自分が確かにここへ来たとわかるように、できるだけ目立つ場所に置き、風で飛ばされないよう大きめの石を積み、固定する。

 砂防林が絶えず風に鳴り続け、人がすぐ後ろに立っても気づかないかもしれない。

 もう一度そこに立ち、ひとつ深呼吸をする。吐き出したのは、ため息だったかもしれない。


 ジャンプするほうがいいのかな。

 前向きに倒れるべきかも。

 少しだけ悩んで――両脚で、地面を蹴った。





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